心不全の看護のポイントは?病態を正しく理解しよう

心不全の看護に苦手意識を抱く新人看護師や若手看護師は少なくないでしょう。心不全は心臓の機能が低下している状態であり、時には命に直結することもあります。急性期を脱した後も、多くの場合、長期的に付き合っていく必要があります。

心不全の看護で求められるのは、患者さんの安楽を図ることと、セルフケア能力獲得のための指導です。本記事では心不全の看護のポイントについて解説します。ぜひ最後までご覧ください。

この記事を書いた人
佐野 美和
看護師ライター
4年制看護大学卒業後、小児救急病棟にて8年間勤務。その後派遣看護師を経て、現在はメディカルライターへ転向。看護師・保健師・養護教諭第2種免許保持。小児科をはじめとする看護全般、介護分野、妊娠出産子育て関連の記事執筆に従事 。
※1※2 調査方法:インターネット調査/調査期間:2024年2月7日~2月13日/調査概要:「看護師転職サイト」を対象としたユーザー満足度調査/調査対象:男女、全国、看護師・准看護師資格保有者かつ対象看護師転職サイト利用経験者、20~29歳 107s(※1)、20~34歳 175s(※2)/調査実施:株式会社エクスクリエ/比較対象サービス:「看護師転職サイト」主要10サービス(専用サイトのあるサービスのみ・求人結果の表示ページは除く)

心不全とは

心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し心拍出量が低下することにより心臓に血液がうっ滞し、体から心臓へ戻ってくる血液の受け入れが困難になる病態のことです。「病名」ではなく、心臓疾患やその他の疾患によって心臓の機能が著しく低下した「状態」のことをいいます。


「急性・慢性心不全治療ガイドライン」では、心不全について「なんらかの心臓機能障害、すなわち心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されています。

引用:
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改定版(p.10)」(2024年3月2日参照)

心不全は、病態によって左心不全と右心不全に、また経過によって急性心不全と慢性心不全に分けられます。順に解説します。

左心不全と右心不全

左心不全は、左心系※の障害により心拍出量が低下し、左心房圧と肺静脈圧の上昇が起きて肺うっ血を起こすことで呼吸障害を呈する病態です。一方右心不全では、右心系※の障害により左心系に流れるはずの血液がうっ滞し、体循環系にうっ血が起こります。右心不全の多くは、左心不全に合併して生じます。

左心不全と右心不全の図解イラスト
左心系
動脈血のルートのこと。肺静脈→左心房→左心室→大動脈→各臓器
右心系
静脈血のルートのこと。各臓器→下大静脈→右心房→右心室→肺動脈

急性心不全と慢性心不全

心不全は、経過により急性心不全と慢性心不全に分けられます。心臓のポンプ機能の急激な低下に伴い、症状や兆候が急激に出現するものを急性心不全、心機能が徐々に低下することにより肺や体循環系がうっ血した状態が続いている状態を慢性心不全とよびます。心不全の多くは急性心不全として発症し、その後慢性心不全へと移行します。

急性心不全では心臓の機能が急激に低下するため、生命に直結することもある状態です。

対して慢性心不全では、心臓のポンプ機能が低下した状態が慢性的に続き心機能が徐々に悪化するため、日常生活が著しく障害されます。急性増悪を繰り返すごとに心不全が進行し、徐々に重症化していきます。

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心不全の原因

心不全の原因となる疾患は多岐にわたりますが、特に多いのは虚血性心疾患、高血圧、心臓弁膜症、不整脈によるものです。心不全を引き起こす恐れのある疾患は下記のとおりです。

  • 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
  • 高血圧
  • 心臓弁膜症
  • 不整脈
  • 心筋症
  • 心筋炎
  • 肺疾患
  • バセドウ病
  • 膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)
  • 内分泌・代謝系疾患(糖尿病、甲状腺機能亢進症など)
  • 腎不全
  • 感染性心内膜炎

心不全の症状

心不全の症状は、左心不全と右心不全とで異なります。

左心不全による症状

左心不全では、呼吸困難感や息切れ、咳嗽、湿性ラ音の聴取、血性泡沫痰などの肺うっ血による症状と、四肢末梢冷感、尿量減少、低血圧、頻脈、全身倦怠感、チアノーゼなどの心拍出量低下に伴う症状が出現します。

左心不全による症状について

初期の段階では安静時には無症状で、労作時にのみ呼吸困難を感じることが多いですが、病状が進むにつれて安静時の呼吸困難感が強くなり、夜間の発作性呼吸困難や起坐呼吸を認めるようになります。

右心不全による症状

右心不全では、体循環系のうっ滞による症状が出現します。

右心不全による症状について

具体的には浮腫や食欲不振、悪心、嘔吐などの自覚症状や腹水や胸水の貯留、頸静脈怒張、肝腫大といった身体所見がみられます。

心不全の検査・診断

心不全は胸部X線や心エコー、血液検査などにより診断され、重症度により治療方針を決定します。

胸部X線では心胸郭比(CTR)※が、心エコーでは心臓の状態や動きがわかります。

※心胸郭比率(CTR)
心臓の幅と胸郭の幅の比率のこと。男性では50%以下、女性では55%以下が適正とされている。

血液検査において重要な項目は、心室で合成されるホルモンであるBNP値(脳性ナトリウム利尿ペプチド)です。BNPは心室の負荷が高まると分泌が亢進し血中濃度が上昇するため、心室の負荷の程度を把握する指標となります。そのほか、貧血や腎機能、肝機能、電解質バランスや糖代謝異常の有無なども確認します。

心臓カテーテル検査は必要に応じて実施され、右心房圧や心拍出量、肺動脈圧の測定が可能です。

これらの検査結果に加え、聴診所見や自覚症状の問診、既往歴や家族歴などの聴取によって心不全の診断を確定し、原因の特定を行います。

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心不全の治療

心不全は重症度によってステージA〜Dの四段階に分類され、ステージによって治療内容が異なります。

ステージ治療目標・治療内容
ステージA
器質的心疾患はないが、高血圧や糖尿病、動脈硬化などを発症している状態
・心不全の危険因子に対する治療
・生活習慣の改善
ステージB
器質的心疾患を発症しているが、心不全症状はない状態
・器質的心疾患の治療
・心不全の発症予防
・生活習慣の改善
ステージC
急性心不全を発症する、あるいは慢性心不全の急性増悪を繰り返す
・救命
・心不全症状のコントロール
・再入院の防止
・QOLの維持
ステージD
難治性の末期心不全
・緩和ケア
・終末期ケア

入院が必要となるのは主にステージCとDで、多くのケースでステージCにおいて急性増悪と改善を繰り返し、徐々にステージDへと移行します。
心不全の治療の柱は、薬物治療と呼吸補助療法、運動療法、食事療法です。

薬物治療

心不全の治療に用いる薬剤は、心臓の保護作用や心不全症状を改善する作用のあるACE阻害薬や利尿剤、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)などです。

患者さんの状態によってはジギタリスや血管拡張薬を投与することもあります。薬剤は、急性期には静脈から投与し、状態が安定してきたら内服薬に切り替えるのが一般的です。

呼吸補助療法

肺うっ血により酸素化が障害されると、低酸素血症となることがあります。

経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が95%を下回ると、酸素投与が検討されます。酸素投与によっても改善が乏しい場合や努力性呼吸が強い場合などでは、NPPV(非侵襲的陽圧換気)や人工呼吸器による呼吸管理が検討されます。

運動療法

状態が安定したら、歩行や筋力トレーニングなどの運動療法が開始されます。運動療法は心不全治療への有効性が明らかにされており、心不全症状を軽減、運動耐容能の維持や改善、QOLの向上、死亡リスクの低減、心不全による再入院の減少など、さまざまなメリットが得られます。

ただし、慢性心不全の急性増悪時で呼吸困難などの症状が強い間は、運動は禁忌であり安静が必要となります。

食事療法

心不全の食事療法において特に重要なのは、塩分制限です。塩分は体内の水分を保持する働きがあるため、心不全の病態が悪化する可能性があります。一般的に入院中は6g/日に制限されることが多いですが、重症心不全の場合は3g/日以下と、厳格に管理されることもあります。

心不全により体内の水分を排出がうまくできないと、水分摂取量も制限することがあります。ただし、利尿剤投与中に水分制限をすると脱水となるリスクもあるため、体重測定や、尿量測定により水分バランスを適切に保つことが大切です。

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心不全の看護

心不全の看護のポイントは、患者さんの苦痛の緩和とQOLの維持・向上です。

本章では、「心不全症状による苦痛がある」「疾患への知識が乏しいことによる非効果的健康管理」の2つの看護問題について、看護計画の一例をご紹介します。

心不全症状による苦痛がある

看護目標:心不全による不快症状が軽快する

心不全で呼吸苦がある患者さんの姿勢について

呼吸困難や浮腫などの苦痛を伴う心不全症状に注意し、患者さんが少しでも安楽に過ごせるように看護ケアを提供しましょう。

O-plan(観察項目)
・バイタルサイン
・心電図、SpO2モニター
・呼吸状態(呼吸困難、息切れ、頻呼吸、起坐呼吸、咳嗽、湿性ラ音の聴取、ピンク色泡沫状の痰、喘鳴)
・IN/OUTバランス
・体重の変化
・浮腫
・心音
・検査データ
・排便状況(便回数、便性状)
・皮膚障害(発赤、ルート類による圧痕)

T-plan(ケアプラン)
・強心薬や血管拡張薬などの投与開始後は血圧低下などバイタルサインに変化がみられることがあるため、慎重にモニタリングを行う
・医師の指示の元、水分摂取制限や体重測定などにより水分出納の管理を行う
・SpO2低値や呼吸困難時には、医師の指示のもと酸素投与を開始する。
・呼吸困難は座位やファウラー位により軽減することが多い。患者さんの楽な体位を整える
・浮腫による皮膚障害や褥瘡のリスクがあるため、シーツや衣類のシワを伸ばし、耐圧分散マットやクッションなどを用いて同一部位への圧迫を避ける。点滴やモニターのコード類による圧迫にも注意する。保湿により皮膚を保護する。
・動作時や清拭時などに心負荷が増大しやすいため、モニター値や患者さんの状態に注意しながら実施する。呼吸困難の増強があれば、必要最低限のケアに留め、無理はしない。
・薬剤の影響や活動量の低下により便秘になることがある。怒責は循環動態を変化させるため、必要に応じて排便コントロールを行う。硬便が続く場合は、医師へ相談する。

E-plan
・安静度を守るよう指導する。特に、症状が軽快してきた頃は患者さんが無理をしやすいため、注意を払う。
・飲水制限、食事制限を守るよう指導する
・労作時は心負荷が増強するため、トイレ歩行時はナースコールで知らせてもらう
・排便回数が普段よりも少ない場合、硬便が続く場合は医師や看護師に伝えてもらう
・清潔ケアなどの看護ケアの際に呼吸困難が増強した場合は、無理をせずに看護師に伝えてもらう

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疾患への知識が乏しいことによる非効果的健康管理

看護目標:心不全への知識を深め、退院までにセルフケア能力を身に着けられる。

心不全を増悪させずに日常生活を送るには、患者さんやご家族の、疾患や生活上の注意点への理解が必要不可欠です。セルフケア能力を身に着けられるよう、看護介入を行いましょう。

O-plan
・ADL
・労作時の心不全症状の増悪の有無と程度
・内服や飲水量などに対する自己管理能力
・患者さん本人やご家族の疾患への理解度
・普段の生活について(仕事、家事、家族構成と家族の協力について、生活リズム、運動の頻度や運動量、食事内容、喫煙や飲酒の有無、嗜好品など)

T-plan
・患者さんやご家族の、疾患や今後のセルフケアに対する考えや思いを傾聴する
・生活環境や社会的な役割などを踏まえ、今後実践可能なセルフケア方法を共に検討する。特に、服薬管理、入浴時や運動時の注意点への理解が重要
・安静度の範囲内で、病棟内リハビリテーションを実施する。ベッド上の関節可動域訓練や立位訓練、歩行を、患者さんに無理がないように進める。理学療法士が介入していたら、病棟リハビリの進め方について指導を受けるのも良い。
・バイタルやモニターの値を基にどのような動作で心負荷が増大するのかをアセスメントし、無理なくADLを拡大していく

E-plan
・心不全による症状について指導する。症状の増悪があればすぐに知らせてもらう。心臓病教室への参加をすすめる。
・服薬継続の重要性について指導する。服薬カレンダーの活用や、ご家族に一緒に確認してもらうなど工夫する。
・管理栄養士による食事指導を行う
・心不全症状増悪時の対応を指導する
・退院後にも水分制限がある場合は、測定方法を一緒に考える
・体重測定を行い、目標体重と照らし合わせる
・感染症は心不全を増悪させるリスクがあるため、感染予防行動について指導する
・活動制限がある場合は、制限に合わせた運動に関する指導を行う
・便性状、便回数を確認し、硬便や便秘が続く場合は医師へ相談してもらう。怒責を強くかけないように指導する。

終末期の看護

心不全は増悪と緩解を繰り返しながら徐々に進行し、最終的に終末期を迎えることがあります。終末期の治療・看護の目標は、症状を軽減し患者さんが残された時間を安楽に過ごせることです。緩和ケアが必要となる終末期心不全について、ガイドラインでは下記のように定められています。

  • 進行性の身体的・精神的機能低下を認め、日常生活のほとんどに介助を要する
  • 適切な薬物・非薬物治療を行っているにもかかわらず、QOLの著しい低下を伴う重症心不全
  • 適切な治療にもかかわらず、頻回の入院あるいは重篤な悪化を繰り返す
  • 心移植や補助人工心臓の適応がない
  • 心臓悪液質※
  • 臨床的に終末期に近いと判断される
出典:
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改定版(p.113)」(2024年3月2日参照)
※心臓悪液質
食事摂取量の低下によりエネルギー不足となり、体重の減少や筋肉量の減少が起きた状態のこと

終末期には、呼吸困難や疼痛、全身倦怠感、抑うつ・不安、せん妄など多様な症状が出現します。症状による苦痛が強い場合は、鎮静薬や麻薬を用いて眠った状態とすることもあります。患者さんやご家族の意思決定への支援が大切です。

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この記事を書いた人
佐野 美和
看護師ライター
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