12月~2月は、1年のうちで最も死亡者数が増える時期です。その要因はさまざまですが、風邪やインフルエンザといった季節性の病気にかかりやすくなることが大きな原因とされています。
また年末年始にかけて飲食の機会が増えるため、糖尿病や痛風といった持病が悪化し、死亡するケースも少なくありません。そうした看取りの際、亡くなった方を美しく、生前のように整えて見送る技術「エンゼルケア」が注目されつつあります。
人が亡くなったとき、日本では「湯灌(ゆかん)」といって遺体を入浴させる習慣がありました。この湯灌はほとんどが家族の手で行われていたのですが、病院で亡くなる方が多くなったため、この習慣はだんだんと廃れてきました。
その代わりに登場したのが「エンゼルケア」です。エンゼルケアは「逝去時ケア」とも呼ばれ、患者さんが亡くなったときに看護師が行います。エンゼルケアとは一般に、アルコールに浸した脱脂綿で身体を拭く「清拭(せいしき)」のことを指しますが、医療器具を外した後の手当や治療によってできた傷の手当などもこれに含みます。
患者さんは、状況によっては亡くなったあとでも医療器具の跡が目立っていたりすることがありますが、このエンゼルケアを施すことによって、「きれいな姿で見送ってあげられた」と家族の気持ちを少しでも楽にすることができるのです。身体を拭くだけではなく、男性であればヒゲを剃る、女性であれば死化粧をするなどもエンゼルケアに含まれます。
エンゼルケアというと納棺師の仕事と同一視されやすいですが、実際には役割が少し違います。エンゼルケアは遺体からの感染症を予防する上で大切な作業です。遺族や葬儀担当者などへの感染症リスクを避けるためにも、きちんとした知識を持った看護師がエンゼルケアにあたります。
対して納棺師は、遺体の腐敗を遅らせる作業を担当します。防腐剤を塗ったり、経帷子などの衣装を着せるほか、火葬までに腐敗が進まないようにドライアイスを使うこともあります。
また、表情を整えるために含み綿を口の中に入れたりもします。この含み綿は臭いを抑える役割もあるのです。さらに、遺族の気持ちを少しでも穏やかにするため、死化粧を施すのも納棺師の仕事のひとつです。
看護師が行うエンゼルケアは感染症リスクを避けるための消毒、納棺師の仕事は遺体の腐敗が進まないようにするための作業と考えると分かりやすいかもしれません。
病棟に勤務していれば、どうしても患者さんのご臨終に立ち会うことがあるでしょう。看取りの看護として、できるだけのことをしてあげたいと思うはずです。エンゼルケアの一環として患者さんにきれいに死化粧をすることで、遺族の心の傷を和らげることができる場合があります。
エンゼルケアをより的確に行うためには、エンバーミング(遺体衛生保全)の知識とスキルを持っていることが大切です。エンバーミングとは、遺体の腐敗が進んでしまわないように適切な消毒や保存処理を行う技術のことです。
このエンバーミングを行う人をエンバーマーと呼びます。エンバーマーになるためには、IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)の資格を取得する必要があります。
エンバーマー養成学校は全日制の2年間のコースで、この養成学校を卒業すると「IFSA認定」の資格を得ることができます。また、平塚市にある「日本ヒューマンセレモニー専門学校 エンバーマーコース」でもエンバーマーとしてのスキルを学ぶことができ、修了後は資格試験を受けることが可能です。
具体的なエンゼルケアのメイクの方法としては、何といってもその人らしさを残すことが大切。女性の場合は口紅の色なども遺族の方と相談し、患者さんが生前好きだった色を付けるのが望ましいです。
亡くなった方の皮膚はもう再生しないため、かなり乾燥しやすくなります。ですから乾燥を防止するためにも、クリームか乳液を丹念に付けてあげましょう。
次にファンデーションですが、お肌が極度に乾燥しているようであればワセリンと混ぜて塗っていくことで、ふっくらとつややかな印象を与えることができます。リキッドタイプやパウダーファンデーションではなく、クリームファンデーションがおすすめです。お肌にのりやすいように、まず手の甲にファンデーションを取って温めてから塗ればムラになりません。
日本では、以前は自宅で息を引き取るのがほとんどでした。1951年の時点では国民の82.5%が自宅死で、病院で亡くなるのはわずか9.1%に過ぎませんでした。ところがその後病院死が急速に増え、現在では病院で亡くなる方のほうが自宅死よりも多くなっています。また高齢化の影響で、病院での看取りも今後増えていくでしょう。
このような状況から、病棟看護師は基本スキルのひとつとしてエンゼルケアを行うことも必要になってくるでしょう。遺体を清拭するケアは看護師なら一度は行ったことがあると思いますが、生前の患者さんに近づけるような死化粧を施すスキルは、看護師全員が持っているわけではありません。
ただ、今後は需要が増えていくことは確かなので、改めてエンゼルケアについて考えておくといいかもしれませんね。
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