
看護師3、4年目になると、同期が次々に転職するのを見て「自分はこのままでいい?」と感じることが増える。総合病院で働くめろんさんも、3年目にキャリアを悩み、転職を考えた時期があった。
そのとき取った行動は、まず悩みを紙に書き出すことだった。さらに周囲の看護師や転職エージェントから情報を集め、「マインドマップ」で整理していく。その先に選んだのは、転職ではなく今の職場で働き続けることだった。
それから7年。現在10年目のめろんさんに、キャリアに迷ったとき、どのように自分と向き合って納得できる選択につなげてきたかを伺った。

看護学生時代に知り、興味を持った手術室看護(オペ看)の仕事。新卒で希望通り配属されためろんさんは、「オペ看として長く働きたい」「専門性を高めたい」という思いで働き始めた。一通りの診療科の手術を経験し、できることが増えると、仕事が楽しくなった。
ところが3年目、プリセプターとして新人を指導する立場になり、壁にぶつかる。
自分では教えたつもりでも十分に伝わっておらず新人のミスにつながることがあった。指導方法を工夫してもベテランスタッフから否定されることもあったという。
「新人にはまずは自分で考えて行動してもらい、適宜一緒に振り返りながら改善点や別の方法を伝えていました。でも、ベテランから『その方法はよくない』と言われたんです。新人と振り返える時間を設けたいとお願いして『忙しいのによくそんなことが言えるね』と言われることもありました」
いつまでも新人扱いされることも悩みの種だった。手術室は中堅・ベテラン層が厚く、3年目でも「経験の浅い側」として扱われた。
夜勤は手術室看護師2名体制だったが、ペアになったベテラン看護師から「経験の浅い新人スタッフと2人きりで臨時手術の対応をするのは不安」と言われたことすらあった。
「いつになったら新人扱いされなくなって、自分の看護を主体的に発揮したり、リーダーシップを取ったり、自分が思う教育をできたりするのだろう、と悩むようになりました」
一方、術前訪問で病棟へ行くと、同期が先輩看護師と対等に意見を交わしている。転職した看護学校時代の友人からは「前よりも職場の人間関係に恵まれている」と聞いた。
「私も楽しく働けるようになりたい」
オペ看は「やりたい仕事」ではある。それでも今の職場で働き続けていいのだろうか。
めろんさんは、自分のキャリアについて考えるようになった。
キャリアについて悩むようになっためろんさんが、まず始めたのは本を読むことだった。
もともと読書が好きで、看護書に限らず、ビジネス書や自己啓発書など、気になる本にも手を伸ばした。

そのなかで出会ったのが、頭の中にある情報や考えを紙に書き出して整理する方法だ。一般に「ブレインダンプ」と呼ばれる整理術で、近年注目される、頭の中にあるものを書き出して整理する「ジャーナリング」にも通じる手法である。
「不安を箇条書きで紙に書き出して、一度、自分で客観的に理解する。その上で、それを解決するために何ができるのかを考えるようにしました」

たとえば
そうした問いを紙に書き出すうちに、自分の迷いが見えてきた。
自分は、今の職場が嫌だから辞めたいわけではない。なりたい看護師像があり、そこに近づくために今の職場に残るべきか、環境を変えるべきかを迷っていたのだ。
さらにめろんさんは、職場の同僚にも悩みを相談した。自分一人で考えていても、得られる情報に限界があると感じたからだ。
同じ職場の人だからこそ分かり合えることも多く、話すだけで気持ちが軽くなった。
一方で、転職経験のない人も多く、「つらいよね」と共感し合うだけで、その先の解決策までは見つからないことも多かった。
そこで、職場の外にも目を向けた。看護学校時代の友人に転職後の働き方を聞き、職場の知人を通じて「転職した人はどんな職場に移ったのか」「今はどのように働いているのか」と情報を集めた。
話はどれも参考になった。ただ、返ってくるのは「人間関係が良くなった気がする」「残業が少なくなった気がする」といった感覚的な言葉が多く、自分も環境を変えたほうがいいのかまでは判断できなかった。
より具体的な情報がほしい。そう考えためろんさんは、転職エージェントも利用することにした。
印象に残っているのは、求人を紹介される前に、「どのくらいの給料を最低限確保したいか」「どんな生活を送りたいか」といった希望や価値観を一緒に整理してもらったことだ。
給料や休み、通勤時間といった条件だけでなく、「将来的にスキルアップにつながる職場か」「長く働き続けられる環境か」など、思っていた以上に自分がさまざまなこだわりを持っていたことに気づいた。
さらに、手術室看護師という専門を変えずに、年収や人間関係など希望条件に合う職場を探せることも知った。
「転職するとしても手術室看護は続けたいと思っていました。相談してみると、手術室という条件で求人を絞り込めることを知りましたし、『その条件なら、こんな働き方があります』『自宅から通える範囲なら、こういう病院があります』と具体的な選択肢を教えてもらい参考になりました」
転職先を探すことは「今の職場から逃げること」ではなかった。むしろ前向きに、この先どう働きたいのかを考える機会になったとめろんさんは振り返る。
友人や転職エージェントから情報を集めるなかで、自分の知らなかった働き方や選択肢がたくさんあることを知り、めろんさんの視野は広がった。今度はそのなかから何をどう選ぶかだ。
そこで役立ったのが、本を通じて知った「マインドマップ」だった。頭の中にある情報やアイデアを、関連づけながら枝分かれさせて「見える化」する思考整理法だ。

めろんさんは「キャリアへの不安」を起点に「転職すべきか」「今の職場で続けるか」と枝を伸ばした。さらにそこから「何が不満か」「どんな環境なら安心して働けるか」など、集まった情報から浮かんだ考えや疑問を関連付けながら広げていった。
「枝分かれさせる際には、選択肢の先で自分はどうなるのか。そういうことを深掘りしながら、紙に描いて整理しました」
選択肢を整理していたある日、他部署で働く仲の良い同僚と話していて、はっとさせられることがあった。
めろんさんは手術室看護の「麻酔がかかる直前まで患者さんと直接関わり、強い不安や緊張を抱える患者さんの手を握ったり、声をかけたりしながら、その人が安心して手術に臨めるよう支えること」にやりがいを感じていた。ただ、同僚からは「手術室にだけは異動したくない」と言われた。
「私は手術室看護が好きで、もっと専門性を高めたいと思っていたので、好き・嫌いや得意・苦手は、本当に人それぞれなんだと改めて気づかされました」
人によって仕事への感じ方が違うのであれば、誰かにとっての良い選択が、自分にも合うとは限らない。ならば、周囲の意見に流されるのではなく、自分にとって何が大切なのかを基準に選ぶ必要がある。めろんさんはそれを「自分の判断軸を持つこと」と捉えた。
さまざまな情報に触れて選択肢を広げる「広い視野」と、そのなかから何を選ぶのかを自分の価値観に照らして考える「自分の判断軸」。この2つの大切さに気づき、めろんさんなりのキャリアへの向き合い方が見えてきた。
自分なりのキャリアへの向き合い方は見えてきた。ただ、慌ただしい日々を過ごすなかで、すぐに結論を出せたわけではなかった。
そして4年目、めろんさんは初めて診療科のサブリーダーを担当することになる。医師との調整、手術で使用する器材・医材が確実に準備されているかの確認など、それまで以上に手術を支える責任が大きくなった。そのなかで、再び転職を考えることが増えた。
「そのときは、職場環境や給与への不満ではなく、初めて経験するリーダー業務や、自分が全うしなければならない責任の重さに悩んでいました。目の前の責任から逃げたかったのかもしれませんね」
今の職場で働き続けるか、それとも転職するか。最終的に判断基準にしたのが、「今ここで辞めたら、自分はどう感じるか」だった。
「サブリーダーの翌年には、リーダーになると分かっていました。今転職したら、リーダー業務も新人指導も途中でやめてしまう。後悔する気がしました」
リーダー業務をひととおりこなし、新人指導もできるようになるまで経験を積む。「ここまではできる」と自分で言えるものを持てれば、その後に職場を変えるとしても、強みや自信になる。
転職ではなく、今の職場で経験を積む。当時のめろんさんにとって、それが自分で納得して選んだ道だった。
翌年、めろんさんは診療科リーダーになった。リーダーの主な業務は、手術で使用する器械が当日確実に準備されるよう中央材料室と連携すること、執刀医との事前調整、当日の進行が滞りなく進むようチームメンバーの役割を采配すること、そして新人指導である。
サブリーダーとして一年かけて覚えてきた業務ではある。それでも、いざ主体的に担うとなると、簡単ではなかった。それでも、「ここまではやる」と自分で目標を決めていたことで、目の前の業務に一つずつ前向きに向き合えたという。
そんななかで、3年目のプリセプター時代に抱いていた「自分が思う教育」が形になる出来事があった。
「指導を担当した一部の看護スタッフに『リーダーとして継続してほしい点・改善してほしい点』のアンケートを取ったのですが、『押し付けない指導が良かった』『尊重して関わってくれるのが嬉しかった、継続してほしい』という声があったんです。自分の指導方法は間違っていないと自信を持てました」
本人が考え試行錯誤する中で、自分なりの看護を見つけていく。奇しくもそれは、めろんさんが3年目のプリセプター時代に実践しようとしていた看護に近いものだった。「いつになったら新人扱いされなくなるのか」と悩んでいためろんさんは、5年目になりリーダーシップを発揮しながら、自分の信じる指導をできるようになった。
「安全という結果が担保されるなら、過程は本人に任せてもいいと自信をもって思えるようになりました。誰でも、『こういう看護をしたい』『患者さんにこう接したい』という思いを持っています。そういう本人の思いを尊重したいんです」
自分なりの指導のあり方が見えてきたことで、働くことに楽しさを感じられるようになった。
キャリアに悩むと、「今の職場で働き続けるか、転職するか」という二者択一で考えてしまいがちだ。しかし実際には、部署異動という選択肢もあれば、今の職場でもう少し経験を積んでから次を考える方法もある。
めろんさんが大切にしているのは、どの選択肢が正しいかではなく、その選択が自分の望む未来につながっているかを考えることだ。
「『未来の自分がどうなっていたいのか』を考えてみる。そこまで想像するのが難しければ、『自分はどういうときに幸せなのか』『どんなときに楽しいと感じるのか』から考えてみてもいいと思います」
結論を急ぐことよりも、納得して決めること。めろんさんはそこにこだわる。
「自分が納得できないまま選んでしまうと、また壁にぶつかったときに、『やっぱり転職したほうがよかったのかな』と悩んでしまうと思うんです。転職しても、『やっぱり自分に合わない』と悩むかもしれない。一度しっかり考えて、自分なりに納得して決めることが大事だと思います」
働き続けるなかで、めろんさんの「キャリア」の捉え方も変わってきたという。
以前は、「役職が上がる」「他部署を経験する」といった目に見える変化こそがキャリアを積むことだと考えていた。しかし次第に、そうではないと思うようになる。続けてきたからこそ、できるようになったこともたくさんあった。
「新人指導を経験したことで、他者の視点に立って物事を考えられるようになりました。『どうしてこういう行動をとったのだろう』と想像できるようになったし、以前よりも『相手に伝わる教え方』を意識できるようになりました」
相手が何を考え、何を大事にしているかが分かると、周りの人と調整しながら働くことも楽になったという。異なる教育観の擦り合わせに苦しんでいた3年目を思えば、大きな変化だ。
こうしたことすべてが、「自分のキャリア」だとめろんさんはいう。そして経験を重ねるなかで、「手術室看護の教育に携わりたい」という新たな目標もできたと話す。
「気がつけば、手術室看護師として10年になります。この間、転職はしませんでしたが、何度も立ち止まって、納得できる選択肢はどれか、自分なりに考えてきました。振り返れば濃い10年でした。経験してよかったし、自分の人生にとってもプラスだったと思います」
めろんさんが実践した「頭の中を紙に書き出す」方法は、今日からでも気軽にできると思うので、試してみてくださいね。
書き出してみたときに、「結局、自分は何が嫌なんだろう」「本当にやりたいことってどうやって決めたらいいんだろう?」と、まとまらないこともあるかもしれません。
そんなときは、レバウェル看護のアドバイザーに一度話してみてください。
「どんな働き方をしたいか」「何を優先したいか」の整理を一緒にして、話すうちに自分が大事にしたいキャリア、働き方が見えてくるかと思います。
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