「看護師」と「看護士」は、読みが同じで意味が似ているため、混同されやすい言葉の一例です。スマホ等でも、両方に変換できます。
では、どちらが正しい言葉なのでしょうか。
結論からいえば、一般的に用いられるのは「看護師」の方です。ただし「看護士」という言葉も、目にする機会は少ないものの実在しており、むしろ昔は頻繁に使われていました。
このコラムでは、その違いについて詳しく解説していきます。
看護師とは「保健師助産師看護師法」に基づく国家資格で、看護業務を行う医療従事者のことを指します。
以前は、看護業務を行う人に対して、性別や時勢によってさまざまな呼び名が用いられていました。しかし、2002年に改定された「保健師助産師『看護師』法」によって、それらは「看護師」という名称に統一されることとなります。
したがって、現在においては余程の特別な状況を除いて「看護師」という表記を用いるのが一般的です。書類に記入する際には「看護師」と書きましょう。
「看護士」とは、名称が「看護師」に統一される前の、男性看護師のことを指します。
以前は、女性看護師を「看護婦」と呼び、それと対になるように、男性看護師を「看護士」と呼ぶ規則がありました。現に「保健師助産師『看護師』法」改定の前身は「保健婦助産婦『看護婦』法」です。
しかし、社会的に平等な表現をするという“ポリティカル・コレクトネス”の浸透に伴い、看護婦と看護士という名称は「看護師」に統一されることとなります。
したがって、現在においては以前のように男性看護師を指して「看護士」と表記することはありません。Webサイト等で「看護士」という表記が用いられていることがありますが、たいていは変換ミスによるものです。
なお、まれに看護師のことを「看護婦」と呼ぶ習慣が残っていることがあります。もっとも、名称が統一される前の習慣が残っているだけなので、特に意図がないケースがほとんどです。
師と士は、読みは同じでも言葉の意味が異なります。「看護士」が「看護師」に統一された理由を、言葉の意味から確認してみましょう。
「師」という言葉には、以下の意味があります。
・学問、技芸を教える人
・僧侶、神父などに対する宗教上の敬称
・中国、周代の軍制で5旅?(?2500人)の称。転じて、軍隊
これらが転じて「人々を教え導く者」、つまり「専門家」のことを「師」と呼ぶようになりました。現在では、看護師、医師、薬剤師、理容師、教師といった資格名に用いられています。
一方、「士」という言葉には、以下の意味があります。
・男子。特に学問や道徳を備えた者
・さむらい、武士
・古代中国における大夫の下の身分
現在でも「士」は、騎士、力士、紳士、勇士といった称号・職業に用いられています。
また、上記の意味が転じて「優れた者、仕える者、技術を身に付けた者」のことを「士」と呼ぶようになりました。現在では、弁護士、行政書士、介護福祉士、社会福祉士といった資格名がこれにあたります。
なお、看護士の「士」については、優れた者といった意味合いがありながらも、やはり「男子」という意味合いが強いものでした。
そこで、「看護婦」と「看護士」が統一される際に、上記の言葉の意味を踏まえて「看護師」つまり「専門家としての『師』という漢字」が選ばれることとなります。つまり「看護師」という名称は、言葉の意味からしても、まさに収まりが良い『造語』であったといえるでしょう。
本項では、歴史的背景から「看護師」という名称が生まれる過程について確認してみましょう。
「看護師の祖はナイチンゲール」というのが一般的ですが、看護行為はそれ以前から行われていました。
ナイチンゲール以前、看護は制度化されておらず、看護と呼べるような行為は宗教と強い結びつきを持っていました。なぜなら、家族以外の他者を受け入れての看護は、まさしく宗教的な精神に基づく行いだったからです。そのため、看護行為を行うのは基本的に修道士・修道女でした。なお、はじめは修道女より修道士のほうが人口が多かったとされているので、看護はある意味では男性的な職業だったともいえます。
19世紀中頃に勃発したクリミア戦争において、ナイチンゲールが活躍。戦争終結後には、世界初の看護学校となるナイチンゲール看護学校を設立し、看護を宗教から切り離し学問として体系づけました。これにより“看護は女性の職業”として認識されることとなります。
ナイチンゲールの活躍から約30年後、日本でも彼女の影響を受けて看護の学校が設立されました。しかし当時の日本の看護現場では、学校で専門的な知識を学ぶよりも、実践的な技術を現場で学ぶというのが一般的だったようです。
日本で看護師教育が明確に定められるのは、第二次世界大戦後、米国の看護体系の影響を受けてからでした。1948年には、先述した「保健婦助産婦看護婦法」が公布され、女性の看護婦が法的に定義されます。なお、男性の看護婦は一般的ではなく、“女性の看護婦規定を準用する”とされていました。
1968年には「保健婦助産婦看護婦法」が改正され、当時で言う「男性の看護婦」のことは「看護士」と呼ぶことになりました。ここに、日本における「看護婦」と「看護士」という、性別による名称分けが発生することとなります。
2002年に法律が改正され、「保健婦助産婦看護婦法」は「保健師助産師看護師法」に名称が変更されました。これにより「看護婦」と「看護士」という名称は「看護師」に統一され、現在も「看護師」が一般的に用いられています。
昨今においては、男性看護師の割合も増えてきており、ステレオタイプな観念は名称以外からも徐々に薄れていっているのかもしれません。
さて、これまで紹介したとおり、「看護士」とは看護婦と対になる男性看護師の以前の名称で、「看護師」はそれらを統一した現代の名称です。
「看護士」という名称は、古い文献に記載されている場合ならまだしも、新しく用いられることは基本的にありません。Webサイト等で目にすることがあっても、たいていは「看護師」の変換ミスです。男女を区別したものではありません。
そのため、就職・転職などで書類に記入する際は、間違えないよう正確に「看護師」と記入しましょう。男性の看護師を指す場合にも「看護士」は用いずに、“男性看護師”等と表記するのが無難です。同様に、女性の看護師を指す場合も「看護婦」ではなく、“女性看護師”等で問題ありません。
また、たとえば「歳」を「才」で代用したり、略字を用いたりするのとは異なり、「看護師」と「看護士」には明確な意味の違いがあります。略字・代用の感覚で「看護士」を用いるのは避けた方が良いでしょう。
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