
病棟の外の「精神科訪問看護」の世界。興味はあるけれど、具体的なイメージが湧かない、そんな看護師さんも多いのではないでしょうか。
救急病棟で3年勤めたあと精神科訪問看護に転職した私が、1日の流れや、実際の訪問での業務内容、求められる視点をお伝えします。
支援の対象は症状だけではなく、生活そのもの。精神科ならではの難しさも、やりがいもあります。精神科訪問看護に関心のある方が、一歩を踏み出すヒントになれば嬉しいです。
まずは、とある1日の流れを紹介します。
私が働くステーションでは、午前中に2〜3件、午後も3件の訪問が基本。訪問範囲が広いため6件が限界ですが、中には7、8件こなすステーションもあるようです。
▼1日のスケジュール
| 9:00 | 朝礼 |
| 9:30~ | 訪問×3、記録 訪問時間は30分以上で、基本的に看護師1人で訪問します。訪問の合間にiPadで記録を書き進めます。 |
| 13:00~ | 休憩 飲食店やコンビニでお昼を食べるか、ステーションに戻ります。 (以前、発達障害のある小学生の男の子が「近くのラーメン屋さん、おいしいよ!」と教えてくれて、気になって行ってみたことも。好きなものを共有できると、それだけで少し信頼関係が深まるんですよね) |
| 14:00~ | 記録。主治医・ほかの支援者に、変化があった利用者さんの状況報告・相談の電話 |
| 15:00~ | 訪問×3・記録 |
| 18:00 | 記録、終礼 ステーションで記録の仕上げや関係機関との連絡、翌日の準備。 |
移動は主に電動自転車です。春は川沿いの桜が綺麗で、病棟では感じられなかった“季節”を楽しめます。
ナースコールが絶えずに業務が中断される病棟と違い、訪問では移動で頭をリセットできるのが私には合っています。

ただ、トイレ事情は訪問看護ならではの悩みです。我慢して膀胱炎になった先輩もいたほど。利用者さん宅では基本的に借りられないので、コンビニの存在は本当にありがたいです。
病棟時代の私は夜勤中の仮眠から心臓バクバクで起きることがあったのですが、訪問に転職してからは、夜勤がなくなって残業も平均で月5時間ほどと、体の負担が減りました。
訪問中の業務の8割は“対話”です。そう言うと、「え?喋ってるだけ?」と驚かれるのですが、この“対話”こそが私たちの看護の中心なんです。
利用者さんは、ざっくり3割が統合失調症、3割がうつや双極性障害、2割が10代の発達障害やうつ、そのほかアルコール依存症など。対話の多くは「生活」にまつわる困りごとで、たとえばこんなふうです。
日常の困りごとに耳を傾け、どうすればラクに暮らせるかを一緒に考えます。
その中で、返事が遅い場合は「うつ状態が悪くなっていそうだな…」と考えたり、さりげなく服薬状況を確認したり。薬のセット、バイタル測定、食事・清潔ケア、体操をすることも。
生活保護や障害年金、中には宗教団体や夫に搾取されて…などの事情で収入が少なく、お金の管理が苦手な人もいらっしゃいます。「あと何日で◯円使えるから…」「食費代はあといくら残っていますか?」と話しながら整理するうちに、本人も「そうね!」と気づいて、自分で計画して行動できるようになることもあるんです。
それから、ご家族の不安も私たち看護師がまず受け止めます。たとえば「うちの娘、このまま引きこもっていたらどうなるんでしょうか…」と悩んでいるとき。別々の部屋で話すこともあれば、あえて家族と本人の前で「このままゆっくりでいいんですよ」と伝えることも。そうすると、ご本人もホッとした顔をするんです。

以前入院したことのある方には、再入院を防ぐ支援が大切です。クライシスプランという計画表が有効で、調子の青信号・黄色信号・赤信号の指標と対処法を作ります。
こんなふうに、私たち訪問看護師が入ると、ご本人の努力だけではどうにもならなかった困り事が、「病気」や「症状」に基づいて整理され、少しずつ良い方向に動きます。ご家族に理解があっても、本人からすると弱いところを見せたくなかったり、「頑張らないと」とプレッシャーになったりするものです。
医療知識を持つ看護師が介入することで、初めて見えてくることがある、そう感じます。
転職して一番驚いたのは、訪問看護師にとっては「移動」が大きな業務だということ。1日6件の訪問で、なんと合計2時間近く自転車をこいでいます。
ちなみに車のほうが断然楽かと思いきや、ほかの看護師曰く、30分の訪問を終えて戻る頃には、車内は蒸し風呂のようになるそうです。笑
「天候」にも左右されます。暴風雨の日なんて命がけ。風にあおられて生垣に倒れ込み、制服が草だらけになったこともあります。

雪の日、普段は自転車で20分の場所にバスを乗り継いで1時間かけて訪問したこともあります。やっとの思いで到着したものの、うつ症状が強く出ていた利用者さんは起き上がれず、ドアを開けてくれませんでした。病状によるものと頭で分かっていても、やっぱり気持ちが沈みました。
でも、そんな日でも訪問に行く理由があります。
たとえば、認知症が進行している独居の利用者さん。薬を看護師がセットして声掛けをしないと、飲み忘れてしまうケースも多いです。
また、幻聴や妄想を持つ統合失調症の独居の利用者さん。1人で街を出歩くのが難しく、買い物に同行しなければその週の食事がままならないこともあります。
病棟勤務では見えづらかった“生活”の実際を、訪問看護では間近で感じられる──これこそ私がやりたかった仕事です。
ご自宅に伺うと、生活背景が見えてきます。ただ、私たちが直接できる支援は限られています。だからこそ、ほかの支援体制や制度についての理解が不可欠です。
「保佐人がこう言ってて……」と利用者さんに相談されたことがあったのですが、当時の私は制度をよく知らず、深掘りできませんでした。それから福祉サービスについて勉強を始め、成年後見制度含め、障害福祉サービスの仕組みを知る中で、看護の幅が少しずつ広がっていきました。
印象的だったのは、金銭管理が苦手な統合失調症の利用者さんが「今月、もう2,000円しか残っていません」とポツリと打ち明けてくれたときのこと。すぐに炊き出しやフードバンク、自治体の緊急支援に繋ぐ必要がありました。
翌月以降の金銭管理を一緒に考えるのも大切ですが、目の前の“今月”をどう乗り切るかーーそうしたリアルな危機への対応も、生活の中に入って支援する訪問看護ならではの役割だと感じました。
私の勤務先では、発達障害やうつ症状のある小児の訪問も行っています。特別支援学校や放課後等デイサービスなどの情報も必須です。実際に放課後等デイサービスを見学させていただいた際には、「こういう場所ならこの子は楽しめるんだな」と、具体的なイメージが持てるようになりました。
医療制度も、看護師だから関係ないとは言っていられません。自立支援医療制度を使っている方も多くいます。医療費の負担軽減制度や高額療養費制度についての基本知識があると、相談にもスムーズに応じられます。
生活保護、障害年金、失業手当の話題も日常茶飯事です。利用者さんごとにどのタイミングで収入があり、それが何に使われていくのか――そういったお金の流れを理解していると、「あれ、◯◯さん、今月は電気代と携帯代が払えないんじゃないかな」といった変化に気づけます。
通所先も、デイケア、就労移行支援、A型・B型事業所など、目的や支援内容もさまざま。それぞれの特徴やプログラムを知っていれば、利用者さんの通所先での悩み事に具体的に寄り添えます。
私も最初は知らない単語ばかりでこんがらがりましたが、入職直後は丸々2日間の座学がありましたし、月に2度の内部研修に参加したりWebで調べたりと、勉強を繰り返したら身についてきます。
訪問看護を必要としている方に届けるには、まず「知ってもらう」ことが大切です。そのため私たちは訪問の合間に、福祉事業所や地域の病院、相談支援事業所を回っています。パンフレットを持参して、制度や対応できることを説明するのですが、これがなかなか難しい…!
単にサービス内容を伝えるだけではなく、相手の困りごとに合わせて、支援内容を提案する姿勢が求められるんです。
「こんな利用者さんへの対応が難しくて…」と相談され、「訪問看護でそこを支援できます」と提案できて契約に至ったときは、訪問看護の意義を感じます。
最初は知らない事業所に飛び込むのが怖いし、名刺交換のマナーすら分かりませんでした。でも回数を重ねて、熱意を持って支援しているスタッフさんと出会うと、「この地域でもっと役に立ちたい!」という気持ちが湧き上がってきます。今では、営業活動も訪問看護の延長線上にあると感じています。
訪問看護のやりがいを感じた、忘れられないエピソードがあります。
パニック障害で、電車に乗ると強い不安や動悸、息苦しさが出てしまう10代の利用者さん。
30分かけて徒歩通学していたのですが、熱中症になったことから次第に通学が難しくなりました。付き添ってくれる家族への申し訳なさ、1人で動けないもどかしさを感じていた彼女。
そんな中で「趣味のグッズを買いに、1人で繁華街に行く」という目標を一緒に立て、電車に乗るサポートを始めました。本人と話しながら、「看護師にはこのタイミングで声をかけてほしい」「気分が悪くなったらこう対応してほしい」という対処法や「ランクアップ表」を作成しました。

ステーション内でも、訪問回数やタイミングをうまく調整し、看護師が変わってもスムーズにランクアップしていけるように、チームとして柔軟かつ統一した対応をしました。
最終的に、「1人で電車に乗れたよ」と照れながら報告してくれた笑顔は、今でも私の原動力になっています。支援で目に見えて利用者さんの生活が変わった、貴重な体験でした。
医学知識だけでは対応しきれない場面にも、何度も直面します。今でも思い出して心臓をキュッと握られる出来事があります。
ある利用者さんから「眠れなくてつらい」と相談されました。睡眠薬の服用タイミング調整や、スマートフォンを早めに切って光刺激を減らす、室内照明を段階的に暗くしていくなど、生活指導でお伝えする対策は、すでに実践されていました。私にはそれ以上のアドバイスが思いつかず、「主治医に相談してみてくださいね」と返すのが精一杯で。
後日、別の看護師の訪問時の記録に「〇〇さん(私のこと)には眠れないつらさを理解してもらえなかった」と書いてありました。痛いところを突かれ、胸がぎゅっと締めつけられました。あのとき彼はすでに主治医に相談し、それでも改善されず、すがる思いで私に話してくれていたのかもしれません。その気持ちに気づけず、応えられなかった自分が情けなくて、「せっかく信頼して話しかけてくれたのに。私は誠実ではない、あたりさわりない対応をしてしまったんだ…」と反省しました。
別日には、「安い食材で栄養のある食事を作りたいんだけど…」と、相談を持ちかけてくれました。ですが私は普段あまり自炊をしておらず、具体的なアドバイスができなくて。
やっとしたアドバイスでしたが、ほかの看護師には「そんな質素なもの食べたくない…」と漏らしていたそうです。「こんな食生活を続けるのは苦しい」という彼の思いもまとめて、私自身にのしかかってきました。
病気や症状への知識だけでは、患者さんの生活を支えることはできません。特に訪問看護では、支援の内容はその人の「生活」そのものです。生活に根ざした知恵や、実際に自分で体験したことのある苦労が、患者さんとの共感を生むのだと思います。
私はその後、近所のスーパーに足を運び、野菜の値段をメモしたり、安価で栄養価の高い食材の調理法を調べたりしました。まだまだ知識も経験も未熟ですが、それでも「分からないから学ぶ」「できないなら努力する」ことはできる。そう自分に言い聞かせています。
転職前に多くの方が気になるであろう、異性の利用者さんへの訪問。
私のこれまでの経験で言うと、調子が悪い患者さんに物を投げられたり、ステーションのドア前に居座られたりと、正直、危険なこともありました。
防犯ブザーを渡されましたが、気休めにしかなりません。
効果的だったことでいうと、「訪問時に座る位置は、利用者さんよりもドア側に」と指導されたことです。
ほかには、飲酒量が増えて自制が効かない男性利用者さんにセクハラ発言をされたケースや、男性看護師が女性利用者さんに抱きつかれたケース。そういった場合、しばらくその看護師は訪問に行かず、ほかのスタッフが代わりに対応するようにしています。
私も最初は訪問看護が未経験でしたし、病棟経験も3年とそれほど長くなく、不安しかありませんでした。でも、しっかりとした研修や4週間の同行訪問があったおかげで、少しずつコツをつかめるようになってきました。
対応が難しい場面もありますが、おうちを見せていただき、生活をサポートできる喜びは大きいです。小さな変化に気づけたとき、看護の力を実感できます。
精神科が未経験でも、チャレンジしている仲間はたくさんいます。もし少しでも興味があるなら、ぜひ一度検討してみてください。きっと、新しい看護の視点が得られるはずです。

記事の制作について
「レバウェル看護 看護師さん向けお役立ち情報」では、
記事の制作・公開にあたってのポリシーを定めています。
詳細は下記よりご確認いただけます。
キャリア
働く場所
選考対策
資格
その他
読みもの
連載
コメントはありません