こんにちは。つばさ病院、新人看護師の児玉のぞみです。私が受け持ち患者=麻生さ
んを担当することになって、2日目の朝。今日は麻生さんの検査です。
「児玉さん、ずいぶん早いわね。あなたもしかして、あまり寝てないんじゃない? ヒドイ顔よ」
なぜ、わかる!? 私のプリセプター及川先輩は心配性でけっこう鋭いんです。
実は昨日の夜、『心臓カテーテル検査』の予習と復習をしたんだけど、寝ようと部屋を暗くしてもそのことで頭がいっぱい。
朝方やっと浅い眠りが訪れたけど、あまりよく眠れなくて、出勤時間より早くナースステーションに到着しちゃいました。
及川先輩はいつものことのように夜勤のみんさんとご挨拶。先輩っていつも何時に来てるんだろう?
「児玉さん、麻生さんは検査日で不安だろうから、ご挨拶に行きましょう」
「あ、はい」
私は及川先輩について麻生さんの病室へと向かいました。
「児玉さん、私が来るまで、ご挨拶に行かないつもりだったでしょう?」
「先輩、なぜそれを……!?」
「昨日、麻生さんに言われたことは忘れて、今日、あなたができることを精一杯やりなさい。私もついてますから」
「はい……」
初めての受け持ち患者さまの麻生さんは、若くて背の高い男性。私は初めての受け持ちで張り切り過ぎて空回り。麻生さんから「担当者を交代できないのか」と言われた上、年下の彼に「まあ、がんばって」と言われたんです。とほほ。
麻生さんの病室に入ると、彼はもう起きていました。「麻生さん、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」と頑張って質問すると、「ああ、今日は検査で寝られるだろうから夜更かししちゃったよ」という麻生さん。麻生さんもやっぱり不安なんだ。何か安心させるようなことを言わないと……。
でも、また見当違いなこと言ったら何を言われるか……。
私が困っていると及川先輩の察知センサーが働いたのか、代わりに「ダメですよ、寝不足は。検査の予定は11時ですので、それまで少しはお休みになってくださいね」と言いました。すると麻生さんは「俺より児玉さんに言った方がいいんじゃないの? 児玉さんも寝不足でしょ? 顔、ヒドイよ」とまた私のことを……。顔、ヒドイって?!
私はまた頭に来て、「いいえ。私はグッスリ寝ましたよ!」と頭をぶんぶん振りました。「勉強してました」なんて言ったら、また頼りないって思われるんだろうし……。ナースステーションに戻り、申し送りを終えると、先輩から心臓カテーテル検査の看護について話があり、私は昨夜のノートを見ながら必死で確認。
話を聞いているうちに、「心臓にカテーテルを通すのか……麻生さん、不安だろうなぁ…。ちゃんと何か言えばよかった」と反省。
でもアンギオ室から患者さん入室のコールが鳴り、麻生さんを連れていく時も、結局、私は「待ってますから、がんばってくださいね」としか言えませんでした。
うぅ、なんか私まで不安ななんとも言えない気持ち……。麻生さんの顔、「不安」って書いてあったよなぁ…。
そんな私に及川さんは「麻生さんが戻ってきたらできることを考えなさい」と言いました。検査が終わった麻生さんをストレッチャーで病室まで移動し、看護師6人で力を合わせてベッドへ。
検査で鼠径部を穿刺したので、身動きがとれない麻生山は左鼠径部に止血用のテーピングと重りの砂嚢がのせてあります。そんな姿といつもの麻生さんとのギャップに、私は胸がつまりました。
だから何度目かのバイタルチェックで、麻生さんが「あー、腹減った…」と言った時はホッとしました。でも…、
あれ? カテ食だよね?
また頭が真っ白に!? 落ち着けのぞみ。しっかりしろ!
センサーの働いた及川先輩がコソッと「食事OKだけど、一応ドクターに確認して」と耳打ち。
私は「お食事食べてもいいか、ドクターに聞いてきますね」と言って、担当医の了解を得てから配膳室の麻生さんのカテ食を確認して病室に向かいました。
麻生さんはそうとうお腹が空いていたようで、仰臥位のままでちょっとギャッジアップしたベッドでおにぎりを口に運びました。
「熱っ!あっつぅー!」
その大声に私はびっくり! 先輩がすぐに「どうされました?」と飛んできました。麻生さんはおにぎりを離し、「これ、めちゃくちゃ熱ちぃーよ」と指を舐めています。
「え? おにぎりはもう冷めてるはずなんですけど…」という及川先輩の目の前で、おにぎりは湯気を上げています。
及川先輩がゆっくりと私の方を振り向きました。「す、す、すいませんっ! 温かいものを召し上がったら、気持ちが落ち着くと思ってレンジでチンしちゃいました!」及川先輩は「火傷させてどうするのよ!」と言うと、手早く処置。私はただそれをベッドの横で見ているほかありません。
最悪だぁ…私。看護師に向いてないのかも……。
麻生さんの検査結果は、危惧された疾患の所見は無く、翌日には退院されることに。
私じゃ不安だと言っていた麻生さん。本当にその通りで、お見送りで何を言われるのかとビクビク。
でも、検査結果が良かった麻生さんは晴れやかな顔で、及川さんにお礼を言いました。私は一歩下がって、「謝らなきゃ……」と緊張。
「児玉さん」
う、きた。私は思わず身構えました。
「あれはちょっと熱すぎて、マジでビビったよ」
「も、申し訳ありませんでした……」という私の声は消え入るようです。
「でもさ、温かいもので落ち着いて欲しいっていう気持ちは、ちょっと嬉しかったよ」「ふへ?」怒られると思っていた私は、意外な言葉に麻生さんをきょとんと見つめました。
すると麻生さんは「児玉さん、ありがとう」と言って歩き出しました。
……!?
私は麻生さんの背中に慌てて「ありがとうございますっ! お元気で!」と呼びかけました。
すると麻生さんは振り向いて「お大事にじゃないの、そこ? ま、頑張って」と笑って言うと去っていきました。初めての受け持ち患者さんに、こんな言葉をいただけるなんて、私は……、私は……。
及川さんが「よかったわね」と優しく言ってくれたので、もう涙腺は崩壊寸前です。
「先輩、私、これからも頑張ります!!頑張って、患者様を安心させる看護師になります!!」と言うと、及川さんはいつも困り顔で「とりあえず今日はちゃんと睡眠取ってね」と言ってくれました。
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