仕事
2020.3.15
看護師育成に用いられる「クリニカルラダー」とは何なのでしょうか。看護師を評価する仕組みだということは一般に知られていますが、その役割や目的、成り立ちについては詳しく知らないという方が多いはず。
このコラムでは、そんなクリニカルラダーの成り立ちや仕組み、役割について解説していくので、ぜひお付き合いください。
クリニカルラダーとは、看護師の能力を開発して評価するシステムのことです。看護師の能力を段階的にランクづけし、自分が現在どのランクにあるのかを確認しながら、さらに上の指標をめざして自己研さんできるようにしています。
なお、クリニカルラダー(Clinical Ladder)は直訳で「臨床のはしご」を意味します。段階別の目標を達成し、レベルを上げていく様子を、はしごを昇る様子に見立てたものです。
“クリニカルラダー”という到達目標を提唱したのは、看護学者パトリシア・ベナーです。
彼女は、ドレイファス兄弟が提唱したスキル獲得の5つのレベル「ドレイファスモデル」を看護分野に応用しました。それは看護師が「初心者」から「達人」に至るまでの5段階モデルです。
以下に紹介するのは、クリニカルラダー(日本看護協会版)の5つのレベルです。
【レベル1:初心者(Novice)】
基本的な看護手順に従い必要に応じ助言を得て看護を実践する
【レベル2:新人(Advanced Beginner)】
標準的な看護計画に基づき自立して看護を実践する
【レベル3:一人前(Competent)】
ケアの受け手に合う個別的な看護を実践する
【レベル4:中堅(Proficient)】
幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する
【レベル5:達人(Expert)】
より複雑な状況において、ケアの受け手にとっての最適な手段を選択しQOLを高めるための看護を実践する
上記のような“5段階のモデル”はあくまで基本形であり、医療機関ごとに“4段階+管理者”など、さまざまなモデルを採用しています。
参考:日本看護協会
クリニカルラダー導入以前の看護師教育は、施設毎の基準に基づくものであり、看護師の能力のレベル分けが曖昧になっているケースが少なくありませんでした。
そこで、クリニカルラダーを導入することで、看護師一人ひとりが具体的な指標に向かって努力していけるようになると期待されています。
クリニカルラダーでは、経験年数ではなく、知識や技術が重要視されます。
提唱者のベナーは、科学では説明しきれない看護実践の複雑さについて、臨床判断や臨床推論が求められるとしており、実践の中でのみ得られる技術や実践知こそが重要だとしているのです。
キャリアラダーは、1980年代にアメリカの雇用問題解決のために作られたもので、その名の通り労働者が“キャリアのはしご”を上るように段階別にキャリアアップできる仕組みです。
クリニカルラダーとキャリアラダーは、レベル別到達目標がある点は共通していますが、開発の経緯や適用される場所が違うほか、それぞれ“スキル開発のモデル”か”キャリアアップのモデル”かという点が異なります。両者は本来明確に区別することが可能です。
ただし医療業界では、大抵の場合クリニカルラダーとキャリアラダーは区別されません。スキル開発やキャリアアップなど、看護師能力全般の向上を目的とする“看護師能力全般のレベル別開発モデル”がクリニカルラダーあるいはキャリアラダーと呼ばれることが多いようです。
医療機関に実際にクリニカルラダーが導入される場合、クリニカルラダー本来の“看護実践能力のモデル”という枠組みを超え、管理能力や教育、研究などの基準を追加した“看護師能力全般のモデル”として運用されることが多いです。
クリニカルラダーのレベル別評価には、基本的に各レベル毎に4つの基本概念が用いられます。
・到達目標
・看護実践能力
・組織的役割遂行能力
・自己教育研究能力
これら4つの基本概念に基づく評価基準と、前項に挙げた5つのレベルを対応させたクリニカルラダーをもとに、それぞれの項目についてS・A・B・C・Dの5段階で評価します。
評価は「自己評価」と「他者評価」があるので、客観性や公平性が保たれます。そのため、看護師は自分では気づけていない点にも気づくことができるのです。
(例)
到達段階【レベル1:初心者】
到達目標【看護実践能力―情報収集】
自己評価 B・他者評価 A
クリニカルラダーは、医療施設で広く採用されていますが、それぞれのレベル基準は施設毎に異なり、またそもそもラダーを導入していない施設もありました。
そこで、日本看護協会は“あらゆる施設で利用可能な標準化されたラダー”として、「クリニカルラダー(日本看護協会)」を作成するに至ります。
クリニカルラダー(日本看護協会)で特徴的なのは、看護実践能力に特化したモデルという点です。これはドレイファスモデルや本来のクリニカルラダーに則するものですが、一般的になっている“看護師能力全般の開発モデル”とは異なります。
クリニカルラダー(日本看護協会)は、看護の核となる実践能力を「論理的な思考と高度な看護技術をベースにした、さまざまなニーズに対応できる看護を実践する能力」と定義。さらにその実践能力は以下の4つで構成されるとしました。
・意思決定を支える力
・ニーズを捉える力
・患者をケアする力
・スタッフで協働する力
クリニカルラダー(日本看護協会版)では、4つの実践能力の目標が、5つの到達レベル毎に設けられています。
日本看護協会はクリニカルラダー(日本看護協会)とキャリアラダーを明確に区別しています。
クリニカルラダー(日本看護協会)は、日本看護協会が、看護実践能力をレベル別に表現したものです。
一方、キャリアラダーは、看護実践能力だけでなく管理能力や資格取得の段階を含む、各医療機関が独自で定めているものとしています。
クリニカルラダー(日本看護協会)は看護実践能力に特化したモデルです。そのため“組織的役割遂行能力”や“自己教育研究能力”といった、その他の能力については各施設独自のものを使用することになります。
つまり、看護師に必要なさまざまな能力のうち、“看護実践能力”にのみ「クリニカルラダー(日本看護協会)」を活用し、そのほかの能力については独自のラダーを使用。それらを組み合わせることで「キャリアラダー」を作成し、運用することになるのです。
参考:日本看護協会「看護師のクリニカルラダーの開発について」
クリニカルラダーを用いた看護師育成にはメリットもあればデメリットもあります。
【レベル別習熟度で評価されるので自分の立ち位置がわかる】
看護師の仕事には、学校のような成績表がありません。そのため、看護師としてどの程度成長しているのか、不安に感じている方も多いでしょう。クリニカルラダーは5段階のレベルでランク分けされるため、進捗状況を確認しながら成長を目指せます。
【目標がはっきりする】
5段階のレベルでランク分けされるため、次に目指すべき目標が明確になります。
【向上心やモチベーションにつながる】
目標が明確になるため、自分のキャリアを築いていこうという向上心やモチベーションに繋がりやすくなります。
【時間や手間がかかる】
クリニカルラダーの適切な評価には時間を要します。場合によっては「ラダーで残業になる」ということも。看護師はただでさえ多忙になりがちな職業です。そのため、ラダーを煩わしく思う方も少なくないようです。
【実践能力以外が評価されにくい】
クリニカルラダーは本来“スキル獲得のため”の段階評価です。そのため、対人関係能力などはあまり評価に表れません。技術面の評価に寄ったシステムに不満を抱く方もいることでしょう。
【給与に影響することがある】
クリニカルラダーは目に見えてわかりやすい点数評価です。そのため、給与やキャリアに過度に反映されてしまうこともあります。
日本看護協会の資料をもとに、施設におけるクリニカルラダー導入の流れをわかりやすく解説します。
・クリニカルラダー導入の基本的な流れ
組織の理念
↓
目指す看護師像
↓
標準的指標としてクリニカルラダーを活用する
(自己教育・研究能力、組織的役割の遂行能力)
↓
組織における学習支援(OJT・研修)・評価のための基準を策定
↓
クリニカルラダーのレベル到達状況を評価する
・クリニカルラダーのレベル到達状況の評価方法
【Why(何の目的で)・評価の目的】
クリニカルラダーのレベル到達状況の評価は、その看護師がどのような自己研さんを積み、教育支援を受けてきたのか、その結果として「何が実践できるのか」「今の時点で実践できていない課題は何なのか」をみてレベルの到達状況を確認することです。
【When(いつ)・評価の時期】
クリニカルラダーのレベル到達状況の確認は、以下の時期を目安にします。
1.年度の半期を目安に評価
学習支援する側が、看護師の日々の実践をよく観察し、年度の半期を目安にOJTの中で評価する
2.中間評価
中間評価を行い、目標達成に向けた進捗を管理し、バランスよく育成する
3.年度末の総合的な評価
年度末に1.2.3を総合的に評価する
【Who(誰が)・評価者】
評価は看護師自身が自らを振り返り、実践できていることや課題を見出す自己評価が基本です。看護師自身が自己評価したうえで、個人では気づけていないことを指摘し、客観性や公平性を保つために他者評価も実施します。なお、以下の視点を参考にして、適切な評価が行える者を選出します。
・直接観察できる者
・看護師個人の同僚あるいは先輩、または後輩
・教育の担当者やプリセプター
・看護師の指導的立場にある者
参照:日本看護協会
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