病院や施設などで働いていると、認知症患者さんと出会う機会も少なくないですよね。認知症患者さんの中でも、とくに抑うつ傾向のある患者さんや暴力行為・問題行動のある患者さんへの対応は難しいもの。
認知症の患者さんのためを思い行なっている看護なのに、その患者さんから怒鳴られたり、泣かれてしまったりすると、看護している側はやるせない思いにさいなまれたり、自分の行なっていることに自信が持てなくなってしまい、看護師を辞めてしまうことがあるほど。
これは高齢化が進む日本でも、大きな問題となっています。
そんな中、注目を集めているのが「ユマニチュード」という認知症患者さんへの接する姿勢です。「この方法を用いてみたところ、認知症患者さんが問題言動を起こさなくなった」と話題になり、発祥の地であるフランスを始め、世界中に広がりを見せています。
今回は、まだご存知ない看護師さんにぜひ知ってほしい、「ユマニチュード」についてまとめました。
医療現場や福祉の現場で勤務していると、認知症患者さんの苦悩や、その症状が進行していく過程などを目の当たりにされる機会があるかと思います。
とくに病院へ入院された認知症の方は、環境の変化によるストレスや、病気や怪我で寝たきりになるせいで、認知症が進行してしまうケースが多いと言われています。
看護師は、このような認知症患者さんと向き合い、処置やケア、介助などを行う機会が多くあります。
しかし、認知症について、どこまで理解できているのでしょうか?
認知症患者さんが介助を拒否される時、興奮されている時、何を思い何を感じているのか? 少し前までは会話可能だった患者さんが、だんだんコミュニケーションが取れなくなっていく時、患者さんは何を思っているのでしょうか?
認知症患者さんは今日覚えたことを、明日には忘れていることが多々あります。
どんなに伝えても、頭で理解して受け入れることができないこともよくあります。
けれど、認知症患者さんから「感情」が消えることはありません。
だからこそ、認知症患者さんへ「優しさ」を伝えることや、「あなたを尊重している」という思いを伝えることで、関係性を築いていくことはできるのです。
ユマニチュードとは、認知症の本質を理解し、それを活用して、患者さんとコミュニケーションを図る技術です。
この方法を実践すると、抑うつ傾向にある方や暴力的な行動を取る認知症患者さんにも、こちらの思いを伝えることができ、患者さんの精神を安定させ、看護に協力的になってもらえる可能性が高まります。
つまりユマニチュードとは、“優しさで相手とつながる方法”なのです。
ユマニチュードの実践にとって、何よりも大事な3つのことがあります。
それは、「見つめる」、「話しかける」、「触れる」ということです。
これらが”優しさ”を相手に伝える方法であり、ユマニチュードには、これらの組み合わせによる技術が約150通りの方法があると言われています。
認知症の患者さんを「見つめる」ことはとくに重要です。
認知症の患者さんは認識できる範囲がとても限られており、視覚範囲に関してもかなり狭いことがわかっています。
認知症の患者さんに何かをする場合、まずは相手の視覚範囲内に入り、自分の存在を認知してもらうことから始める必要があります。この際の理想的な距離は約20センチ。
近づく前に、近づく人がいることを伝えるように、ノックや声かけも必要です。
そして、「見つめる」ために相手と同じ目線の高さを意識します。
すぐに視線をそらすのではなく、できるだけ長く視線を合わせることも大切です。
そして、はっきりとわかりやすい笑顔の表情を作ってください。笑顔は自分が思っている以上に大きな表情を意識することが大切です。
「目は口程に物を言う」と言います。この時、認知症患者さんが理解しやすい「笑顔」であると同時に、自分が「してあげる」という上からの意識ではなく、「人として互いに平等な存在である」という認識でいることも大切です。
そして、急に処置や介助に入るのではなく、まずは1分、コミュニケーションだけの時間を取ります。その1分だけで、その後の行為がスムーズにできるようになります。
「見つめる」とは、相手と自分の間に関係性を作り出すことです。関係性ができていないままケアを始めると、認知症患者さんは問題行動を起こす可能性が高くなります。
「これから自分に何かをしようとしている相手がどんな人物なのか」、認知症患者さんには、それを事前に知り、安心感を持つことがとても重要なのです。
認知症の患者さんの中には、反応が乏しい方やコミュニケーションがまったく図れない方もいます。また、拒否されている場合もありますし、感情を爆発させているときもあります。
例え、反応がまったくない場合でも、ユマニチュードでは「話しかける(声かけ)」の重要性を説いています。話かける時は、できるだけポジティブな言葉や内容を選び、相手が理解しやすい短いセンテンスを使ってください。相手の褒めるところを見つけて口に出すという行為が、認知症患者さんにとって「自分という人間の価値を理解してくれる人」だという認識をもたらし、心を開いてくれます。
「見つめる」ことにプラスして、「話しかけ」ていきます。 その際は、ゆっくり、はっきり話すことが大切です。
また今、行なっている行動をつねに口に出して、相手に伝えることも大切です。
行動を説明するのは、硬い説明ではなく、相手に語りかけるように。「今からこれを、こうしていきますからね」など、相手に伝わるように話していくことが大切です。できた事に対し、「うまくできましたね」と称える言葉も言うように意識するとより良いです。
これは相手に行動の必要性を伝えるだけでなく、心を通わせながら処置や介助を行なっていくという、「寄り添い」の意識が表現できます。
看護をするために「話しかける」というより、「話しかける」ために看護をしているくらいの認識で行うと、認知症の患者さんにも”優しさ”が伝わると思います。
認知症患者さんの身体に触れると、抵抗したり、声をあげたり、暴れてしまうことがあるかと思います。
それには理由があり、「急に触れられたと感じた(看護側は急だと思っていなくても)」、「誰かわからない人に触れられる」、「怖いと感じる触れられ方をする(掴む、抑えるなど)」ということがあげられます。
しかし、「見つめる」、「話しかける」ことがしっかりできている状態で、「触れる」と逆に、認知症患者さんに安心感を与えることができます。
この時に特に気を付けて頂きたいのは、掴んだり、押さえつけないこと。
そのような触れ方をされると、認知症患者さんは恐怖を感じ、余計に抵抗し、興奮してしまいます。
触れる時は、できるだけ撫でる、さするなどの触れ方で、”優しさ”を伝えるよう心がけます。
これは認知症患者さんとの実際的な距離だけでなく、心の距離を縮めるのに大きく役立ちます。
安心感を持った場合、認知症患者さんがこちらの行動に協力的になってくださる、受け入れてくださる可能性が高まり、暴力行為などもかなり減らすことができます。
病院や施設などでは、限られた人員で多くの患者さんや利用者さんを看ることが多く、時間的に余裕がないことも多いかもしれません。
しかし、こちらのペースで、こちらの都合でことをなそうとすると、かえって認知症の患者さんが抵抗したり、非協力的になったり、時には暴力行為をしてしまうことがあります。
忘れてはならいことは、どんな症状の認知症の患者さんであっても、一人の人間として尊重すること、気持ちを察することであり、それを頭でわかっているだけでなく、ひとつひとつの行動で能動的に示していくことです。
もし、あなたが病院に行った時、なんの声かけもなく素早く処置を進めらたなら、どう感じるでしょうか? あなたの部屋にノックも挨拶もないし誰かわからない人がいきなり入って来たら、どう感じるでしょうか?
認知症であっても同じ人間です。感じる心は同じなのです。
「認知症の患者さんの立場を察する」、「認知症の患者さんの視線に立つ」ということはとても重要です。どれだけ献身的な看護をしていても、相手の立場に立ってみるとその思いが伝わって来ないことがあるかもしれません。
例えば、マスクをしていると、笑顔が見えないので何を考えている人かわかりません。横になった患者さんを見下ろしていると、患者さんは圧迫感を感じ、心を開きづらいかもしれません。
「見つめる」、「話しかける」、「触る」という行為を日頃から行えていると思っている看護師であっても、相手が「見つめられた」、「話しかけられた」、「触れられた」と感じているかどうかは、また別なのです。
ユマニチュードの根底は、どんな状態になっても人として尊厳を持って、向き合って接していくことです。つまり、看護の精神と同じものが基軸となっています。けれど、実践の場でユマニチュードができているかというと、実は難しい部分があるのではないでしょうか?
何かをする時、マスクで笑顔を隠していませんか? 患者さんの腕を掴んだり、身体を抑えることはありませんか? 患者さんの目線まで下がって笑顔を相手が認識してくれるまでしっかり見つめていますか?
問題行動があるという認知症患者さんに、ユマニチュードの「見つめる」、「話しかける」、「触れる」という1分のコミュニケーションを行うだけで、9割の患者さんの問題行動が改善されると言われています。
もし、問題行動が起きているとするならば、看護師がどんなに献身的に行動していても、相手に伝わっていない、ユマニチュードができていない可能性があるかもしれません。
ここではご紹介しきれませんが、ユマニチュードには、他にも多くの方法があり、そのすべてが認知症患者さんの心(感情)に触れることがベースとなっています。
人がその人を生きることが、今後、高齢化社会が加速していく日本全体にとっても必要とされている認識なのではないでしょうか。
そして、看護する側が、悩み、傷つくことなく、患者さんの笑顔が見れるようになれたなら、頑張っている看護師が辞めていくという悲しい事態を食い止められるのではないでしょうか。
最後に、今、認知症看護に悩んでいるみなさんへ、先日放送されたNHKのクローズアップ現代の動画をご紹介したいと思います。
看護師の苦悩、認知症患者さんとの葛藤、そして、ユマニチュードにより驚くべき改善を遂げる認知症患者さんの姿に、看護の新しい可能性が見えてくると思います。
あなたが一生懸命、認知症患者さんに接していても、問題行動を起こされてしまった経験があるのなら、ユマニチュードを知って、あなたのその優しさが、正しく患者さんに届く方法を身につけて下さい。看護される側もする側も、気持ちよく過ごせる魔法の方法を、ぜひ、知って、実践してみてくださいね。
※HUMANITUDEおよびユマニチュードの名称およびそのロゴは、 日本およびその他の国における仏国SAS Humanitude社の商標または登録商標です。
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