窓の外は木枯らし。真っ青な青空に寮の庭に咲く紅色の梅が揺れています。
「燃え尽きたってこういうこと言うのかなぁ……」
国家試験をどうにかこうにか終了した私、児玉のぞみは、すっかり抜け殻状態です。
「燃え尽きるにはまだ早いんじゃないの?」
寮の同部屋のひかりは、そう言いながら古い教科書を広げていました。
「ちょっとひかり、まだ勉強する気? 私はもう当分、活字なんか見たくないからね」
「何言ってんの。のぞみも早く荷造りしないと退寮に間に合わなくなるよ」
「そっかぁ。こことももうすぐお別れかぁ。……いろいろあったよねぇ……」
私がぼうっとしていると、ひかりはこれから忙しいイベントが次々にくると言いました。
「まずは寮の送別会でしょ、それからこわーい謝恩会、そんで最後に卒業式」
「ええ~。国試の後なんだから、ちょっとは休ませて欲しい~。ん? なんで謝恩会が怖いのよ?」
私たちの通う『つばさ病院付属高等看護学院』には、卒業生がお世話になった先生方に挨拶とお礼を兼ねて行う『謝恩会』という行事が恒例になっています。
謝恩会には、看護教員から院長先生・理事長先生などのお偉い先生方から病棟実習などでお世話になった師長・看護師さんまで出席なさるとのこと。
つまり、お行儀よく決して粗相のないようにしなければならないということなんです!
「やだぁ、そんな行事…」
「のぞみ、そんなこと言ってちゃダメだよ。謝恩会で配属先の目処がつくんだからね!」
こんな一大行事が待っているなんて!? 私は今にも泣き出したい気分になりました。
そして謝恩会当日。
超高級ホテルで行われるため、私とひかりはレンタル衣装できらびやかにドレスアップ。実習、実習の日々で、したこともなかったメイクをして、バッチリ決まった顔が嬉しくて、何度も鏡で見てしまいました。
そして、これまた慣れないヒールでホテルに到着。同級生たちもみんな着飾っていて、お互いを褒め合いました。やっぱりちょっと楽しいかも♪
でも、すでに到着されていた来賓の先生方が品よく待ち受けている姿を見ると、急に緊張感が。
会場には豪華なお料理や美味しそうなジュースが用意されていて、あれもこれも心ゆくまで堪能したい!……ところですが、まずは挨拶回りです。早く終えて、食べに来ようっと。
私はまず、一番お世話になったと言ってもいい循環器病棟の師長にご挨拶に伺いました。
「あら、児玉さんね。実習と卒論の時は本当にがんばりましたね」
そうなんです、私は卒論の時に循環器の実習だったんです。ヤバイな、いつも眠そうにしていた記憶しかない……(汗)
「師長、お世話になりました。私もどうにか卒業できそうです」
カチコチに緊張していると師長がにっこり笑いました。
「あなた、卒業後は?」
「はい!つばさ病院に就職させていただく気持ちでいます!」
国試に受かればね、と心の中でつぶやきながら言いました。
「そう、それは良いことね。あなたの卒業を楽しみにしていますよ」
「ありがとうございます!」
眠かったことはバレてなかったのかな。ホッとしてペコリとお辞儀をすると、その場を離れました。
すると突然、グイッとひかりに腕を掴まれました。ひかりはびっくりしたような、なんだか怖い顔です。
「のぞみ! いいの? あんたね、配属先が決まったも同然なんだよ!」
「へ……?」
きっと私はマヌケな顔をしていたに違いありません。
「あんたは循環器行きなんだって!」
「え? えぇぇぇ!!! ウソぉ~!!!」
「バカ! 声が大きいよ!」
私は唖然呆然としてしまいました。
だってこの私が、心電図とか太い点滴注射とかすることになるんですよ?! 心臓とか血流なんて直接命に関わるような大変な場所へ、看護師スタートから行くなんて……。それに、それに、循環器は急変が多くて、ご飯を食べる暇もないってよく聞くんです!!
私、何か悪いことでもしてしまったのでしょうか?
このドジでオッチョコチョイな児玉のぞみには、まったくコトのいきさつがわからないのでした。
どうなる私!? どうなっちゃうのぉ~??
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