勤務以外で緊急時に対応した看護師は守られるのか?日本における「善きサマリア人の法」に該当する法律について

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看護師のみなさんは、勤務中ではない場所で急病人や怪我人に出遭った場合、どう対応していますか?

アメリカとカナダでは、「善きサマリア人の法」という法律があり(※)、「救助行為を勧奨するために、救助者は救助の結果について、重過失がなければ責任を負わないとする」とされています。

つまり緊急時に適正・最良と思う救護・救命行為を行った場合、その結果に対して救護者は責任を追わなくても良いということです。

日本では、緊急時の救護者の責任に関して、どのような法律があるのでしょうか?

※アメリカでは州によって規定があり、内容には違いがある。


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■日本の「緊急事務管理」という民法


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日本で「善きサマリア人の法」に該当するものというと、「緊急事務管理」という日本民法があげられることが多くあります。

その中で、民法698条緊急事務管理規定では、
「管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」 と言っています。

かなり簡単に言い換えると、
「悪意なく最善だと思う救命行為を行なったのであれば、緊急事態(生命の危機など)に直面している人を助けた場合に生じた損失は、賠償しなくていい」ということですね。

民法第697~702条に記載があるのですが、実際の裁判では、この民法のみで守られるとは考えづらい部分があります。

それは、この民法の解釈が曖昧な部分があることや、裁判においては民法より判例や学説の影響力が強いことなども挙げられます。しかし、判例や学説も多いとは言えず、緊急事務管理が認められた判例があまりないということもあります。

■「善きサマリア人の法」が必要とされる現代の日本


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上記の理由から、日本にも「善きサマリア人の法」の必要性があるとの声が高まっています。
とくにこれから挙げる日本社会の変化は、その必要性を高めています。


□超高齢化社会


超高齢化社会では、単身で暮らす高齢者も増加しています。単身世帯の高齢者の体調が急に悪化するケースでは、どうしても近隣の他者が救命行為や応急手当などをする可能性がでてきます。


□急病による救急車の要請増加


総務省消防庁の「平成28年版救急・救助の現況」によると、急病による救急要請は増えており、救急自動車を利用した人は1995年から比較して2015年で1.7倍へ増えています。
事故による出動より、急病による出動が増加していて、中でも高齢者の比率は上がっています。
上記同様、単身世帯の高齢者も多いことがうかがえ、やはり他者による緊急時の対応が必要なケースが増えています。


□AED(自動体外式除細動器)の普及


公的な場所でのAEDの設置は進み、救命の場でAEDを使用する機会は設置台数に伴って増えています。
AEDの機能はかなり良くなっており、わかりやすい操作で一般の人でもAEDをすぐ使用できるようになりました。そのため救命の場で医療従事中以外の人が除細動をこなうことも多くなっています。
救命の必要な現場での除細動は、人命救助の大きな助けになる一方で、十分な注意を要するリスクを伴う行為でもあります。

こうしたことからも医療機関以外でも救命・救護の必要性は増えており、その際に救命行為、救護を行った人を守る法律の必要性も叫ばれているのです。

■刑事責任はあるの?


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今まで民事に関してみてきましたが、それでは刑事責任はどうなのでしょうか?

刑事の場合は、前提としてその「過失」が故意であったのかどうかがポイントとなることが多いようです。刑法では、故意の過失に対して刑罰を与えることがあります。

この場合、刑法209、210条などの過失致死傷罪(かしつちししょうざい)が該当するかと思われますが、よく耳にされる「業務上過失致死傷罪」の「業務上」という部分は、どう解釈するのでしょうか?

「業務上」とは職業などの「仕事中」という意味ではなく、「社会生活の中で継続・反復して行なう活動」を指します。

また「過失」に関しては、一般の方と医療従事者の方では知識に差があるため、救護を行った人の知識のレベルにおいての「過失」という判断になるのかもしれません。
ただし故意の場合です。

業務上過失致死傷害の場合は、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処すると刑法にはあります。

■戸惑うことなく人命救助のためにできることができる社会へ


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ここまで業務外での緊急時の救命行為および救護を行なう必要性が高まっていることと、救命行為・救護を行なう人を守る法律についてみてきましたが、看護師のみなさんはどう思われたでしょうか。

看護師という医療に従事する身であっても、白衣を脱いだら、家族があり、未来があるひとりの人間です。困っている人を助けたい思いは看護師のみなさんがもっていらっしゃると思いますが、自分の身を守ることも大切なことです。

助けたいけど戸惑ってしまうという環境は、健全な社会とは言えません。また悪意なく善意で救命行為をした人が責任を追求される社会というのも悲しいことですよね。

目の前で困っている人を戸惑わずに自分ができる最善のことを行える、そういう環境を守るためには、曖昧な民法のみでなく、国の制定する法律が必要なのではないでしょうか。

そのためにはまずは幅広い人々の間で、身近な人との間で、この議論を高めていくことが第一歩になるのかもしれませんよ。


総務省消防庁の「平成28年版救急・救助の現況」
法務省ホームページ

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