看護師マガジン
2016.8.23
2016年4月1日、2年に1度の「診療報酬改定」が行われました。その中では、高齢化とともに膨らみ続ける医療費を抑え、また、限られた医療関連の人・物・コストを有効活用するために、「病床の機能分化」や「在宅医療の充実化」に向けた取り組みが促されています。
果たしてそうした国の施策は、今後ナースの需要や働き方、重要視されるスキルにどのような変化をもたらすのでしょうか?今回は、過去の診療報酬改定やそれによる看護師求人の変化などを振り返りながら、2016年度の診療報酬改定が看護師のこれからに及ぼす影響について予想してみました。
・ナース求人の今。減る「病院」求人、増える「介護系施設・訪問看護」求人
・ナースの求人に大きな影響を与えてきた「診療報酬改定」とは?
・2016年度改定のポイントは2つ。「地域包括ケア」「病床機能の分化」
・2016年度改定が、看護師の求人に与える影響を予測してみた!
・今後、看護師の働き方や求められるスキルはこう変わる!
ナースセンターによると、看護師の有効求人倍率は2014年度には2.79倍、なかでも正看護師は3.26倍、また常勤の雇用形態だと求人倍率は3.22倍という高い水準に。
しかし、施設別に求人数を見ていくと、病院の有効求人数は2007年に11万1,000件を超えたのをピークに、2008年~10年にかけて減少。2014年には約8万6,000件と、2007年と比べ2万5,000件以上少なくなり、病院で働ける看護師の数が確実に減ってきているということが分かります。
一方、介護系施設と訪問看護ステーションでの有効求人数は2010年から増加を続け、2014年には介護系施設で2010年の約1.63倍、訪問看護ステーションで約2.13倍に。病院での看護師に対するニーズが減少するかたわらで、介護系施設と訪問看護ステーションでの有効求人数は、2010 年以降右肩上がりの状態となっています。
看護師 有効求人数の推移(施設種類別)
参考:ナースセンター「求人・求職統計 施設種別求人数等の実績(年報)」を独自集計
そうした動きの背景には、高齢化による2025年問題(※)を始めさまざまな課題解決のために国が進める「診療報酬改定」の存在があります。では、そもそも「診療報酬改定」とは何でしょうか?
それは、医療機関の診療に対して医療保険から支払われる報酬を、国が見直すこと。ほぼ2年に1回のペースで行われています。診療報酬は医療機関の収入源であるため、国は改定を通して医療機関に力を入れてほしい診療に高い報酬を設定し、医療機関を進むべき方向へと導こうとしてきました。
そして「診療報酬改定」は、長年に渡ってナースの需要や求人、働き方、スキルなどにも大きな影響を与えてきました。
※ …約800万人いるといわれる団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になる2025年頃に、日本が直面する超高齢化社会の問題。医療費は現在の1.5倍、介護費は2.4倍になると言われている
2006年度の改定では、急性期医療を手がける医療機関に支援を集中させる目的で、看護師の配置基準を見直し、入院患者7人につき看護師1人の割合で配置する、「7対1入院基本料」が導入されました。これにより、7体1の看護体制を敷く病院はより多くの診療報酬を得られるようになったのです。
本来この改定では、急性期病棟を中心に看護師の数が増え、現場レベルでは患者さんがより質の高い治療を受けられたり、看護師の過重労働が緩和されたりする効果などが期待されていました。
しかし、7対1の看護体制では医療機関が入院基本料区分のうち最も高い入院料を算定でき、収入を増やせることから、基準を満たすためだけに看護師を増員しようとする医療機関が続出。看護師を大量採用しようとした結果、病院での求人数は増えたものの、一部では看護師が不足する結果となりました。
そうした事態を受けて次の2008年度改定では、7対1入院基本料が適応される条件として、「看護必要度」と「医師配置基準」が追加されました。
「看護必要度」については、入院患者の状態を「一般病棟用の重症度・看護必要度の評価票」にもとづいて測定。7対1入院基本料を算定できる条件として、規定の点数以上の患者を病棟内に1割以上入院させている場合などとしたほか、「医師配置基準」では、病棟内の医師の数が入院患者の10分の1以上を占めることなどと定め、7対1算定のハードルを高くしました。
さらに、国は「10対1入院基本料」を引き上げ。医療機関では7対1から10対1への移行が促されて、7対1病棟を中心にナースの求人が減少しました。
そんななか2016年度の診療報酬改定で基本方針とされたのは、「地域包括ケアシステムの推進」と「病床機能の分化・強化、連携」の2つ。
「地域包括ケアシステム」とは、“高齢者ができる限り人生の最期まで住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けるために必要な支援体制”のことです。2016年度の改定では、かかりつけ医の評価や、在宅医療の充実にむけた取り組みなどが行われることが決まりました。
また、「病床機能の分化・強化、連携」では、引き続き7対1病床の対象を絞り込む動きが続いています。7対1入院基本料の施設基準である「重症度、医療・看護必要度」が見直され、重症患者の割合が15%以上から25%以上に引き上げられたほか、「手術などの医学的状況」を評価するC項目が追加。重症患者の定義自体がより厳しいものとなりました。
2016年度の改定では、「地域包括ケアシステム」の一環として在宅医療の評価体系が大きく改定されたのも特徴的です。なかでも訪問看護ステーションについては、常勤看護師の人数が多く診療報酬も高い「機能強化型」を届け出る条件が、緩和されました。
例えば訪問看護で超重症児の受け入れ実績が評価されるようになったほか、これまで病院と共同で行っていたターミナルケア(終末期医療・看護)については看取りの件数としてカウントされませんでしたが、今回の改定で「在宅がん医療総合診療料」を算定している患者さんへのケアについては、看取りの件数に含まれるように。
機能強化型訪問看護ステーションへのハードルが引き下げられました。それによって訪問看護ステーションが利益を上げやすい構造になるため、将来的には訪問看護ステーションの数が増え、そこでの看護師の求人数が全体的に増加していくことが考えられます。
また、2016年度の改定で在宅専門診療所の開設が解禁されたため、そこでのナースの求人数も徐々に増えていくことが予想されます。
お伝えした通り、2016年度の改定では施設基準である重症患者の割合が引き上げられたほか、看護必要度に新しい評価項目が付け加えられるなど、7対1入院基本料算定の要件がさらに厳しくなっています。
そのため要件を満たせなくなり、7対1から10対1の看護体制に移行する病院がいっそう増えることが考えられます。さらに移行をスムーズにするための措置として、本来は1病院で1種類しか届け出られなかった一般病棟の入院基本料を、2016年の4月から2年間に限り、病棟ごとに7対1、10対1などと算定することが認められました。
結果、7対1病床の数が大幅に削減され、その入院基本料算定のため病院に雇われていたナースが、余ってしまうという事態も考えられます。
重症患者を定義する看護必要度として、従来のA項目「モニタリングおよび処置」、B項目「患者の状況等」に追加されたC項目は、手術後の患者の状態などを評価するもの。
C項目には、「開胸・開頭手術(術当日より7日間)」「開腹手術(同5日間)」「胸腔鏡・腹腔鏡手術(同3日間)」「全身麻酔・脊椎麻酔の手術(同2日間)」「救命等に係る内科的治療(同2日間)」などが規定されています。
今後、7対1病床を中心にそうした手術に力を入れる病院が増えることが予想され、それに伴って急性期病院では、全体的に手術を担当する高度な技術を持ったオペ看の需要が高まる可能性があります。
2016年度改定の基本方針の1つ、「地域包括ケアシステム」の構築が進んでいくと、医療・介護・福祉などのサービス間での連携が強まっていきます。それによって在宅医療の領域で活躍するナースが増えていくことが予想されます。
具体的な活動の場としては、例えばデイサービスや介護付有料老人ホーム、特別養護老人ホームなどの介護施設を始め、機能強化型の届け出がしやすくなった訪問看護ステーション、そしてまだ求人数としては少ないものの、在宅療養支援診療所や今回の改定で開設が認められた在宅専門診療所などが挙げられます。
また、病床の機能分化と在宅医療の充実化が進むにしたがって、看護師が身につけるべきスキルは多様化していくことでしょう。
例えば医療機関では、一般病床が「高度急性期」「一般急性期」「亜急性期」「長期療養」の4種類に分けられることが決まっていて、それぞれの病床機能によって看護師に求められるスキルに違いが出てくることが予想されます。
さらに、訪問診療、訪問看護、訪問介護の領域では、看護師が医師だけでなくケアマネージャー、介護士など多職種と連携して、医療と介護をつなぐ役割を担っていくことが求められています。そのため、患者さんを「治す」立場から患者さんの「暮らし」を支える立場へとシフトしていく看護師が増えていくことが、考えられます。
2015年10月1日には、看護師が医師の判断を待たずに一定の診療補助行為を行える「特定行為」が施行。手順書があり規定の研修を受けていれば、看護師が脱水時の点滴などといった38の特定行為を行えるようになりました。そのため、看護師には今後ますますアセスメント力やゼネラリストとしての力が求められるようになるでしょう。
なかには、そうした役割の変化に違和感を覚えるナースもいるかもしれません。しかし、患者さんのQOL(生活の質)向上と医療との最大公約数を担う看護師の果たすところは、実に大きいものです。
訪問看護の現場からは、「ゆっくり話を聞いて処置できる」といった意見や、「病院にはない心の通った空間を持てる」「家族の支えになれる」など、とてもやりがいがあるという声があがっています。
病院で在宅医療で、看護師に求められるスキルが多様化していくと、看護師はこれまでより早い段階でキャリアの選択を迫られるようになる可能性があります。
なぜなら、お伝えしたように病院では病床機能ごとに、また医療機関と訪問看護ステーション、介護施設とでは、必要な看護技術や専門知識、スキルセットについて異なる部分が増えてくることが予想されるからです。
また、それによって将来的には、病床間、また病院と訪問看護ステーション、介護系施設との間で、今ほど自由には転職しにくくなることも考えられます。特に近年、全体的に医療機関の病床数が減少傾向にあることを考えると、これまでのような調子で看護師の売り手市場が続かない可能性も考えられます。
看護師は今後、これまでより長期的な視点で、培うスキルやキャリアパス、そして働く場所を選んでいく必要が出てくるでしょう。
病床数の変化
出典:厚生労働省「医療施設動態調査(平成 28 年 4 月末概数)
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・「平成26年度診療報酬改定について」(厚生労働省)
・「2016年4月診療報酬改定について」(国際医療福祉大学大学院教授 医療経営管理分野責任者 武藤正樹氏)
・「マンガ 誰でもわかる医療政策のしくみ vol.3 ―2016年度診療報酬改定徹底解説」鳥海和輝(編著)?,?田中へこ(漫画),?田淵アントニオ(漫画原作)
・「平成26年度 ナースセンター登録データに基づく 看護職の求職・求人に関する分析報告書」(日本看護協会 中央ナースセンター)
・「地域包括ケアシステム」(厚生労働省)
・「地域ケアにおける”キーパーソン”これからの看護師の役割とは」(TKCグループ)
・「特定行為に係る看護師の研修制度」(厚生労働省)
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