
訪問看護では、院内に多様な専門職が揃う病院と比べ、他職種が自法人外にいて連携が取りづらくなることがあります。たとえば、介護保険を利用する高齢者のケースで、ケアプランに関わる他職種の多くが自法人外にいるといった場合です。そうなると、目標や情報のずれが生じやすくなります。
そこで、他職種が訪問看護師との連携についてどう考えどんな経験をされてきたかを知り、連携を円滑にするヒントを探ります。第1回の本記事では医師の遠矢純一郎さんに話を聞きました。

― 訪問看護ステーションとの連携がうまくいかないという声を時折耳にしますが、実際にそういうことはあるのでしょうか。
遠矢:訪問看護ステーションや訪問看護師と医師との連携がうまくいかないのは、僕らの業界では「あるある」ですね。
具体的には、患者さんの病気や状態に関する情報が医師と看護師の間で十分に共有されず、ケアに支障が出るとか、患者さんの「こう生活したい」という希望に対して、何ができるか?という考え方が食い違うなどです。
― 連携がうまくいかない原因は、医師目線では何だと思われますか。
遠矢:原因はさまざまですが、医療的なスキルや考え方の違い、運営体制などが影響していることが多いですね。病院やクリニックが自前の訪問看護ステーションを持ちたがるのも、連携をスムーズにするためだと思います。

―連携がうまくいかなかったとき、遠矢先生はどのように対応されますか。
遠矢:僕の場合は、まず看護師さんの状況評価とその根拠を聞いて、意見をすり合わせるようにしています。看護師さんたちのほうが患者さんに関わる頻度が高く、医師が把握できていない情報を持っていることが多いからです。それで見方や考え方にズレが生じているのでは?と思うんです。
話を聞いて納得することもあるし、「僕の見立てではこうだけど」と伝えることもあります。いずれにせよ、齟齬はコミュニケーションの深堀りで解決することがほとんどです。よほどアセスメントスキルの差が大きければ別ですが、普通はあまりそういうことはないので。
―スムーズな連携のために、訪問看護師からはどんな情報を共有してもらえると助かりますか。
遠矢:もし看護師さんが、「もうヘトヘトで介護が続けられない」というご家族の本音や病状への不安をキャッチできたら、ぜひ医師に共有してほしいですね。
「お医者さんにはこんなこと言えない」は今でも結構あって、その隠れた本音には意思決定に関わる重要な情報が含まれていることがあるからです。
ー先生が携わられることの多い認知症※のケースでも同様でしょうか?
遠矢:認知症のケースでも、疲れ切ったご家族が「どうしてこんなことをしてしまうの?」「薬でなんとかできないかな…」と悩まれることがあります。
そうした情報を看護師さんが共有してくれると、関わり方をアドバイスできて、本人の症状が軽くなったりご家族の気持ちが楽になったりすることがありますね。
ほかには、病状の認識が医師とずれている場合。たとえば僕らが「余命2か月くらいかな」と考えている一方で、ご家族が「来年旅行に行こう」と話しているようなケースとか。こうしたズレも共有してもらえれば、より適切なケアを提供できると思います。
| ※桜新町アーバンクリニックは、世田谷区認知症在宅生活サポートセンターの業務を世田谷区より受託運営している。 |

―終末期ケアでの訪問看護師さんの役割について、どうお感じですか。
遠矢:終末期のがん患者さんは3か月ほどで亡くなるケースが多く、短い期間で緩和ケアを行います。モルヒネを使ったり、ドレナージチューブで胆汁を体外に出したり、カテーテルで栄養を補ったりと、目まぐるしい医療になるんです。
とはいえ、医師が訪問するのは週1、2回。看護師さんには連日対応してもらうので、訪問看護師の力量によって緩和ケアの質が大きく左右される部分がありますね。
―末期がんの患者さんの場合、訪問看護師さんとはどう連携していますか。
遠矢:がんの末期は、最期の1、2か月で患者さんの身体機能が急速に低下しますよね。普通に歩けてトイレも行けてご飯も食べられていたのに、ADLの状態も低下します。
ですので僕は、訪問する前に変化をよく把握している看護師さんに1週間のご様子を聞くようにしています。僕らがうまく連携できると、「この先どんなタイミングでどんなふうになりそうだ」という見立てを具体的にお伝えできる。そうすると最期まで患者さん、ご家族の望まれる形、場所での療養に繋がるんです。
―いよいよ死が近いという時期ではいかがですか。
遠矢:経験を積むと「この方は今夜かな」と感じることがあるのですが…たとえば看護師さんから「意識もはっきりしていませんし、血圧もかなり下がっています。いよいよ今夜かもしれません」と連絡をもらったときは、僕は夕方でも一度訪問して、看護師の見立ても踏まえてお伝えします。
「今夜が峠だと思います。呼吸が止まったらご連絡ください。ゆっくりゆっくり潮が引くように意識が低下していきますが、慌てなくても大丈夫です。ご本人は苦しみを感じていませんから、静かにそばにいて、耳は聞こえていますからいろんなお話をしてあげてください」とお伝えすると、ご家族が心の準備をするうえでのサポートになるんです。
それで夜中の3時に呼吸が止まったとしても、慌てて救急車を呼ぶのではなく「先生は今寝ているだろうから、朝になってから連絡しよう」と心の余裕が生まれることもあります。
そのためにも看護師さんが患者さんの変化を敏感に察知して連絡をくれることが大事で、僕もそこを逃さないようにしています。
こうした連携は死の瞬間だけでなく、急な発熱や痛みの変化など、医師が関与すべきタイミングでしっかり入るためにも大切。もちろん看護師のみで対応できるケースも多いので、バランス感覚が重要だと感じています。
―視点や方向性を合わせるために、貴院では早くからICTを活用するなど、積極的に取り組んでいらっしゃいますよね。
遠矢:そうですね。2009年の開業時から「地域でどう情報共有や連携を進めるか」を考え、業界のなかでいち早く、スマホを活用したSNS連携を始めました。
当院では、訪問診療でステーションと連携しているうち、当院併設のステーションとの連携が約100件、それ以外の約400件はほかの法人のステーションとの連携なんです。
後者の場合、異なる法人であることに加え、患者さんごとに医療・介護チームのメンバーも違うため、併設のステーションと比べると、どうしても情報共有や意見の統一が難しくなります。その点は僕が在宅医療で最もストレスを感じていたところで、スマホを活用した連携を始めた、という流れです。

―かなり早い段階からICTに取り組まれていたのですね!現在も同じツールを使われているのですか。
遠矢:現在は、世田谷区でもMCS(メディカルケアステーション)※という情報共有システムが稼働しており、当法人も加入しています。このシステムを活用して、外部の訪問看護ステーションなどの参加事業所と積極的にやりとりしています。
| ※MCS: 医療・介護の関係する多職種が繋がり、患者・利用者のカルテなどの情報を共有したり、経過や共有したい情報をその場でタイムリーに投稿したりできるネット上の完全非公開型プラットフォーム。本人や家族の参加も可能。 |
とはいえ未参加の事業所とはメールやFAX、電話を使う必要がありますし、介護業界ではICTにハードルの高さを感じる方もいる、そういった課題も残っています。
―地域での関係強化のために学習会にも取り組まれたんだとか。
遠矢:はい。コロナ禍以前ですが、地域の医療・介護職の方々を集めて学習会を開催し、知識や意識の共有を図っていました。テーマは、がんの緩和治療や麻薬の適切な使い方などです。
この取り組みには法人外の訪問看護ステーションからの参加も多く、顔の見える関係づくりにも大きく貢献したと思います。
―バランス感覚というお話がありましたが、医師と訪問看護師との理想的な関係は、どんなものだとお考えですか。
遠矢:それぞれが専門性を持ったプロですから、尊重し合い、フラットな関係で良いチームを作るのが理想的ですよね。
ただ、これまで医療の世界では「コメディカル」や「パラメディカル」という言葉が示すように、医師がオーダーを出して統括し、他職種はそれに従う、という構図が多かったわけです。
実際、医者の指示がなければ動けないと思っている看護師さんは多いと感じますし、中には自分の考えは持たずに「先生の指示がほしい」「どうしたらいいですか」と投げてくる方もいます。
でも、看護師は患者さんに最も関わっている医療職で、現場の状況を一番把握しているんです。医師も看護師を頼りにしている部分が大きいので、看護師が自分の意見を持って、主体的に動く範囲がもっと広がると良いと思います。特にケアに関わる部分ですね。
―先生の視点から、看護師と医師以外の職種との連携で課題と感じることはありますか。
遠矢:たとえば、看護師がお薬カレンダーを作ってその中に薬の包装を入れる作業をしているケースがあります。居宅療養管理指導※を活用して薬剤師が対応できる場合は、そちらにお願いするほうが適切だと思います。
| ※居宅療養管理指導:介護保険サービスの1つ。 |
看護師や薬剤師をはじめ、すべての職種の主体性、自由度を高めるのは、本来取り組むべき業務に集中するためにも重要です。もちろん、制度面での課題はありますが。
ー最後に、訪問看護師の方へのメッセージをお願いできますか。
遠矢:私は、看護師は地域医療のキーパーソンだと思うんです。医療面だけでなく、生活支援や介護の面も踏まえられるからです。
たとえば、デンマークの病院の平均の在院日数は4.1日(2013年の数値)です。これは地域医療が充実し、看護師の自立性も高いからこそ可能な数字だと言われています。
今後、日本もそうなっていくと思います。少子高齢化で、病院は病床数も増えない、増やさない情勢ですが、高齢者は増えているので病気になる方も確実に増えていきます。そして、そこをカバーする資源は地域ということになり、今病院でやっていることも地域に降りてきます。
訪問看護の必要性はさらに高まり、役割も広がるでしょう。訪問看護師さんがもっと増えて、より自立的に活動できる環境が整えば、日本の地域医療はより充実してくるのではないかと思います。これからも、地域医療を担うキーパーソンとしての活躍を期待しています。
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國居:遠矢先生のお話の中でステーションや看護師のスキル差に触れられていましたが、これはステーションの管理者の考え方が大きく影響していると思います。
たとえば、心不全の患者さんで呼吸苦がある場合に「咽喉マイクを使ってはどうか」という話が出たとします。そのとき「使ったことがないから分からない」で終わるステーションと、「分からないので教えてください」と積極的に学ぼうとするステーションでは対応や連携の質が大きく変わりますよね。
管理者の姿勢がスタッフに与える影響は大きく、「みんなで先生に教えてもらおうよ!」のような積極的な一言が、連携のスムーズさに繋がると感じます。
ただ、看護師側が「医師に言いづらい」と思っていたり、管理者の会で「医師に伝えても取り合ってもらえなかった」「忙しいから後にして、と言われて萎縮してしまった」という声が聞かれるのも現実です。
その中で、MCSのようなシステムが広がってきているのは良い傾向です。MCSで報告したら医師から返信が返ってくる、この形は、直接声をかける際の緊張や気遣いも減って、報告のハードルを下げてくれます。
それと、職種同士がフラットに話せる環境作りも大事だと思います。在宅医療は「チームで支える」という意識が基本なので、病院のように縦社会だと絶対にうまくいかないためです。
アーバンクリニックでは、医師と看護師とセラピストの座席を混ぜて配置しています。半年に1回はくじ引きで席替えもするので、普段話さない人とも自然に話すようになる。こういった取り組みは、チーム医療を進める上で効果的だと感じますね。

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