みなさん、こんにちは。こだまのぞみです。つばさ病院の新人看護師として日々、奮闘中ですが、今、一番、気にかかっているのは看護学生時代の親友・ひかりのこと。
先日、もうひとりの親友・ゆり子が弱音をグループLINEに送って来た時、一番しっかりしていて、いつでも冷静なひかりまでもが、「看護師辞めたい」なんて言い出したのです。
大丈夫? ひかり。すごく不安でドキドキするよ。
今回は、そんなひかりのお話です。
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私は高橋ひかり。つばさ病院の呼吸器科病棟の新米看護師です。最近、学生時代には行なうことができなかった看護手技や介助にもつくことができるようになり、プリセプターの長谷川先輩にも恵まれ、毎日が充実しています。
初めての受け持ち患者さま・白井千代さんは、脳梗塞の後遺症で意識レベルも低く、またご高齢であることからコミュニケーションがほぼ図れない状態の患者さま。
今回呼吸器病棟にいらっしゃったのは、呼吸状態が悪化したからでした。
初めの頃は熱発したり、肺雑音が聞かれるなどした白井さんですが、10日目にはバイタルも全身症状も落ち着いてきました。
私はアセスメントや看護計画など、自分なりに練りに練って、白井さんの看護に注力しました。
白井さんの家族背景は複雑で、お見舞いにいらっしゃっる方も居ないという状況でした。
私は眠っているのか起きているのかもわからない白井さんに色々なことを話しました。天気のこと、最近のニュース、そして自分のこと…。独りよがりなのはわかっていても、コミュニケーションを図りたかったのです。
13日目、病棟は落ち着いていて、白井さんのバイタルも一般状態も問題ありませんでした。
私は以前から考えていた介助をしたくて、長谷川先輩に相談しました。
「白井さんの頭髪が汚染されているように感じます。バイタルも状態も落ち着いているので、洗髪させていただいても良いでしょうか?」
「洗髪? たしかに良いかもしれない。ドクターに確認しましょう」
「ありがとうございます」
長谷川先輩は行きかけてすぐに振り返り、「高橋さん、頑張り過ぎてない? あまり無理しないようにね」と言って去って行きました。
先輩には私が無理しているように見えるのかな? でも、私はただ白井さんにできることをしたい一心で疲労など感じていません。
長谷川先輩は、何か言いたかったのでしょうか……。
その日、ドクターから許可をもらうと、長谷川先輩が見守る中、私は白井さんの洗髪しました。
洗髪の経験はありますが、意識のほとんどない患者さまへの実施は初めてです。私はケリーパッドを使用して、洗髪車で実施しました。
「お湯加減はいかがですか?」
返事がないのはわかっていますが、声かけをしながら慎重に湯加減を確認し、皮脂やホコリなどで汚れた頭髪をキレイにしていきました。
洗髪は順調に進み、最後のすすぎの時でした。
白井さんのお口がまあるく開くと、「ほーぅ……」と気持ちの良さそうなため息を発せられたのです!? 初めて聞いた白井さんの声でした!!
「白井さん、気持ちがいいって言ってるわね」
長谷川先輩の言葉に、私は涙がこぼれそうになりました。ああ、看護師になって良かった!
帰宅する混み合う電車の中でも、疲労感はなく、その幸福な暖かさがずっと残っていました。
明くる朝、いつも通りに早めに病棟に出勤すると、夜勤の先輩方は忙しなく、病棟の空気もいつもの違う気がしました。
私はまず、いつもの挨拶をしに白井さんの病室を訪れました。するとそこには、白井さんの姿はなく、空のベッドだけがあるだけでした。
『まさか!?』
私は詰め所に駆け戻ると、夜勤の先輩に白井さんはどこにいるのか聞きました。先輩は、「高橋さん、あのね、白井さん急変したんですって。もうエンゼルケアも終わって霊安室にいらっしゃるから」と言うのです。
私は言葉を失いました。言葉だけではなく、あらゆる思考や感情が一瞬、消え去りました。
長谷川先輩が出勤され、私を霊安室に連れて行ってくれました。そこには化粧をほどこされた白井さんが……。
嘘……。だって昨日、「ほーぅ」ってため息をして、白井さんは呼吸をしていたのに……。
生きていた。白井さんのあの生きている証のような「ほーぅ」というため息を思い出した途端、私は泣き出してしまいました。
呼吸が困難なほどの嗚咽を止めることができず、息苦しさで胸がつまりました。長谷川先輩がずっと私の背中をさすってくれても、その胸に突き上がる痛みは消えません。苦しさは後から後から嗚咽となって私を襲いました。
白井さん……。
『昨日、洗髪なんかしなければ!』、『私の判断ミス?』
始めの衝撃が過ぎると、どうにもならない疑問で押しつぶされそうになりました。
そんな私に、長谷川先輩も他の先輩がたも、ドクターさえも、「高橋さんが洗髪して、綺麗になって、白井さんもきっと喜んでいらっしゃるよ」と口々に言ってくれました。
でも、私は『本当にそうだろうか?』、『私が死期を早めてしまったのかも』と思わずにはいられませんでした。
患者さまの最期は実習中にもありました。でも、その時とはまた違う重さを感じました。白井さんの担当は、この私だったのです。私が担当じゃなければ……、もしかしたら……。
それでも勤務中は笑顔で患者さまと接していました。自分でも嘘のような、白々しい演技に思えました。帰宅途中も、家についても、私は白々しい笑顔を貼り付けたまま、泣きたいのか、笑いたいのかさえ、わからなくなっていました。
『看護師って、こんなにもツラいものなの?』、『何のために私は看護師になったんだろう?』。
でも誰にも言えない。言いたくない……。その言葉は絶対言ってはいけない…。言ったら、終わる……。
私は、自分をごまかし続けていたのかもしれません。
その時でした。
看護学生時代の親友・ゆり子から、LINEのグループチャットにコメントが次々と入ってきたのです。その言葉は、言えなかった私の心でした。
【もう看護師、辞めたい…】
『友人の窮地に何か言わなくちゃ』と思っても、出てくるのは【ゆり子だけじゃないよ。新人なんだからみんなもツライんだよ】、【もう頑張れないくらい頑張ったんだよね】なんて一般論ばかり……。
すると、もうひとりの親友・のぞみが、【そうだよ、ゆり子。あんたは頑張ってる。辞めるなんてもったえないよ!】とコメントを入れてきました。
のぞみはつねに前向きで、真剣に悩みすぎる私をいつも明るくしてくれる存在なんです。
そののぞみの言葉が、私の白々しい笑顔の仮面を壊しました。
「あんたは頑張ってる」
他に人に言われても何ともなかったかもしれない。でも、看護学校時代、ずっと一緒に頑張ってきたのぞみの言葉に、私は「ああ、ここでなら、私は甘えてもいいんだ」と思えたのです。そう、ゆり子みたいに、私も。
だから、誰にも言えないと思っていた言葉を思い切って、書いてみたのです。
「私も看護師辞めたい」と。
予想どおり二人は驚き、その後、必死になって励ましてくれました。「辞めたい」を連発していたゆり子までが、のぞみと一緒になって、「看護師辞めるなんて言わないで」「一緒に頑張ろう」と、たくさん、たくさん、たくさん……言ってくれたのです。
白井さんの死は、私に看護師としての責任を教えてくれました。何が正解か答えなどないのだということも。
そして、私にはどうしようもないくらい辛い時に、甘えてもいい戦友がいるのだということも……。
白井さん、私は立派な看護師にはなれないかもしれないけれど、患者さまのために悩み続ける看護師になります。
翌日、出勤して仕事をしていると、長谷川先輩が「高橋さん、大丈夫?」と心配そうに聞いてくださいました。
そうか、他の先輩やドクターも、みんな知っているんだ、この苦しみと重みを。そう思うと恐怖が少し薄らぎました。
__私、ひとりじゃないんだ。
私は感謝の思いを込めて、「今日もご指導、宜しくお願いします」と深く頭を下げました。
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ひかりはやっぱり尊敬できる私の親友です。ゆり子もなんだかんだねばって頑張っています。そして、私も__、とこの話は次回にしますね。
看護学生時代の友人は、一生の宝ものです!
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