十人十色という言葉があるように、患者さんが100人いれば、100通りの人生やドラマがあります。
人々の人生にかかわる看護師は、患者さんから心にしみるような言葉をかけられることも少なくありません。さまざまな疾患と闘っている患者さんやその家族から、振り絞るように出てきた言葉の中には、決して忘れることができないものもあるでしょう。
感謝の言葉や身が引き締まる言葉など、実体験をもとに心に響いたエピソードをご紹介します。
がんの治療で自宅退院された患者さんからの言葉です。
「あなたたちのおかげで痛みもつらい気持ちも乗り越えられた。」
肩を震わせ、涙ながらに語られたことが印象に残っています。
がんで療養中のこの患者さんは、骨転移まで進行していました。そのため、がん性疼痛に悩まされながらも麻薬性鎮痛剤などを併用しながら、疼痛コントロールの治療を進めていたのです。
医師からは退院の目処が立っていたものの、自宅の住環境が整わないため、地域包括ケア病棟へ転棟になり、疼痛コントロールと合わせて、退院後に必要なADLの獲得に向けてリハビリに励んでいました。
壮年期の女性の患者さんだったため移動は車椅子でしたが、できる範囲で洗濯や料理といった家事をどのようにこなしていこうかと、病棟スタッフと一緒に考えていました。しかし現実には家事を行うどころか、がん性疼痛で起きられない日々も続いている状況。
それでも根気強くリハビリを行った結果、医療スタッフと患者さん本人の努力が実り、いよいよ退院の日を迎えます。当日、患者さんは晴々とした顔で退院の準備を進めていました。
そして、患者さんは家族が押す車椅子に乗ってエレベーターを待っている途中、我慢していた涙が溢れかえり、先ほどの言葉を述べたのです。
がんと闘う姿は凛々しく感じられましたし、言葉だけでなく、その姿からもたくさんのことを学ぶことができ、数年経った今も印象に残っています。
患者さんが述べた「痛みもつらい気持ちも乗り越えられた」という言葉には、身体的・精神的・社会的な苦痛があったにもかかわらず、自分を奮い立たせて闘病生活を送っていたことがにじみ出ているように感じました。
この感謝の言葉は、つらい時期を共にしたからこそ看護師の心にも響いたのかもしれません。
次は、一般病院とは少し雰囲気の異なる精神科病院での出来事です。
この患者さんは、精神科病院に入院してから、症状が良くなっては悪くなる状況を繰り返し、なかなか改善しないまま2年が経過していました。
しかし、受け持ちの看護師をはじめとするチームで治療にあたったかいもあり、患者さんは閉鎖病棟から開放病棟へ転棟するまでに回復し、施設へ退院できました。
これは、看護師が転棟後に退院の知らせを聞き、患者さんのもとを訪れたときに伝えられた言葉です。
「ここまで来れたのもあなたのおかげ。一生退院できないと思っていた。」
この患者さんは長期入院の中で「私はここで一生を終えるのかもね」とも語っていました。「一生退院できない」と一度は覚悟した患者さんの気持ちは、測りきれません。
長期の療養生活を共にしてきたからこそ、退院を迎えたときのこの言葉は忘れられないものになったのでしょう。
心に響いた言葉は、感謝を伝えるものだけではありません。次にご紹介する言葉は、我が子の無事を祈る母親からの切実な思いです。
「あの子を本当によろしくお願いします。」
産婦人科でのことです。出産直後の新生児に異常が見られ、専門の病院での手術が必要な状態で、産後すぐに母親と子どもは離ればなれになってしまいました。
母親は入院中で動くことができなかったため、看護師から経過などを聞いており、そうした状況の中、子どものもとに行けない母親から涙ながらに訴えられた言葉がこちらです。
我が子を思う家族からの言葉を投げかけられて、看護師はハッと目が覚めたような感覚がしたそう。改めて、命を救う現場にいる者でしかわからない、身が引き締まる思いがしたのです。
母親は、自分にはどうしようもできない状況で、看護師をはじめとした医療スタッフにすべてを任せるしか方法がなかったのだと思います。
我が子を心から思う姿はとても印象に残り、それと同時に、看護師は「命を救わなければならない仕事」であることを再認識した出来事でもあったといいます。
看護師として働いていると、さまざまなドラマに出会いますよね。
「ありがとう」の言葉だけでなく、身が引き締まるような言葉を投げかけられることもあります。叱咤激励の言葉も含めて、現在の看護観や人生観に生かされています。
こうした心に響く言葉に励まされ、看護師という仕事を続けられているのかもしれませんね。
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