
産科や母子保健の現場で、痛みに耐えながら授乳や起き上がりを頑張る妊産婦さんの姿に、「無理のない範囲で」と声をかけつつも、どこかで「もう一歩、何かできることはないか」と感じたことはないでしょうか。
本記事では、フランスの医師ベルナデット・ド・ガスケ氏が確立した「ガスケ・アプローチ」を通じ、生理的メカニズムに基づいたケアを日本で普及させている一般社団法人 ガスケ・ジャパンをご紹介します。
姿勢と呼吸というシンプルな切り口から身体の扱い方を見直すこの知見は、現場での「関わり」を具体的な解決策へと変える力を持っています。専門職としての視座を高め、患者さんとともに「心地よさ」を実感できる看護を形にするための、確かな一助となる取り組みをご覧ください。

たとえば、帝王切開後の患者さんが、はじめてベッドから起き上がろうとする場面。「痛いけど、がんばらなきゃ」と体を丸め、息を止めながら上体を起こそうとした瞬間、顔がこわばり、動きが止まってしまう。そのあとに続く授乳も、「この姿勢で合っているのかわからない」「抱えているだけでつらい」と戸惑いながら、なんとか耐えるように過ごしている。
現場でケアにあたる方々も、「無理のない範囲で」「痛みが強ければ休んで」と声をかけながら、どこかで「もう一歩、何かできるのではないか」と感じている医療従事者は少なくありません。
一般社団法人 ガスケ・ジャパンは、フランスの医師ベルナデット・ド・ガスケ氏が研究をまとめた「ガスケ・アプローチ」と出会った医療従事者たちが、「この視点を日本の臨床現場でも活かしたい」という思いから立ち上げた団体です。
姿勢と呼吸からペリネ(骨盤底筋)や体幹にアプローチするこの方法は、もともと周産期医療のなかで、出産によるダメージから女性の身体を守るために発展してきました。現在、同団体には、産婦人科医、助産師、看護師、作業療法士・理学療法士など、多職種の医療従事者が参加しています。
フランス本部の教育機関であるA.P.O.R.(ド・ガスケ研究所)と正式なライセンス契約を結んだ認定法人として、現地と同じ教育体系に基づく研修プログラムを、日本語で、そして日本の医療現場の文脈に合わせて提供しています。同団体が大切にしているのは、「科学的に確かであること」と「現場で本当に使えること」を両立させることです。
たとえば先ほどのような場面でも、ガスケ・アプローチでは「姿勢」と「呼吸」の視点から状況を捉え直します。腹圧のかかり方や重力の方向を整えることで、起き上がりやすさや痛みの感じ方が変わり、授乳の姿勢も「がんばるもの」から「心地よく保てるもの」へと変化していきます。ほんの少し関わり方を変えるだけで、患者さんの表情がふっとゆるむ瞬間がある。その変化を、現場で再現できる形で共有していくことを、同団体は大切にしています。
対面とオンラインの双方で行う少人数制の基礎概念の研修会では、「姿勢」「呼吸」「ペリネ(骨盤底筋)」を自分で体感することで、臨床で瞬時に使える理解の入り口を身につけます。それは忙しい臨床の合間でも、「まず自分が楽になる」感覚を入り口に学べることでもあります。また研修会は、受講者同士が専門職としての悩みや工夫を率直に語り合える場であることも、大切にしています。
産科病棟や外来、母子保健の現場で、妊産婦さんから「腰がつらい」「お下に違和感がある」「産後、もとの体に戻るのか不安」といった声を聞くことは少なくありません。そのたびに、限られた時間と人手のなかで、「今のケアに、もう一歩なにか加えられないだろうか」と感じてこられた方も多いのではないでしょうか。
ガスケ・ジャパンの研修コースは、こうした現場のモヤモヤに対して、「姿勢」と「呼吸」というシンプルな切り口から、周産期ケアを組み立て直すための引き出しを増やしていくことを目指しています。重力や腹圧のかかり方を見直し、ペリネを守りながら、妊娠中・分娩時・産後のからだをサポートする具体的な方法を、受講者自身の身体で確かめながら学んでいきます。

医師・助産師を対象とした「周産期アドバイザーコース」では、ペリネを守る「生理的」な分娩体位や努責の仕方、産褥早期からのケアやエクササイズ、授乳姿勢の工夫など、「いつものケアを少し変えるだけで患者さんの表情が変わる」ようなヒントを、具体的なケースと結びつけながら積み重ねていきます。
一方、「ペリネ教育アドバイザーコース」は、看護師・保健師・リハビリテーション専門職など、周産期以外のフィールドで女性の健康に関わる方にも広く門戸を開いています。基礎編では、eラーニングを活用しながら、ペリネの機能解剖を「頭で覚える」のではなく、自分の身体感覚と結びつけて理解していきます。
応用編では、ヨガをベースとした妊娠期・産褥期のエクササイズ指導を実技で学び、過剰な腹圧を避けながら、日常生活や育児動作の中で実践できる具体的な身体の使い方、回復の仕方を身につけます。
バイオメカニクスに根ざした視点を持つことで、「なんとなく良さそう」だったケアが、「なぜそれがペリネを守るのか」「なぜその姿勢だと楽になるのか」を説明できる言葉に変わっていきます。その変化は、妊産婦さんにとっても、医療従事者自身にとっても、セルフケアへの納得感と安心感につながります。
「日々の臨床での小さな成功体験を積み重ねながら、母子の健やかな生活を長く支えていく」
ガスケ・ジャパンの研修は、そのための確かな伴走者となることを掲げています。
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