
「薬の使い分けBOOK」では、看護師さんが気になる薬の使い分け方法について、薬剤師の笹川大介が解説します。
本記事は、分子標的薬についてまとめました。作用・副作用に加えて特徴も記載していますので、ぜひ参考にしてください。

熊本大学薬学部を卒業後、2003年より地元・鹿児島県種子島の薬局に就職。その後、2009年より現職。
各地での講演会やセミナーを多数行っており、最近はYouTubeでオリジナル講義「かんたん薬理学」を精力的に配信している。日経DIクイズの執筆者、薬剤師教育動画「描いてつかむ! 副作用の薬理学」出演などの経験を持つ。
従来から使用されている細胞障害性抗がん薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞の増殖にも作用します。
一方で分子標的薬は、がん細胞の増殖や転移に関わるたんぱく質や遺伝子などの特定の分子だけを狙い撃ちし、その機能を抑えることでより有効かつ安全に治療することを目的として開発された薬です。
分子標的薬は構造や分子量の違いから、以下2つに分けられます。
抗体薬は分子量が大きい、つまりサイズが大きいため、細胞膜を通過することができず、がん細胞の外で作用します。具体的にはがん細胞の表面にある増殖に関わる受容体を抗原として認識し、そこに結合して細胞増殖因子とよばれる物質とその受容体が結合しないようにすることで、がん細胞の増殖を抑えます。

抗体薬全般で注意が必要な副作用にインフュージョンリアクションがあります。これは分子標的治療薬(おもに抗体薬)の投与後に起こる注射に伴う症状で、投与中または投与後24時間以内に現れます。
症状として、吐き気、寒気、発熱、頭痛、倦怠感、注射部位が腫れる、痛みや焼けるような熱さを感じるなどがあります。このような症状があらわれたらすぐに医師・看護師・薬剤師に連絡してください。
一方、小分子薬は細胞膜を通過することができるため、がん細胞の中に入り込んで作用します。細胞内や核内の増殖に関わる因子(酵素など)に結合することで、増殖のシグナル(※)伝達を阻害し、がん細胞の増殖を抑制します。
細胞の増殖などを指示する情報の流れのこと

今回は代表的な分子標的薬について、特徴とメカニズム、使い分けなどをみていきましょう。
EGFRは上皮細胞増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor)の略語で、細胞表面に並んでいるタンパク質です。からだの中のさまざまな細胞、たとえば、皮膚や肺、消化管などにあります。
EGFRは簡単に言うと細胞増殖のためのスイッチです。がん細胞では、EGFRの構造に変化が生じ、スイッチが常にオンの状態になっているため、がん細胞が増殖し続けます。

【作用】
がん細胞表面に存在するEGFRに結合することで、この受容体の働きを阻害し細胞増殖のシグナル伝達を遮断して、がん細胞の増殖抑制作用などをあらわします。
【特徴】
大腸がんでは、EGFRが過剰に発現しています。そのため、セツキシマブ、パニツムマブは進行・再発の大腸がんに対して使われています。
ただし、大腸がんの約50%でRAS(ラス)遺伝子変異が認められます。RASはがんの増殖に関わる遺伝子です。EGFRからはがん細胞を増やす信号(シグナル)が出ますが、そのシグナル伝達の途中にRAS遺伝子が関わっています。
RAS遺伝子に変異があるがん細胞では、EGFRを阻害してもシグナル伝達は止まらず、がん細胞の増殖も抑制されません。したがって、RAS遺伝子変異を有する患者には、抗EGFR抗体薬の効果は期待できません。
このため、大腸がんの治療では事前にRAS遺伝子の有無を検査し、抗EGFR抗体薬の投与可否を判断します。
【副作用】
皮疹はEGFR阻害薬(抗EGFR抗体・EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)の使用でよくみられる副作用です。皮膚の細胞のEGFRを抑えることで、にきびのような発疹、皮膚の乾燥・炎症などが起こることがあります。
予防のために日ごろのスキンケアが大切です。紫外線や、刺激の強い入浴剤・石鹸などの使用は避けましょう。
低マグネシウム血症も起こることがあります。なお、低カルシウム血症、低カリウム血症などの電解質異常が同時に起こるケースもあります。けいれん、しびれ、倦怠感などの異常を感じた場合は、医師・薬剤師に連絡してください。

【作用】
EGFRを構成している遺伝子の一部(チロシンキナーゼ部位)に変異が認められると細胞を増殖させるシグナルが絶え間なく送り続けられ、がん細胞が増殖し続けます。この薬は、EGFRのチロシンキナーゼの働きを阻害することで、がん細胞の増殖を抑えます。
【特徴】
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬はEGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がんで効果が認められます。しかし、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は継続投与により、効果がみられなくなる耐性が起こることがあります。
その原因の1つとして、EGFRに耐性遺伝子のT790M変異が発現していることが分かっています。これによりEGFRのスイッチが再びオンの状態になり、がん細胞が増殖し始めます。
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のオシメルチニブは、T790M遺伝子変異が出現した症例に対して使用しても治療効果が認められます。
【副作用】
抗EGFR抗体と同じく皮膚障害に注意が必要です。
起こりやすい副作用に下痢もあり、特にアファチニブでは80%程度の患者に起こることが報告されています。下痢止めを常に携帯するなどの対応が必要です。
間質性肺炎にも注意が必要です。肺組織の中の「間質」と呼ばれる部位に炎症が起こり、肺の機能が低下して呼吸がしにくくなる病気です。特にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で起こる間質性肺炎は、致死的なものとして注意が必要です。息切れ、息苦しい、空咳(痰がない咳)、発熱などの症状がある場合には、医師や薬剤師に連絡してください。
HER2(ハーツー)はヒト上皮成長因子受容体2(Human Epidermal growth factor Receptor 2)の略語で、細胞表面に存在するタンパク質の一種です。
HER2は細胞の増殖に関与しています。がん細胞では、このHER2が過剰に作られることがあります。HER2が増えすぎると、がん細胞が過剰に増殖し、がんが進行しやすくなります。
HER2阻害薬を使用するためには、がん細胞のHER2タンパクの量を検査して治療に適しているかどうかを判定する必要があります。

【作用】
がん細胞表面のHER2に結合することで、HER2タンパクの活性化を阻害します。それにより細胞増殖のシグナル伝達が阻害され、がん細胞の増殖抑制作用をあらわします。
【特徴】HER2は、乳がんや胃がんで過剰に発現します。トラスツズマブはHER2過剰発現の乳がん、胃がんなどに、ペルツズマブはHER2過剰発現の乳がんなどに用いられます。
【副作用】
心臓の機能低下を起こすことがあります。心臓のはたらきが低下すると、心不全などの心障害を起こす可能性があります。
治療中に、動悸、息切れ、脈が速くなる、横になるより座っているときに呼吸が楽になる(起座呼吸)などの症状があらわれたら、すぐに医師・薬剤師に連絡してください。
一般名:ラパチニブ(商品名:タイケルブ)
【作用】
HER2のチロシンキナーゼの働きを阻害することで、細胞増殖のシグナル伝達を阻害して、がん細胞の増殖抑制作用をあらわします。
【特徴】
ラパチニブは乳がんに適応を持つ世界初の経口の分子標的薬です。抗体薬では通過できない血液脳関門(※)を通過できるため、脳に転移したがんに対しても効果が期待できます。
血液と脳の間にあるバリアのことです。脳を保護するために、血液中の有害物質や病原体が脳内に侵入するのを防ぐ重要な役割を果たしています。
【副作用】
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と同様に、皮膚障害、下痢に注意が必要です。
がんは正常な細胞よりも分裂が活発で、その分たくさんの栄養や酸素を必要とします。がんは成長しようとして、多くの栄養や酸素を取り入れるために、もともとあった血管に向かってVEGF(血管内皮増殖因子)という物質を放出して、近くの血管からがん専用の細い血管を引き込みます。この新しい血管を作る過程を血管新生といいます。
がん細胞は、この血管を通して栄養素を補給するだけではなく、転移も引き起こします。がんが作った専用の新しい血管は、正常な血管とくらべて形が不規則で、ところどころ細くなっていたり、曲がったりしています。
一般名:ベバシズマブ(商品名:アバスチン)
【作用】
VEGFに結合しVEGFの働きを阻害することで血管新生を抑制する薬です。新しい血管が作られないことで、がん細胞は栄養や酸素が不足して増殖できなくなります。
【特徴】
VEGFを阻害することで、がん細胞の増殖抑制だけでなく、異常な腫瘍血管を正常化させる作用もあり、がん細胞への抗がん薬の到達性が高まり、治療効果の向上が高まります。そのため、ほかの薬剤(細胞障害性抗がん薬)と併用することで高い抗腫瘍効果を示します。
大腸がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、乳がんなどで使用します。
【副作用】
血管新生阻害薬の治療により、高血圧になることがあります。高血圧に対しては、一般的な経口降圧薬による治療が行われます。
最大限の降圧薬治療にもかかわらず、160/100mmHg以上となる場合は、降圧薬の追加や薬剤変更を考慮するとともに、ベバシズマブの休薬が推奨されます。急な血圧の変化がほかの臓器に障害を及ぼす場合もあるので、定期的に血圧を測定する必要があります。
蛋白尿が出てくることがありますので、定期的に尿検査を行います。尿の泡立ち、むくみや体重の増加がみられた場合には、医師・薬剤師に連絡してください。
鼻や歯肉、腟などの粘膜から軽度の出血がみられる場合があります。多くの場合、出血は自然に止まりますが、しばらくしても出血が止まらない場合はすぐに医師・薬剤師に連絡してください。
一般名:ラムシルマブ(サイラムザ)
【作用】
VEGFの受容体であるVEGFR-2(血管内皮細胞増殖因子受容体2)に結合し、VEGFとVEGFR-2の結合を阻害することで血管新生を抑制して、がん細胞の成長を抑制します。
【特徴】
VEGFR-2はVEGFの受容体の1つです。VEGFR-2は血管新生の調節が主な役割です。ラムシルマブは、胃がん、大腸がん、非小細胞肺がん、肝細胞がんに使用されます。
【副作用】
抗VGEF抗体と同様に高血圧、蛋白尿、出血に注意が必要です。

【作用】
がんの血管新生に必要な信号を細胞内に送るVEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)のチロシンキナーゼ活性を阻害することにより、血管新生を抑えて、抗腫瘍効果を示します。
【特徴】
VEGFRのほかにも、がん細胞の増殖に関わるさまざまなキナーゼ(酵素)を阻害することから、マルチキナーゼ阻害薬とも呼ばれます。複数のキナーゼを阻害することにより、さまざまながんに対して抗腫瘍効果を示します。
【副作用】
血管新生阻害薬と共通の副作用(高血圧、蛋白尿など)のほか、複数のキナーゼに作用するため、さまざまな副作用が起こる原因となります。特に下痢や手足症候群(※)が多くみられます。
手のひらや足の裏にチクチク感、ヒリヒリ感といった皮膚の違和感、ほてり感、赤く腫れる、角質が厚くなるなどの症状のこと。
BCR-ABL阻害薬は、慢性骨髄性白血病(CML)という血液のがんに使用されます。慢性骨髄性白血病は、骨髄や血液のなかに腫瘍細胞(白血病細胞)がゆっくりと、無制限に増え続ける病気です。
慢性骨髄性白血病の原因は、遺伝情報を持つ染色体に異常な変化が生じて形成されたフィラデルフィア染色体の存在です。フィラデルフィア染色体は、BCR-ABLチロシンキナーゼという異常なタンパク質を作り出します。BCR-ABLチロシンキナーゼは、腫瘍細胞(白血病細胞)の数を増やす働きを持っています。

【作用】
BCR-ABLタンパク(チロシンキナーゼ)は、ATPというエネルギー物質が結合することで活性化し、腫瘍細胞(白血病細胞)の増殖シグナルを出します。
BCR-ABL阻害薬は、ATPが結合する部位に代わりに結合することで、がん細胞の増殖を抑制します。
【特徴】
イマチニブは世界で最初に開発された分子標的薬(小分子薬)です。BCR-ABL阻害薬は6剤(※2025年1月現在)ありますが、すべて慢性骨髄性白血病に適応があります。
BCR-ABL阻害薬により慢性骨髄性白血病の5年生存率は90%以上になり、病気の予後が著しく改善されました。
ただし薬を使用し続けることにより、耐性が発現するケースがあり、その場合にはポナチニブを使用します。ポナチニブはほかのBCR-ABL阻害薬で十分な効果がみられなくなった患者やほかのBCR-ABL阻害薬が効きにくい遺伝子の変異がある患者で使用可能です。
【副作用】
骨髄抑制が起こることがあります。
骨髄の造血機能が障害されるため、白血球減少、赤血球減少、血小板減少が起こることで、それぞれ易感染性(感染が起こりやすい状態)、貧血、出血傾向を示します。
mTOR(エムトール)は、細胞内にある物質で細胞分裂や増殖を促す信号を調節するスイッチの役割を果たしています。
がん細胞ではこのmTORが活性化しており、信号が常に送られた状態になっています。

【作用】
mTORの働きを阻害し、細胞の増殖にかかわる過剰な信号を遮断することにより、抗腫瘍効果を示します。
【特徴】
mTOR阻害薬は、がん細胞の分裂・増殖を促進するタンパク質合成を抑えるだけでなく、VEGFの産生も抑制するため、血管新生も抑制します。
エベロリムスは、腎細胞がん、乳がん、神経内分泌腫瘍などに使用されます。小分子薬は一般的に内服薬ですが、テムシロリムスは注射薬です。
【副作用】
口内炎がみられます。口内炎によって、口の中があれて、痛みや出血、食べ物が飲み込みにくくなることがあります。
感染症が起こりやすくなることがあります。主な感染症として、肺炎、口腔ヘルペス、尿路感染などがあります。発熱や咳、たん、だるさなどの症状があらわれた場合には、医師・薬剤師に連絡してください。
間質性肺炎、高血糖にも注意が必要です。
CDKはサイクリン依存性キナーゼと呼ばれる酵素です。細胞は増殖に必要な遺伝子やタンパク質をつくって、1つから2つに分裂することで増えていきます。この増殖の過程を細胞周期といいます。この細胞周期をコントロールする物質がCDK4およびCDK6です。
がん細胞では、異常に細胞周期が回ることで分裂を繰り返し、増殖します。がん細胞ではCKD4やCKD6が活性化され、細胞周期のコントロールができなくなっています。

【作用】
CDK4及びCDK6を阻害することで、細胞周期の進行を停止し、腫瘍の増殖を抑えます。
【特徴】
CDK4/6阻害薬は、内分泌療法(抗エストロゲン薬やアロマターゼ阻害薬と呼ばれるホルモン薬)と併用して、乳がんに使用されます。
【副作用】
悪心、下痢などの消化器症状が出やすいため注意が必要です。骨髄抑制、間質性肺疾患、感染症などの副作用も報告されています。
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熊本大学薬学部を卒業後、2003年より地元・鹿児島県種子島の薬局に就職。その後、2009年より現職。
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