こんにちは! 私は児玉のぞみ、つばさ病院循環器病棟の新人看護師です。
ふふふ。何を笑っているのかって? いよいよです。いよいよ来ましたこの日が。日勤の業務をこなせるようになり、夜勤デビューをする新人看護師が多いこの頃。私は、プリセプターの及川先輩がすごい心配性なせいで、同期の中で一番遅くなってしまいましたが、本日、私、夜勤デビューを果たします!
2交替制なので夜勤入は16時から。通常の夜勤は看護師3人体制ですが、私という新人がいるので今夜は4人体制。及川先輩とベテランナースの長嶋さんと島田さんという夜勤メンバーで、私は睡眠もバッチリ取ったし、ご飯もしっかり食べたし、病棟に30分前には到着したし、完璧です! 初日から遅刻なんてかっこ悪いマネはしませんよ? ふふふ。
でも、心配性の及川先輩は私より先にすでに病棟に来ていました。
「及川先輩、おはようございます!」
「おはよう…うわ…こ、児玉さん?」
あれ、私、もう何かやらかした? 及川先輩はいつもの困り顔でこちらを凝視しています。
「児玉さん、その両手の荷物は何かしら?」
「あ、これですか? 夜勤のためのお夜食とおやつです!」
「…えーっと…」
「ああ、もちろん、先輩方の分もありますからね!」
私は出勤途中のスーパーに寄って、夜食とおやつをお世話になる先輩がたの分まで用意してきていたのです。
「児玉さん…」
及川先輩、そんな感動しなくても。あ、でも眉毛がハの字になってる。私は及川先輩の危険信号を察知して笑顔を残し、その場を後にしました。
そうだよね。こんな袋を見たら中身が気になるし、お腹すいちゃいますよね、先輩。
長嶋さんと島田さんもやって来て記録などを確認しています。私は及川先輩に連れられ、病棟の患者さんたちにご挨拶へ。本当は「今夜、のぞみは夜勤デビューで~す!!」と叫んで回りたいところですが、グッとこらえて天使の笑顔。
中には「児玉さん、夜勤なの? 楽しいわね」って言ってくれる患者さんも。そうそう私がいれば、夜も寂しくないですよ。でも、私、夜勤ですから今日は忙しいんです。ふふふ。
16時きっかりに日勤さんからの申し送りが始まりましたが、私が夜勤デビューのせいか少し長め。
やっと送りを受け、先輩方は決められたルーティン通りに次々と業務をこなしてき、私も及川先輩に示指をもらいながら、あれこれと動きまわり、やっと患者さんの夕食を済ませて、与薬を終える頃にはなんだかヘトヘト。
でも、大丈夫! こんな時のためのお茶休憩の時間。美味しいおやつで元気回復です!!
しかし、まだ消灯にもなっていないのかあ……夜勤って長いなあ。
21時になり、消灯の時間です。患者さんに「おやすみなさい」を言いながら、ラウンドとともに電気を消していきます。うわ、電気の消えた病棟ってちょっと不気味かも……。
ナースステーションに戻ると、ベテランナースの2人が黙々と記録をしていました。
そんな沈黙に響く音が……。ぐ~。私のお腹の音です。
「あ…」
「及川さん、児玉さんとご飯食べてきていいわよ」と優しい島田さん。
ナースステーションには必ず誰かしら居ないといけないので、私と及川先輩が先に食べることになりました。
「先輩。オススメの幕の内弁当ですよ。これ限定なんです!」
私が例の袋を取り出すと及川先輩が言いました。
「児玉さん、夜勤は遠足じゃないのよ。次回からは自分の分だけ用意してきてね。私も自分のを持ってきているし」
「ああ、それ、私、食べましょうか?」と聞くと、及川先輩に怒られてしまいました。なんでもお弁当などはお互いが気を使わないように、自分の分を適量持ってくるのが常識だそうです。
及川先輩はご飯中までルーティンの確認とタイムスケジュールの話をしています。
「児玉さん、そんなに食べたらお腹痛くなるわよ」
「大丈夫です。お弁当ふたつくらいですから。夜勤は長いので体力付けないと!」
「これから児玉さん仮眠の時間なのに……」
「はい。満腹でよく眠れそうです!」
仮眠室は正直、寝やすいとは言い難い狭い所ですが、私、いつでもどこでも寝るれちゃうのが特技なんです! さて、満腹だし、夜勤後半のためにグッスリ寝よう。
……。
夜の病院って、静かだなぁ……。夜の病院ってなんか響きが怖いよね……。
……ん? 今、なんか白い影が通った? いや、気のせい、気のせい……。
……あれ? どうしよう。なんか寝れない。のぞみ、何をビビってんの? 幽霊なんか出ないわよ! 出てきても負けないんだから!
……児玉さぁん。……児玉さぁん。
うわあ、女のひとの声で呼ばれてる~。ゆ、ゆるしてくださ~い。成仏してえぇぇ……。
「児玉さん!!」
「ふへぇ!?」
「児玉さん、いつまで寝てるのよ」
私を呼ぶ声は、幽霊じゃなくて及川先輩が私を起こす声だったのです。
「あ!」
「あ、じゃないわよ。仮眠で爆睡する新人なんて前代未聞よ!」
はぁあ。私、児玉のぞみは夜勤デビューの仮眠で爆睡し、プリセプターに起こされてしまいました。
この前代未聞の出来事は、その後何年も、この病棟に語り継がれる武勇伝となったのは言うまでもありません。
※及川「児玉さん、武勇伝じゃないわよ。失敗談!」。のぞみ「はい、すいません……」。トホホ。
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