さまざまな現場で活躍されているナースマン(男性看護師)にフューチャーする新企画。
インタビュー第一弾は、診療看護師として活動されている男性看護師・福添恵寿(ふくぞえ やすひさ)さんにお話を伺いました。
プロフィール
福添 恵寿(ふくぞえ やすひさ)
岡山県出身の男性看護師。経験科目は外科、整形外科、救急、手術室、呼吸器内科、総合内科。2011年の東日本大震災、トルコ東部地震ではNPO法人TMATの一員として医療支援活動を行う。現在、都内の病院で診療看護師として活躍中。学会での発表、勉強会の講師も務めるなど、診療看護師の普及に尽力している。休日には50キロのサイクリングを楽しむアクティブ派。
──福添さんが診療看護師を目指されたきっかけは、何だったのでしょうか?
2011年3月11日に東日本大震災が起きて、僕は3月13日に災害派遣医療チームの一員として被災地に派遣され、活動をさせていただきました。
移動する救急車の中で、『母国で大変なことが起こっている』とアメリカから駆けつけた日本人看護師に出会いました。その人こそ、初めて出会ったナースプラクティショナー(※1 以下、NP)であり、NPを知るきっかけとなりました。
※1 ナースプラクティショナー(通称NP)… 主にアメリカやカナダで認められている国家資格で上級看護職と言われている。看護師が一定レベルの診断と治療を行うことができ、「医師と看護師の間に位置する資格」とも言われる。
日本のナースプラクティショナーすなわち診療看護師は、NP学会が認定している大学院にて「看護師特定行為研修」を修了した後に、NP学会が行う認定試験に合格した者を指し、医師と共に作成した手順書に従い特定行為(医療行為)を行うことができる。ただし日本の診療看護師は自らの判断で診断・医療行為を行うことはできない。
──NPの方と同じチームで活動していく中で、特に印象に残ったことはありましたか?
そうですね、NPはフィジカルアセスメント能力が本当に長けていると感じました。
被災地ではドクターとナース、そのほかのコメディカルスタッフがチームを組んで、支援を行っていました。
そんな中、息苦しさを訴える被災者の方の対応にNPがあたりました。彼女は手と目と耳などすべての感覚を使って患者さんの状況を把握し、その方の緊急度が高いことにすぐ気づきました。そしてドクターと相談し、設備の整った医療機関に緊急搬送することになったのです。
搬送先でその方は『重度の心不全』と診断され、すぐに処置を受けることができました。担当した救急医は『よく検査機器がなくて気づけたね』と感心していましたが、僕もまったく同感でした。
心不全とは、いろいろな症状があって採血をして、心電図とレントゲンを取って、やっと分かるものだと思っていました。けれどNPは本当に看護の基礎、僕たちが日頃やっていること(アセスメント)から緊急度の高さに気づき、それを言語化して医師に詳しく伝えることができたんです。
これは“看護の奥深さ”を知らされた衝撃的な出来事でした。
──その経験を受けて、NPという資格に興味を持たれたんですね?
そうですね。同時に、同じレベルの看護師は日本国内にもいっぱいいるとも思いました。専門分野を持つ看護師で、認定看護師や専門看護師の資格を取得していなくても、臨床スキルが高い方はたくさんいます。
私がいた僻地や看護師の人数が少ない施設などでは、そういう高いスキルを持った看護師が重宝されるんです。でも、そういう状況にはリスクがあります。侵襲的な場面や、ちゃんとした教育を受けない状況で高いスキルを求められる場面では、看護師が困難な状況に立たされることがあるんです。
NPに興味を持ったのは、そういった状況にも対応できる確固たるスキルを身に着けたいと思ったことと、厚生労働省が看護師の特定行為に関して動き始めていたので、『これがオフィシャルのものになっていくのであれば、医療の中で“ひとつの看護師の形”になっていくかもしれない』という期待感を持ったことも理由ですね。
──診療看護師になって、どのような看護を行うようになったのですか? また、診療看護師になって良かったことを教えてください。
医師と後期研修医、診療看護師というチーム構成で、担当する患者さんの治療に取り組んでいます。
僕は診療看護師として患者さんのベッドサイドへ行き、患者さんから診察時のことやその時に医師から聞いた話などを伺って、身体所見や経過を診ながら必要な対応をさせていただきます。
診療看護師になって一番良かったことは、“医師の考え方のプロセスが分るようになったこと”ですね。今までは分かっているつもりだったんだな、ということに気づきました。
例えば、誤嚥性肺炎の高齢患者さんがいた場合、治療する前の検体のとり方ひとつで診断が大きく変わってくるんです。痰を取るにしても、それが検査を施行するのに適した痰なのか、そうでないのかだけで、抗菌薬の使い方が全然変わってしまう。
さらにその抗菌薬の治療が上手くいっているかどうかを判断する場合、看護の教科書には、採血をしましょう、レントゲンを取りましょうと書かれていますが、実は一番大事な“所見は何か”というところは書かれていないんです。
医師はそこをしっかり診ているので、チームとして共に行動しながら、フィジカルを含めたアセスメントを学べたのは良かったですね。他にも時間経過という面で、“今は何を診なければならないのか”、“どういった時期に次のステップへ進めるのか”を診ていく重要性も学びました。
例えば高齢の患者さんの治療が順調で、食事の開始時期を検討することになったとします。その時、高齢の患者さんは他にいろいろな疾患が絡んでいるケースが多いので、“食事を始めるためには、治療中の疾患の他にどんな問題があるのか”までも考えていくことが必要なんです。
そういった“何を重視して治療を進めていくのか”を踏まえ、“それに対してどういうケアをしていくのか”を考えていくプロセスが大事なのだと実感しました。
──この春から整形外科へ異動されたそうですが、変化はありましたか?
整形外科では手術などの外科的治療がメインになり、どうしても内科疾患への対応が後手になりやすい面があるんですね。
そんな中、診療看護師として自分が介入すること、発症前の変化に気づいて情報収集を進め、何の検査が必要かを提案できます。医師からも重症化を防げたと言ってもらえることもあります。
──看護師側から情報を伝えたり、提案することについて、医師はどんな反応を示しますか?
僕は今の病院に勤務して2年目なんですけど、4年目の診療看護師もいて、院内では徐々に診療看護師の存在が浸透しつつあります。
大学院在学中に実習へ行った時には、実習先の医師と一緒に活動していました。そのため医師が分かる言葉を使って、医師とコミュニケーションを取るスキルが身つきました。診療看護師として働くようになってからも、医師が話す言葉で、何が必要で何をすべきか、裏づけもあわせて提案しているので、比較的スムーズに提案を受け入れてもらえることが多いですね。
──医師の使う言葉と看護師が使う言葉には、どんな違いがあるのでしょうか?
そうですね。わかりやすく言うと、“看る”と“診る”の違いです。看護師は既往歴なども含めた患者さんの生活を“看る”、医師は身体や疾患などを“診る”。どちらが良い悪いではなく、その視点の差が言葉に出るのだと思います。
──医師と看護師、両方の視点を理解できたことで良かったこと、板挟みになったことはありますか?
両方ありますね。例えば患者さんが治療や病気について不安、疑問を持っていると知ったら、看護師として何らかのコメントをしますよね。でもそれが医師の言っていることとズレていた場合、かえって患者さんを不安にさせ、下手をすると治療に悪影響が出てしまうこともあり得ます。
診療看護師になり、医師のプロセスを理解した上で、身体の状況を科学的根拠に基づいて伝えられるようになったことで、こうしたズレは少なくなったと思います。また“悪くなる手前で防げるタイミング”や、“良くなって在宅を見据えていくべきタイミング”についても、医師とのズレがほとんどなくなりましたね。
──この春、福添さんが総合内科から整形外科に異動されたのはなぜですか?
ひとつは、総合内科にいると常に医師と行動を共にしているので、診療看護師として特定行為をあまり行わないということがあります。
もうひとつは、自分が特定行為だけでなく内科疾患をちゃんと理解できているのか、医師がいないところでもしっかり患者さんのフィジカルを含めたアセスメントを行い、正しく対応できるのか、という部分を違う畑で確認したい、試したいという思いがあったんです。
外科的治療だけでなく、診療看護師として基礎疾患や生活背景をしっかりと理解・把握しながら、患者さんが帰るべき時期に帰るべき場所へ戻れるようにサポートできればいいなと考えています。
きっと『診療看護師=特定行為』だと思われたくないんでしょうね。
──『診療看護師=特定行為』と思われたくない?
『特定行為がしたいから診療看護師になりたい』という人がいてもいいのですが、僕の中では少し引っかかる部分があって……。
やはり僕らは看護師であることを忘れてはいけないと思うんです。診療看護師になって一番感じるのは、フィジカルアセスメントやバイタルサインといった看護の本当に基礎的な部分がとても奥深いなということ。
例えば特定行為のHPに、脱水の患者さんの身体所見をとったら点滴を手順書に沿ってやってもいいと書かれている。そうすることで検査が省けて、医師が行かずに済むと。でも、診療看護師になって、それが怖いなと思うようになりました。本当に必要なのは“なぜ脱水という症状が出ているのか”という部分を考えることなんです。
その脱水は体内がカラカラの状態なのか、または体内に水はちゃんと蓄えられているけれど吸収されていない状態なのかをまず判断しないといけない。そうしないと点滴の投与方法次第では状態を悪化させてしまうこともありますから。
さらにその患者さんは他に疾患を持っていないか、薬を服用している影響ではないのか。それは何のための薬で、受けている治療はどのようなものかなどをアセスメントし、優先すべき薬や治療、必要な検査を考え、何病院の何科に相談するかまで考えていく。
僕が一番大事だと思っているのは、その“全21区分・38行為(※2)の前後のこと”なんです。なぜその行為をしなければいけなくなったのかを把握して、未然に防ぐこと。
診療看護師はそれを学べて、実践していける立場になりつつあると感じています。その延長線上にアメリカやカナダのNPがいるのだと思います。
もちろん特定行為を多く求められる環境にいる診療看護師もいます。そういった現場では、苦しんでいる患者さんを早く楽にしてあげる、病院業務を回していく必要があると思います。ただ、“診療看護師がどこまで特定行為をできるのか”、ちゃんとした安全の確保が課題ですね。
※2 厚生労働省 特定行為に係る看護師の研修制度 特定行為とは
──他に診療看護師が抱える課題があれば、伺えますか?
課題は山積みですね。まず、知名度が絶対的に低いこと、説明しても理解されづらいことがあります。例えば診療看護師やナースプラクティショナーなど、区別されないまま名前が混在しているのも問題ですよね。
さらに本当にいろいろな診療看護師がいるので、意見がまとまっていないという面もあります。同じ診療看護師でも、麻酔科で麻酔管理を中心にしている人もいれば、循環器で患者さんの疾患と向き合っている人、重症集中ケアを中心にやっている人もいる。在宅で患者さんの生活の管理を頑張っている診療看護師もいる。どこに勤務するかで担う役割も違いますし、看護師よって得意なことも違ってきます。
他には医師や病院からの理解ですね。ICUなどの集中ケア領域の医師からは診療看護師の存在が重宝されたり、心臓血管外科の医師からオファーが来たりします。また、海外でのNPの活躍を知っていたり、診療看護師の学会発表を聞いて『価値があるな』と感じていただき、採用になるケースもあります。
でもそういう情報がない分野では、『一看護師が医療行為をする』という面だけを取って『医師の仕事をしている』と誤解されてしまい、理解が進まないケースもあります。
しかし、現在所属する整形外科では、診療看護師が手術に入るだけでなく、医師が手術を行っている間の病棟患者さんの対応や退院調整を行っており、そういった活動から需要が増えていると思います。
いろんなところに正解と不正解があり、受け取られ方もいろいろで、情報が錯綜しているのが現状。診療看護師についての正しい情報発信は、大事な課題のひとつですね。
現場で実際に認知してもらったり、学会で発表したり、こうしたメディアを通して紹介したり、活動の中で“ひとつの方向性や定義を作ること”がまずは必要だと感じています。
その結果、理解が深まっていけば、診療看護師の診療報酬にもつながります。今後、診療看護師になる人を増やしていくためには、しっかり診療報酬が付くようにしていかなければならないと思っています。
──診療看護師として、福添さんの今後の展望を伺えますか?
診療看護師の周知と看護師のボトムアップを考えています。今、医師と看護師、コメディカルが一緒に参加できる勉強会を計画しています。知識だけでなく、そのプロセスも共有して勉強できる場を積極的につくっていきたいですね。
──最後に診療看護師を目指す人、その仕事を知らない人にメッセージをお願いします。
診療看護師を目指すのなら特定行為だけにとらわれず、それをとりまく環境や知識、医師・看護師・その他コメディカルの考え方を理解できる力を養って、自分が患者さんをどう支えていくかを勉強してください。
まだまだ茨の道は続きますよ(笑)。でも、これからの医療を作り上げていく1人になれるかもしれないことは、楽しいと思います。
診療看護師を知らない方に伝えるなら……診療看護師とは一看護師です(笑)。一看護師ですけど、『患者さんの生活を治療する』という表現が合っているかもしれませんね。
病気の治療は基本医師がすることですが、実際私たち診療看護師も患者さんの元へ行き、患者さんの身体の症状だけでなく、治療についての認識や受け入れ具合、生活状況、家族を含めた今後への思いなどをすべて網羅できるよう介入します。また、さまざまな医療関係者と情報を共有してタイムリーな介入を行うことで、患者さんの生活を支えていけるのが診療看護師だと僕は思っています。
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