在宅医療の最前線で働く訪問看護師へのインタビューシリーズ。今回は株式会社JSH 訪問看護ステーション コルディアーレ東陽町の所長である北條 博一(ほうじょう ひろかず)さんを取材。精神科の病院で勤めた経験を活かして、精神科に特化した訪問看護の道へ進んだきっかけや利用者さまとのエピソード、所長としての働き方についてお聞きしました。
プロフィール
北條 博一(ほうじょう ひろかず)さん
株式会社JSH 訪問看護ステーション コルディアーレ東陽町に勤務の41歳。30歳を過ぎてから看護師資格を取得し、精神科の急性期病院に4年間勤務。病棟勤務中から現職でアルバイトをし、退職後は正社員として現職へ。訪問看護歴は7年目になり、半年ほど前から所長を務める。趣味はソフトボール。
ーー現在の職務内容について教えてください。
「株式会社JSH 訪問看護ステーション コルディアーレ東陽町」に訪問看護師として入職して7年目になります。半年ほど前から所長としての業務が主です。スタッフが利用者さま宅を訪問する順番を組み立てたり、病院への営業をしたりします。利用者さまとトラブルになりそうなときは対応に駆けつけることもありますね。
今は所長として事業所全体の助けになるよう心がけているので、自分が訪問する件数は少ないです。コルディアーレ東陽町が対応する訪問先は江東区、墨田区、台東区、中央区、千代田区、江戸川区とエリアが広いため、車で移動します。精神科に特化した訪問看護なのもあり、利用者さまは統合失調症やうつ病、双極性障害などの精神疾患を抱えている方が多いです。
ーー訪問看護師になろうと思ったきっかけは何ですか?
現職に知り合いがいて、その紹介で週に1回アルバイトをしていたのがきっかけです。その頃は精神科の病院勤務と掛け持ちしていました。看護師の資格取得後に精神科を選択したのは、男性看護師が多い職場だったからです。精神科の病院と訪問看護の両方を経験して、患者さまが過ごす場所が違うと看護の仕方が変わることを実感しました。病院では決められたルールに沿って、病院主体の看護をしますが、在宅医療は利用者さま主体の環境で看護をします。その部分に面白さを感じて興味を持ちました。精神科の訪問看護であれば病院での経験を活かせると思ったので、正式に就職しました。
ーー訪問看護師になる前に不安はありましたか?
自分の性格的によく喋るタイプではないので、30分の訪問中に間が持つか心配でした。それ以外の不安は特になかったですね。実際に訪問看護師になって、利用者さまと1対1で話すことは問題なかったです。ただ、最初はその場所に利用者さまのご家族がいると緊張したのですが、慣れてからは反対にご家族を巻き込んで話をするようにしました。そうすると会話が弾むんですよ。今はご家族がいても緊張せずに話せるようになりました。
ーー訪問看護の面白さについて教えてください。
利用者さまの見方や状況の捉え方を鍛えていくことで、訪問看護の面白さを感じられると思います。精神疾患を持っている利用者さまの状態は、医学的な数値で判断するものではなく、利用者さまの様子から判断していきます。当社では1人の利用者さまに対して日ごとに違うスタッフが入ることが多くあります。そうすると、訪問する看護師によって利用者さまに対する見方が違ってくるんです。それぞれのスタッフが感じたことや情報を共有すると、同じ利用者さまに対してさまざまな受け止め方があることが分かります。さらに、自分の視点で見ている利用者さまが本当の姿かどうか考えるきっかけにもなります。スタッフ同士で同じ利用者さまの情報を交換しあうことで、新しい発見があり、日々見えないところで看護師として成長ができていると思いますよ。
ーー訪問看護の大変なところは何ですか?
利用者さま一人ひとりに合わせた対応を考えるところが大変です。利用者さまはそれぞれ持病も違えば、年齢も性別も異なります。また、その方の性格に合わせて対応の仕方も変わってきます。たとえば、利用者さまが通院していた病院について聞きたいと思っても、病気について話したくない方もいるので聞き出すのに工夫が必要です。普段からたわいもない会話を大事にして、日常生活に関わる会話に交えて病気のことを聞くなど、間接的な聞き方を心がけています。
また、以前訪問した先で、統合失調症で幻覚障害がある方の両親から、「本人に入院を進めてほしい」と依頼されたことがありました。その方のご両親と電話で連絡を取り、事前情報を得てから利用者さまと話をして、なるべく利用者さまご本人の意向に沿うよう心がけましたね。また、地域の方や関連機関とも連絡を取りながら徐々に入院の話を進めていきました。利用者さまとしては不服な部分もあったかもしれないけれど、最終的には入院して治療を受けられたので、ご両親から感謝されたのを覚えています。
▲ステーション内は広々としています。スタッフ全員でコミュニケーションを取り業務しています。
ーー訪問看護師として大切にしていることはありますか?
利用者さまの気持ちを優先することを大切にしています。
以前、統合失調症を患う女性の利用者さま宅を週5日ほど訪問していました。その方の調子が悪いときは、病院に連れていく必要があったのですが、ある日病院に行くことを拒まれてしまったことがありました。2時間以上かけても玄関を出るのが精一杯で、上司にSOSを出したんです。駆けつけてくれた上司は、ただひたすら「そうですね」と利用者さまの話を聞いて相槌を打っていました。利用者さまのお話はまとまりがなく、理解しがたいことも含まれていましたが、上司は受け止めて聞いていたんですよ。
すると、利用者さまは30分ほど話し続けたあと、すんなり次の行動に移りました。その一部始終を見て、私の場合は「とにかく病院に行ってほしい」という自分の気持ちを強く出してしまったことや指示的な言葉になっていたことに気づいたんです。こちらの事情を優先して伝えるのではなく、利用者さまの思いを優先するべきだと学びました。
ーー訪問看護師として喜びを感じる瞬間はありますか?
ありますね。利用者さまが社会復帰に向けて動き出す様子を見ると喜びを感じます。退院直後の利用者さまはまだ気持ちが不安定で、ギリギリの生活を送っていることが多いです。そこから、自宅での生活や訪問看護に少しずつ慣れることで落ち着いた生活が送れるようになります。そうすると気持ちも前に向かっていって、社会復帰を目指せるようになるんです。
あとは、利用者さまと関係性が築けて、訪問看護師に心を開いてくれるようになったときもうれしいですね。普段の何気ない会話でも「聞いてくれて助かった」と言ってもらえたり、訪問看護師にだけ秘密を打ち明けてもらえたりするようになるなどの変化を感じると、信頼関係が築けていることを実感します。なかには、困ったことがあったときに直接電話をかけてくれた方もいて、自分のアドバイスで利用者さまが立ち直れることがあるとやりがいを感じますね。
ーー今後所長として、目標などがあれば教えてください。
さらに全体を見ながら仕事をこなしたいです。所長になる前は利用者さまのことを中心に考えていましたが、所長になってからはスタッフのことも考えるようになりました。スタッフと面談をして話す時間を設けたり、新人に対してどうフォローしたら良いか考えたりしています。特に新人には、自分から声をかけるよう意識するのはもちろんのこと、ほかのスタッフにも新人を気にかけてもらうように声をかけています。事業所を大きくするためには新しいスタッフが必要なので、今の良い雰囲気や関係性を維持できるようにしたいです。
ーー精神科の訪問看護に興味がある方に一言お願いします。
精神科の訪問看護だからといって、精神科での経験がないと困るわけではありません。入職してから精神科の分野について少しずつ学べば問題ないと思います。利用者さまの中には、身体的な持病を持っている方もいるので、精神科以外の分野の経験も十分に活かすことができます。また、訪問する際に困ったことがあっても、社内チャットを利用してすぐ連絡を取ることができるので安心です。「利用者さま宅を探しているけれど、住所を見てもどの家か分からない…」といった些細なことも聞ける環境なので心配しなくても大丈夫ですよ。精神科での経験がなくても、興味があれば恐れずに働いてみてほしいと思います。
ーーありがとうございました。
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