新卒でも訪問看護師は目指せる|訪問看護ステーション くれよん 看護師 吉澤奈津実さん 松本美香さん

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みなさんは、訪問看護師という職業についてどのくらい知っていますか?

細かく診療科目が分かれている病院やクリニックとは異なり、さまざまな疾患や症状に合わせた対応が求められる訪問看護の仕事。それゆえ訪問看護師として活躍するのは中途がメインで、新卒での入職は難しいとこれまで考えられてきました。

しかし、時代は超高齢社会。訪問看護の需要が高まる一方で、人材の確保と育成が課題となっています。そのため、業界全体でも徐々に新卒を採用する動きが出てきているそうです。

そこで、本記事では訪問看護師歴17年のベテラン・吉澤奈津実さんと新卒1年目の新人訪問看護師・松本美香さんにインタビュー。松本さんは彼女たちが勤務する「訪問看護ステーション くれよん」で、新卒入職者第一号として迎え入れられたそうです。

訪問看護のやりがいと面白さをよく知っている吉澤さんと、新卒で訪問看護師となった松本さんに、訪問看護業界の現状や課題、新卒採用への想いなどを詳しくお話いただきました。

(プロフィール)


吉澤 奈津実(よしざわ なつみ)さん


訪問看護師歴17年。平成19年から「くれよん」に勤務しており平成21年から常勤勤務、現在は施設管理者も務める。業界の後継者不足に歯止めをかけるべく、人材育成に力を入れている。

松本 美香(まつもと みか)さん


介護福祉士として13年間勤務した後、看護学校へ入学。在学期間中に新卒で訪問看護師になることを決意。2015年4月より「くれよん」に入職した。


利用者一人ひとりとの信頼関係の上に成り立つ、訪問看護の仕事



-本日はよろしくお願いします。まず、訪問看護師の仕事内容を教えてください。



吉澤:主な仕事は病状の観察と各種介助です。介助というのは、高齢者の場合は薬の内服管理や排泄介助、入浴介助などですね。また、医師の指示に基づいて胃ろうや経鼻経管栄養などの医療措置を行ったり、利用者本人やご家族からの介護相談も受けたりします。小児の場合は、発達支援をはじめとした療育相談を受けることもありますね。

また、これらの内容に加えて関係機関と連絡調整を行うことも重要な仕事のひとつです。主治医やケアマネージャー、小児の場合は保健師とも連絡を取ったり、虐待の可能性があると判断した場合は児童相談所と連携して対処したりもします。

-看護領域に留まらず、幅広いんですね。



吉澤:そうですね。訪問看護は利用者の自宅に行くので、病気以外にも家族の抱える問題が見えてくることも多いんです。だから、そういったときに利用者家族と適切なコミュニケーションを図りながら、それぞれの問題の解決に結びつく専門機関に連絡を取る必要があります。

正しく医療行為を行えるかどうかはもちろん大切ですが、訪問看護師は「コミュニケーション能力」と「連絡・調整力」を持っているかどうかも重要ですね。

できるようになるまでは大変ですが、これらは訪問看護という仕事の大きなやりがいです。一人ひとりとしっかり向き合いながら仕事をしていると、利用者さんも次第に心を開いてくれて治療に前向きになってくれたり、私たちが訪問することを楽しみに思ってくれるようになったりと、訪問看護ならではの喜びがあります。

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-利用者はどういった方が多いのでしょうか。



吉澤:これは本当に幅広いです。年齢層はNICU(新生児集中治療室)を出たばかりの乳児から長い間寝たきりの高齢者まで、病状も軽度~重度までさまざまです。「ひとりで生活できるけど、病状が不安定だから」という理由で状態の観察が必要な高齢者もいれば、筋ジストロフィー症や脊髄性筋萎縮症といった進行性のある病気を抱えた子どももいます。病院であれば、細かく担当する科が分けられていますが、訪問看護にはそれがありませんので、症状に合わせて臨機応変に対応します。


人材不足が深刻な訪問看護業界。新卒採用に託した想いとは



-訪問看護師には新卒でなる方が少ないそうですが、どういったキャリアを積んできた方が多いのでしょうか。



吉澤:これも幅広いですね。病院勤務だった人や施設に勤めていた人など、さまざまな経歴を持った方が活躍しています。でも、新卒の訪問看護師が少ないというのは確かにあります。「訪問看護師は多種多様な病状に対応する能力が必要だから、新卒ではなれない」というのがこれまでの看護業界の定説だったんです。

また、訪問看護ステーションは少人数で運営している場合が多いので、日々の仕事を回していくだけでいっぱいいっぱいになってしまうんですね。金銭面もとてもシビアで、こなした件数によって収益が決まるので、新卒の子を育てたいからといって付きっきりで指導をしていたら一人分の給料がなくなってしまうんです。育てたくても育てられない現状があります。

-必然的に長いキャリアを持っている方が多くなるというわけですね。でも、それで訪問看護師業界の人材は足りているんでしょうか。



吉澤:全く足りていないです。訪問看護師は、看護師全体の約2~3%しかいないんですよ。だから訪問できる数も限られていて、場合によっては利用を希望されても断らざるをえないときもあります。この問題はとても深刻で、なんとかしなければならないとずっと考えていました。

-新卒の松本さんを採用したのも、そのような思いがきっかけだったのでしょうか。



吉澤:そうですね。私は平成19年から「くれよん」で働いていて、平成21年から常勤勤務しているのですが、私が入職して以来、新しい人が全然入ってこなかったんです。求人広告を出しても応募が少なくて。

訪問看護は、みんながみんなやりたいわけじゃないんですよ。利用者さんと密なコミュニケーションを図りながら看護できることは大きなやりがいですが、そういった関わり方が苦手な方もいます。また、給与面でも夜勤のある看護師さんと同じようには収入を得ることは難しいですから。

でもそんな折に、とある看護雑誌で「新卒訪問看護師を育てる」という特集を見つけたんです。その雑誌には新卒を採用しているステーションの取り組みや、新卒看護師の生き生きと働く姿が紹介されていて、「積極的に新卒採用を行っているところがあるんだ!」と知って驚いたんですよ。

その特集を読んで、「経験の有無よりも、訪問看護をやりたいという情熱のある人を受け入れていかなきゃダメだ」と思ったんです。じゃないと訪問看護業界は先細りする一方だと。

だから「くれよん」でも新卒を採用するために、実際に採用を行っているステーションに見学に行ったり、指導マニュアルを一から作ったりして体制を整えていきました。そうやってようやく採用した新卒第一号が彼女(松本さん)なんですよ。


当事者主体のケアを行いたいと考え、訪問看護の道へ



-松本さんはなぜ訪問看護師になろうと思ったのですか?



松本:もともと私は約13年間、重度心身障害者の方や認知症の方々の介護・支援を行ってきました。その中で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の方を長く介護させて頂いていて、人工呼吸器を装着した利用者さんとふたりきりになる機会が多くありました。そのとき、ふと「もしも今、人工呼吸器が止まったら私には適切な対処が出来るだろうか?」と考えたら怖くなってしまって。目の前にいる利用者さんに何か特別な変化が起こったとき、支えてあげられる人間になりたいと思いました。

そのときの想いをきっかけに、看護学校に入り直したんです。2回受験に落ちて、3回目にようやく合格したんですよ(笑)。

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-それはすごいですね。それではなぜ、看護師の中でも訪問看護の道に進もうと思ったのですか?



松本:当事者主体の看護ができる環境に身を置きたかったからです。私の前職の上司は重い難病を患った障害者だったのですが、その上司から「介護は当事者主体で行うことが大切だ」と教わっていたんです。「上から押し付けて言うことを聞かせるんじゃなくて、当事者を尊重して介護する人が増えてほしい」と上司はいつも話していました。

それが実現できるのが在宅看護だと思ったんです。病院勤務も考えましたが、病院だとどうしても医療者主体のケアになってしまいがちで、「医療者が指示を出して、患者はそれに従う」という構造に違和感を抱いていました。

看護学校に在宅看護論の講師として「くれよん」の社長が来ていて、在宅に関心があったので夏休みに体験学習をさせてもらったんです。実際に訪問先に同行させていただいて利用者さんとのやりとりを通じて、「私がやりたかった看護はこれだ!」と思ったので入職を決めました。

-実際に入職されてから、今はどのように仕事を進められているのでしょうか?


松本:先輩スタッフのみなさんに同行し、一つひとつ仕事を学ばせてもらっています。いろんな人のやり方を見られるのは本当に勉強になりますし、新人の特権だなと思いますね。

みなさんベテランなので、同行していると自分の未熟さが目に見えて落ち込むこともたくさんあります。例えば吉澤さんは、呼吸器をつけた意思疎通が難しい子どもともちゃんとコミュニケーションを図るんです。「返事がないのになんで会話できるんだろう?」って本当に驚きました。

-そうなんですか?



吉澤:ふふふ(笑)。子ども達に声を掛けていると、まずすごく表情が変わるんですよ。いつも声をかけたり、話をしているうちにかすかに笑ったり、瞬きで合図を送ってきたりするんです。でも、それを感じとるまでには私もずいぶん時間がかかりました。1年担当してやっとわかってくることもたくさんあります。一人ひとりとの長いお付き合いが大事なんですよ。

松本:ほかにも、吉澤さんが抱っこすると安心して眠ってしまうのに、私だと脈が高くなったり緊張で体に力が入ったりするので「私にはまだまだ配慮や経験が足りないんだな」と思います。看護師としての経験も、利用者さんとの信頼関係も時間をかけて積み重ねていくものだとわかっていても、時々もどかしくなります。

吉澤:一歩一歩だからね。今はとにかくたくさん同行してもらって、徐々にできることを増やしてもらっています。


学生たちに「訪問看護師になる」という選択肢を与えていきたい



-「くれよん」のように訪問看護師の新卒採用を行うところは、徐々に増えてはいるのですよね?



吉澤:近年、新卒訪問看護師を採用する動きは出てきていますが、ステーションによってはまだ難色を示すところもありますね。

松本:ある研修で、とても有名な訪問看護ステーションに実習に行かせていただいたときのことがありました。実習を始める前に見たDVDで「新卒の訪問看護師を歓迎します。私たちが育てますよ」といったメッセージが発信されていたんです。でも、その後実習が始まると担当の看護師さんに「新卒で訪問看護は私は無理だと思う」って言われてしまったことがあって。

私は「くれよん」でみなさんに見守っていただきながら働けているけれど、上の立場の人だけでなく、実際に現場で働いている人たちの考えも変えていかなければ新卒は増えないし、入職したとしても「受け入れられていない」と感じながら働くのはとても辛いですよね。

看護学校時代は、教員や実習先の方々にも、ことごとく「松本さん、新卒で訪問看護師は無理だよ」と言われ続けてきました。それでも私は「訪問看護をやりたいから、受け入れてくれるところがあるなら行きたい!」と気持ちを貫いたからこそ今があります。これからは、訪問看護の道に進もうか悩んでいる学生の背中を押してあげられる人が増えればいいなと思っています。

吉澤:看護学校の先生が「無理」と言ってしまうことは本当に問題です。看護学生の中から、訪問看護師になるという選択肢を奪っているわけですから。訪問看護業界を発展させていきたいなら、指導者からまず変わっていく必要があります。

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今後ますます増える訪問看護の需要に応えるべく、人材育成は急務



-訪問看護業界における、今後の課題は何だと思いますか。



吉澤:やはり、後継者の育成ですね。今後、ますます訪問看護の需要は増えていくと思います。今は患者さんの入院期間がどんどん短くなる傾向にあり、私たちからすれば「こんなに重度なのに退院してしまうの?」と驚くことも少なくないんです。入院は医療費が高くなり社会保障費の支出が増えますから、なるべくお金のかからない在宅看護でまかなってほしい、という国の考えがあるんですね。

すでに今も超高齢社会ですが、2025年には団塊の世代の方たちが75歳以上の後期高齢者になります。4人に1人が高齢者になると、在宅の高齢者が溢れてくるわけです。そうなると、時代はますます訪問看護が求めるようになると思うんですよ。

小児についても同じです。医療が進歩したことで、以前は助からなかった子どもの命を救うことができるようになりました。だけどその分、重度の障害を抱えて生活する子どもが増えてきているんです。さらに、そういった子どもを育てる親はまだ若い場合が多いので、経済基盤が弱いんです。お金がない上に子育ても初めて、というケースも珍しくありません。小児は成長に合わせてケアの方法も変えていかないといけませんから、そういったケアに対応するためにも訪問看護師の人材育成は非常に重要です。

現在働いている訪問看護師も、介護をする利用者の家族も、どんどん年を取っていきます。私たちがケアすることができなくなった後、誰が利用者を支援するんだろうって考えるんですよ。例えば子どもが40歳になったとき、その子の親は60~70歳で、私たちは80歳くらいになっているかもしれない。そうなると、ケアしてあげたくてもできないんです。高齢者の寿命がのび、長い支援が必要な子どもたちも増えているわけですから、継続的に彼らの力になれるよう、後継者を育てていかなければなりません。

-どうすればこの課題は解決されていくと思いますか。



吉澤:先ほどお話したように、看護ステーションはぎりぎりの人数で仕事をまわしていて人を育てたくても育てられない現状があります。だから、経験がなくても訪問看護の世界に足を踏み入れられるよう、国からの支援を増やしたり、育成機関が整備されたりすれば変わっていくと思います。

例えば、新卒看護師ひとりにつき1年分の給与に当たる額の補助金を支援してもらえれば、しっかり時間をかけて人材を育てることができます。あるいは、新卒訪問看護師の育成機関を作って、半年~1年かけて研修を行う。そうすれば、新卒を採用したいと思っているステーションはその機関で研修を受けた人をそのまま採用できます。

松本:私は、「新卒では訪問看護師になれない」という思い込みをなくしていきたいですね。まずは自分が見本となって、「大丈夫!あなたにやりたい気持ちがあれば実現できるよ」ってことを後輩たちに伝えていきたいですね。

吉澤:やっぱり、何より大切なのは情熱だと思うんですよ。新卒だろうがベテランだろうが、経験は関係なくて強い意志を持った人に活躍してもらいたいです。だから、そのためには私たちがまず「訪問看護師はすごく面白いし、やりがいのある仕事なんだよ」っていうことをもっと発信していきたいですね。

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