仕事
2016.4.18
はじめまして、医師の鈴木裕介と申します。内科医として臨床に従事するかたわら、アドバイザーとして病院の経営支援や人材育成のお手伝いをしています。一般の医師からはハグレたキャリアではありますが、非常にやりがいを持って医療に関わることができています。
以前は自治体の公的法人で医療職や学生のキャリアカウンセリングや就職支援業務に従事していました。そんな経歴からか、看護師さんからキャリアについてのアドバイスを求められる機会も多く、これまでに百人単位で医療関係者のキャリアの悩みと触れあってきました。そんな経験から、キャリアに悩む看護師さんにとってお役に立てるようなお話をさせていただきます。
相談者の方は色々な悩みを打ち明けてくれます。
「ずっと海外に憧れていて、いつかは留学してみたい」
「がむしゃらに急性期病院で働いてきたけど、このままずっとは続けられない気がする」
「『今の自分とは違う自分』の可能性を追いかけてみたいけど、ここ以外で働いたことないから不安」
その中で、とりわけよく聞こえるのが「私は看護師に向いてないのかもしれない」という言葉。そのうち多くの方が1~2箇所の病院でしか働いたことがないと言います。さらに詳しく聞いてみると、患者さんとの関係性ではなく、職場の人間関係に悩んでいるケースが多かったりします。つまり「それあなたの“適性”とは関係なくないすか?」というケースも多いのです。
私見ですが、こうした相談を打ち明けてくれる人の中で本当に看護師に向いていない人はほとんど居ないと思っています。なぜなら、看護師の働き方はおそらく多くの皆さんが想像するよりもずっと多様だからです。その可能性のほんの一部分しか知らずに、結論を出すのはあまりにも勿体無いと思うのです。まずはキャリアを相対化するために、看護師としての様々な働き方をツリー図にしてみました。
いかがでしょうか。
これらは可能性の列挙にすぎませんが、看護師としての力を発揮する場は意外にも多いと思った人が多いのではないでしょうか。もちろん「私は専門分化を果たさないし偉くもならないよ!」という考え方もありですし、同じ病院でも急性期と回復期、慢性期では働き方もやりがいも全く異なります。
要は、これらの端っこの項目のひとつがハズレだったというだけで、その他のすべての可能性を経験もせずに否定して看護師であることに絶望してしまうのは早計ではないか、ということです。
「新卒はまず最低3年間は同じ職場で辛抱強く働こう」とよく言われます。新人では仕事の全貌をつかむのは難しいですし、続けてやってみて初めて意味がわかることもあります。置かれた場所で美しく咲こうとする努力は必要でしょう。しかしながら、「まず3年」はただ盲信するには危険が伴う「思考停止ワード」だと私は思います。
例えば、ある職場では管理者の個人的な判断により「新人のうち2年間は患者に触らせない」という異質な育成方針が順守されているところもあると聞きます。医療現場には「部下の成長にコミットしない人」「優秀だけど部下をもつことが苦手な人」がマネジャーをしているケースも多々あり、良い職場との巡り合わせは「運」によるところも大きいというのが悲しい現状です。
職場から低い評価を受ける要因は、批判を受けている本人単独の問題ばかりではありません。ブラックな上司に萎縮してしまうと仕事が楽しくなくなりますし、「上司に怒られないこと」が仕事のゴールになってしまうと、患者さんのことが二の次になり、自分の頭で考えて成長するチャンスを失ってしまいます。
さらに、最も避けるべきなのは、否定的な評価を受け続けることで自身の「自己肯定感」を失ってしまうことです。「どうせ自分なんか何をやってもダメだ」というマインドになってしまうと、もし良いチャンスに巡りあったとしても、それにチャレンジしようとする気力が湧いてこなくなってしまいます。これはキャリアを長期的に考えたときに、本当に大きな損失だと思います。看護師という職業のうつ病リスクの高さを鑑みても、「まず3年」の盲信は危険です。自分が自分であることが嫌になってしまう職場ならば、いっそ勇気をもって辞めてしまった方がいいでしょう。
事実、職場を変えたことで見違えるように活き活きと働き、エースプレイヤーとして大活躍している人を何人もこの目で見ています。単純に「パズルのピース」が合わなかっただけ、というケースが多いのですが、それは実際に複数の職場を体験してみて「相対化」することでしかわからないものです。
「他にやりたいことがある!」という明確な気持ちがあるのに、今の職場を離れられない人がいます。聞いてみるとその理由は様々ですが、突き詰めるとその本心は「今の職場関係者からネガティブなことを言われるのが嫌すぎるから」だったりします。(しかも、その「職場関係者」というのも突き詰めると『自分の超苦手な1~2人』だったりします。)
しかし、こちらがどれだけ心を砕こうと、ネガティブなことを言う人は言いますし、人に少しも迷惑をかけない辞め方などありません。「辞め方」というのはある意味武道のように自他を傷つけながら徐々に体得し、上手くなっていくものだと思います。キャリアチェンジのタイミングが来た時に「辞める力」が無いと、大きなチャンスをつかめません。自分に対してネガティブな評価を下している人のせいで自分の可能性を諦めてしまうのは、とても勿体無いことではないでしょうか。
「短期間で辞めたら履歴書にキズがつく」という言葉もよく聞こえます。辞意を伝えた時に上司に言われることが多いようです。一般の労働市場においては事実かもしれませんが、この24時間フルオープンの看護師労働市場における需要の大きさはヤワではありません。
一部のジョブホッパー(転職を繰り返している人のこと)が転職に苦慮することは事実ですが、それは履歴書以前に本人の問題です。複数回の転職自体が問題なのではなく、その転職に合理的な説明が出来ないことが問題なのです。つまり、転職の目的を明らかにして「なぜこのような経歴になっているのか」を他の人にわかるように話せれば、「経歴書にキズがついた」と捉える必要はないということです。
もしあなたが今、自分のキャリアに違和感を覚えているとしたら、多分それはあなたが看護師に向いてないのではありません。あなたの良さを活かせる医療に、まだ出会っていないだけだと思います。「急性期でなければ医療じゃない」「常勤でなければ」という固定観念に囚われている人もいるかもしれませんが、大事なのは働く場所ではなく、あなたが看護師としての専門性を世の中にどう活かすかなのです。
鈴木 裕介(すずき ゆうすけ)
ハイズ株式会社 事業戦略部長
【経歴】
2008年高知大学医学部卒業。医師免許取得後、高知県内の病院に勤務。一般内科診療やへき地医療に携わる傍ら、高知県庁内の地域医療支援機構である一般社団法人高知医療再生機構にて広報や医師リクルート戦略、医療者のメンタルヘルス支援などに従事。若手医師仲間と起ちあげた高知の医療広報のための任意団体「コーチレジ」でのプロモーション活動により、高知県の臨床研修マッチング数を5年間で1.5倍に躍進させた実績を持つ。
また、2014年には若手医療職・学生対象に医療政策や経営を学ぶための私塾「RyomaBase」を設立。年間80回以上のイベントを主催し、医療者向けのMBAコースなどを展開。2015年より現職。日本内科学会認定医。
【専門分野】
広報資材(動画・紙媒体・Webなど)を含めた総合的な医療広報戦略
医師・看護士・その他医療機関におけるメンタルヘルス対策、チームビルディング支援
【出版】
・「看護管理者がリードする 3ステップで成果を上げる! チームビルディング超入門」(共著・メディカ出版 2015年)
・「ハグレ医者 ?臨床だけがキャリアじゃない?」 (共著・日経BP社 2013年)
・「Youtubeでみる身体診察」(共著・メジカルビュー社 2015年)
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