平成28年5月8日、第6回『忘れられない看護エピソード』表彰式が東京都渋谷区のJNAホールで開かれました。
『忘れられない看護エピソード』とは、日本看護協会が主催するコンクールです。現役看護職の方や患者様をはじめとする一般の方から、医療の現場で思い出に残った出来事を募集し、応募作品の中から最も優秀なものを選出しています。
第6回コンクールには、看護職部門に1,063作品、一般部門に2,242作品もの応募がありました。
最優秀賞は、一般部門では髙野裕子さんの『静かな勇気』、看護職部門では庄﨑美恵さんの『専属ナース物語』が受賞しています。
内館牧子賞は、一般部門で岡森陽子さんの『味蕾』、看護職部門で中村凡子さんの『「教える」よりも「聴く」』が受賞しました。
表彰式では、“看護の日”PR大使の女優・剛力彩芽さんが彼女たちの作品を朗読し、会場内に感動を呼びました。
ここでは最優秀賞を受賞し、ショートムービーにもなった髙野裕子さんの作品、『静かな勇気』をご紹介します。
髙野さんの作品には、2004年に夫・和浩さんが肺癌を患い、滋賀県の病院に入院した時にケアを担当していた、看護師の梅田さんとのエピソードが綴られています。
和浩さんは32歳の時に肺癌を患い、手術や抗がん剤の治療を繰り返していました。しかし、病状が回復することはなく、やがて体の自由や意識を病気によって失い、どんどん痩せ細っていきました。
体のところどころにむくみが生じて、髙野さん一人では抱えきれない状態で、看護が困難な状態だったといいます。
そんな時、髙野さんは和浩さんの着替えなど身の回りのお世話をしてくれていた看護師の梅田さんのお腹が大きくなっていることに気づきます。
それとなく梅田さんに、「妊娠しているのでは?」と髙野さんが聴くと、やはり彼女は妊娠していました。
妊娠しているとは思えない動きで、和浩さんを看護する梅田さんを気づかって、髙野さんは和浩さんのケア担当を他の看護師さんに変わってもらうようにお願いしますが、梅田さんはそれを聞き入れず和浩さんの看護を続けたといいます。
和浩さんの体を支える度に、梅田さんの大きくなったお腹がベッドに食い込む姿を見て、髙野さんは声を震わせながら、
「お願いだから看護を変わってください。彼(和浩さん)は子供が好きなので、今の梅田さんの状態を見たらきっと変わってくれるようにお願いするはずです」
と訴えます。
「実は明日から産休に入り、和浩さんの看護をするのはこれが多分“最後”になってしまうので……」
悲しそうな顔をしながら梅田さんが言った“最後”という言葉に、髙野さんは深い意味を感じ取ったと語ります。
そして梅田さんは話を続け、
「髙野さんと和浩さんの諦めずに明るく闘病する姿勢を見て、絶望的な現実がとても辛いのです。私はお二人の姿を見て、お腹の子供が生まれてくることに、意味を感じています。だから、私に看護をさせてください。絶対に、絶対に、無理はしませんから……」
と、今にも涙がこぼれ落ちそうな表情で言ったといいます。
その後、髙野さんと梅田さんは涙を流しつつも、梅田さんのお腹にいる赤ちゃんに話しかけるなど、笑顔を作る努力をして、和浩さんの着替えを終わらせました。
髙野さんは、梅田さんが献身的に和浩さんのことを看護する姿を見て、死にゆく者と生まれゆく者、立場は違っても、命に寄り添い見守ることで、それぞれの立場を実感したと語っています。
また、寂しくも感じましたが、温かく優しい時間であったと、当時を振り返っています。
特別審査員を務めた脚本家・内館牧子さんは「短い文章ながら、生と死を明晰に書いた最高傑作」と髙野さんの作品を絶賛しています。
髙野さんは表彰式の場で、和浩さんを献身的にケアしてくれた梅田さんと、12年ぶりに再会。抱き合うなどして喜びを分かち合いました。
表彰式には、エピソードにも書かれている、お腹の中にいた梅田さん次女も出席し、髙野さんは「あの時の赤ちゃんが元気に大きくなってくれて嬉しい」と喜びのコメントを残しています。
『忘れられない看護エピソード』コンクールは毎年開催されています。
あなたにも髙野さんのように忘れられない看護体験がありましたら、次回応募してみてはいかがでしょうか?
日本看護協会 第6回 『忘れられない看護エピソード』
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