
「研修時にエンパワーメントという言葉を耳にしたけれど実践方法が分からない」と困っている看護師は多いのではないでしょうか。
ここでは看護におけるエンパワーメントの概要や現場で実践するメリット、支援設計などについて詳しく紹介します。
この記事を最後まで読み終えてもらえれば、エンパワーメントについて理解が深まり、看護実践に活かせるでしょう。
「エンパワーメントをうまく取り入れたい」と考えている方は、ぜひ参考にしてください。
「そもそもエンパワーメントとはどういうのものなの?」と疑問に感じている看護師は少なくないでしょう。
ここでは、エンパワーメントの定義・意味や8原則、対象者について分かりやすく解説するので確認してみましょう。
本来、エンパワーメントとは「権限を持たせること」「自信を与えること」といった意味を持つ言葉です。
看護の現場では、患者様・スタッフにかかわらず、各々が自分の力を発揮し、主体的に意思決定できるよう支援することを指します。
日本看護学学会によると、看護の援助としてのエンパワーメントについて「人々が自己の生活をコントロールし、決定する能力を開花させていくプロセス」としています。
患者様自身の力で健康上の問題を解決することを目指した関わりと言えるでしょう。
福岡市社会福祉協議会の「エンパワメントの理論と技術の活用(P1)」によると、エンパワメントの8原則について下記のように述べています。
8原則を意識することで、患者様の自己決定を支援するのに役立ち、看護師も主体的に看護業務に取り組むのにつながるでしょう。
看護におけるエンパワーメントは、患者様だけでなく看護師自身やチーム全体も対象となり、下記のようなサポートを行います。
| 対象者 | サポート内容 |
| 患者様 | 治療やケアのの方針などに関する自己決定を尊重し、自分らしい生活を送れるように支援する |
| 看護師やチームメンバー | 主体的に意見を言える環境やスキルアップの機会などを提供する |
エンパワーメントは患者様と医療者が信頼関係を築き、協働できる環境を整えるほか、看護の質の向上が期待できます。
エンパワーメントはビジネスや教育現場、福祉などさまざまな分野で用いられてきた概念ですが、看護の現場でも注目されています。
ここでは、看護でエンパワーメントが注目されている理由を紹介するのでご覧ください。
現代は変化が激しく先行きが予測しにくいことから、下記の頭文字をとって「VUCA時代」と呼ばれます。
医療現場は、新しい医療技術や疾患、価値観の多様化など、従来通りの一方的なケアでは対応しきれない場面が増えています。
エンパワーメントを取り入れれば、患者様や看護師が自ら考え、医療現場における変化に柔軟に対応する力を高められるでしょう。
エンパワーメントではスタッフ一人一人が自らの役割を理解し、課題解決に主体的に関わる姿勢が育ちます。
そのため、後輩指導やチームマネジメントができる人材が自然と育ち、現場の活性化につながるでしょう。
限られた人材資源の中で、次世代リーダーの成長を促すことで、将来に向けて看護の質の維持・向上が目指せます。
看護現場におけるエンパワーメントの実践は、患者様の自己決定支援だけでなく、チームの働きやすさや看護自身の成長にも大きく貢献します。
エンパワーメントを看護の現場で実践するメリットは下記のとおりです。
それぞれのメリットについて詳しく紹介するので、どのようなメリットが期待できるのか確認してみましょう。
エンパワーメントによって、スタッフ同士が積極的に意見を出し合い、情報共有の活発化が期待できます。
特定のスタッフに業務負担が偏ることなく、チーム全体で効率的に業務を進められるでしょう。
また、現場の課題が早期に共有されるため、トラブルが起きた際も迅速に対応でき、看護の質の向上にもつながります。
エンパワーメントを意識することで、看護師は受け身ではなく、主体的な姿勢を持てるようになります。
個人の主体性が尊重される職場では、自ら提案や行動ができるため、専門職者として自信が高まるでしょう。
看護師一人一人がやりがいや自信を持てる職場づくりにつながるほか、組織全体の成長にも寄与します。
仕事のやりがいや魅力が感じられず、楽しめない状況が続くと、意欲の低下や離職につながりかねません。
しかし、エンパワーメントは自分の強みを発揮できる場を広げるため、達成感や成長実感を得やすいです。
特に自分の意見や行動が、「患者様やチームに良い影響をもたらしている」と実感できれば、仕事のモチベーションも自然と高まり、意欲的に業務に取り組めます。
エンパワーメントは看護現場に多くのメリットをもたらしますが、実践する際にはいくつかの課題やリスクも伴います。
そのため、エンパワーメントを実践することで必ずしもメリットが得られるとは限りません。
ここでは、エンパワーメントを看護の現場で実践する際の注意点を紹介するので、先述したメリットと比較してみましょう。
エンパワーメントでは、看護師一人ひとりが自分で考えて行動することが求められます。
しかし、経験やスキル、考え方の違いによって、対応の仕方に差が出やすいです。
業務の標準化ができていないと、患者様の対応にばらつきが生じるおそれもあります。
エンパワーメントの導入時には、基本的なマニュアルやガイドラインを整え、一定の質を担保しながら個々の主体性を尊重することが大切です。
主体的な行動が増えることで、誰がどの判断を下したのかが不明確になりやすい点に注意が必要です。
特に、責任の所在が曖昧だとトラブル時の対応が遅れるリスクがあります。
エンパワーメントを取り入れる際は、業務の分担や判断の権限を明確にしておくと良いでしょう。
すべての看護師や職場にエンパワーメントが適しているとは限りません。
主体性を求められることで負担を感じたり、逆にストレスになる人もいます。
また、トップダウン型の職場では、意見を出しても反映されにくく、スタッフのモチベーションが下がることも少なくありません。
スタッフの意見や組織風土を考慮し、少しずつ試行しながらエンパワーメントの定着を図るようにすると良いでしょう。
エンパワーメントを現場で活かすには、主体性を意識するだけでは不十分です。
具体的な行動やコミュニケーションの取り方を工夫することで、チーム全体が力を発揮できる環境が整います。
ここでは、看護におけるエンパワーメントのポイントをお伝えするので、エンパワーメントの実践に活かしてみましょう。
適切にエンパワーメントを取り入れるには、チーム内での情報共有が欠かせません。
スタッフによって把握できる情報の量や内容に偏りがあると、認識や判断にずれが生じやすいです。
患者様の状態やケアの方針、業務の進捗などをチーム全員が把握できれば、スタッフが自信をもって業務を進められます。
医療現場では、医療従事者側が治療方針やケア内容を一方的に決める場面も珍しくありません。
しかし、エンパワーメントでは、個人の意思決定を尊重するため、患者様に対して十分な説明を行い、選択肢を提示したうえで、一緒に考えていきます。
また、エンパワーメントにおける意思決定支援は、患者様だけでなくスタッフも対象です。
スタッフが自身の意見や提案を言いやすくなることで、新しいアイデアが生まれるほか、信頼関係を深めるのに役立ちます。
自身で判断するのに時間がかかったり、想定外のミスを起こしたりするケースもありますが、失敗を繰り返す中で判断力や決定力は養われるものです。
早い段階でフォローを入れるのではなく、個人の判断を尊重したうえで、適宜フォローをしていく必要があります。
エンパワーメントは個人の力を引き出すだけでなく、チーム全体を支えることも重要な目的です。
スタッフ一人一人の意思や判断を尊重することは大切ですが、組織の方向性とずれたり、大きなミスが発生したりといったデメリットが生じることもあります。
権限を委譲した後も定期的に仕事の進捗を確認し、認識のズレがないか、しっかりフォローを入れるように心がけましょう。
また、課題を抱えているスタッフがいれば、問題解決のヒントを提示し、自分で考えさせることで成長の促進につながります。
エンパワーメントは計画的に支援を進めることで、患者様の自分らしい意思決定や行動といった成果が得やすくなります。
そこで、エンパワーメントを現場で効果的に取り入れるには、下記のような支援のプロセスを設計しましょう。
エンパワーメントを効果的に実践したい方は、支援計画を立てるのにお役立てください。
まずは患者様にどのような状態になってほしいか、下記のようなゴールを明確にします。
成果が具体的であるほど、支援内容や評価基準が明確になり、患者様のモチベーションも高まります。
また、最初に方向性を共有しておくことで、看護師と患者様が同じ目標に向かって協働できるでしょう。
成果を決めたら、ゴール達成を妨げている要因を洗い出しましょう。
患者様の身体機能や生活習慣、心理的要因、環境面など多角的にアセスメントします。
課題が明確になれば、支援すべきポイントが具体的に見えてくるので、無理なく実践できる支援計画につながるでしょう。
課題を把握したら、患者様と一緒に達成可能な目標を設定します。
目標設定の段階から患者様が参加すると、患者様の主体性を引き出すことができるでしょう。
例えば、「1週間後までに1日2回の服薬を自分で管理する」といった達成可能な小さな目標を積み重ねることで、患者様の成功体験が増え、自信が高まります。
目標が決まったら、患者様が具体的に何をするか行動計画を立案し、必要な支援を行っていきます。
過度に負担がかかる計画は継続が難しく、逆に挫折感を与えてしまう可能性があるため、無理なく取り組める行動を提案することが大切です。
ただし、あくまで計画に関する提案を選択するかは、患者様の判断に委ねられます。
振り返りと評価はエンパワーメントの定着に欠かせないステップです。
実践後は患者様と共に振り返りを行い、うまくいった点は患者様と一緒に喜び、改善点があれば次の行動計画に反映させます。
また、成功・失敗に関する評価だけでなく、行動によって得られた気付きを引き出すことも重要です。
一連のプロセスを繰り返すことで、患者様は自分の成長を実感でき、次の挑戦への意欲が高まっていくでしょう。
エンパワーメントは「力を与える」「主体性を引き出す」という意味で使われ、似たような概念があります。
それぞれの違いを理解しておくと、現場で適切に活用しやすいです。
エンパワーメントに似ている概念を紹介するので、それぞれの特徴を比較してみましょう。
日本看護学学会によると、ストレングスとは「【方向性】が明確で、その方向に進むための【エネルギー】が充実した状態」としています。
看護においては、患者様やスタッフが持つ能力や可能性に注目する考え方で、ポジティブな変化を促す点が特徴です。
エンパワーメントでは個人の強みに加えて、自分で意思決定し、行動できる状態をつくることに重点が置かれている点が異なります。
レジリエンスは「逆境から立ち直る力」「回復力」を意味し、ストレスや困難に直面しても折れずに、前向きに適応していく能力です。
エンパワーメントと似ていますが、焦点の違いが大きく異なります。
レジリエンスは心の強さと回復力の強化にフォーカスするのに対し、エンパワーメントは意思を発揮して外部の環境を変えていく点に重点を置きます。
エンパワーメントとレジリエンスを同時に取り入れることで、メンタルケアと自己成長の両立を目指せるでしょう。
日本薬学会によると、「患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること」を指します。
服薬指導や生活指導において、患者様が自発的に取り組める状態をつくることが目的です。
アドヒアランスを高めるためにも、患者様の自己決定を尊重するエンパワーメントの視点が欠かせません。
ここでは、エンパワーメントの看護についてよくある質問を紹介します。
患者様の潜在能力や強みが見つからず、エンパワーメントを取り入れるのが難しい場合、患者様の丁寧なアセスメントから始めてみましょう。
既往歴や生活背景、趣味、これまでの成功体験などを聞き出すことで、患者様の価値観や得意分野が見えてきます。
また、日常生活の中で患者様が自分でできていることに注目すると、潜在能力を見つけやすいです。
患者様のエンパワーメントを高めるためには、情報提供と意思決定支援が重要なポイントです。
治療方針やケア内容をわかりやすく説明し、複数の選択肢を提示して患者様自身が選べる機会をつくります。
患者様が自分で行動できたときには積極的にフィードバックを行い、達成感を感じてもらうことが大切です。
エンパワーメントとは自身の力を発揮し、主体的に意思決定ができるように支援するプロセスのことで、対象者に合ったサポートを行います。
看護の現場でエンパワーメントを取り入れると、スムーズな業務遂行やモチベーションアップなどさまざまなメリットが期待できるでしょう。
ただし、効果的にエンパワーメントを活用するためには、主体性を意識した関わりだけでは十分ではありません。
チーム内での情報共有や個人の意思決定の尊重を意識するほか、計画的な支援決定を導入することが大切です。
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