
医療事故を起こしてしまったらと不安な看護師もいるかもしれません。医療事故やインシデントは、発生を避けられないケースもあるでしょう。本記事では、実際に起きた薬剤の取り違えによる医療事故の裁判事例や発生直後に看護師が行うべき対応などを解説します。インシデントの予防策にも触れていますので、チェックしておくと安心です。最後まで読んでいただくと、医療事故への不安な気持ちが少し軽くなるかもしれません。
看護師ならば誰にでも起こる可能性があるインシデントや医療事故。インシデント・医療事故・医療過誤の違いについて知っておくことは大切です。それぞれの違いを、以下に解説します。
インシデントとは、誤った医療行為が行われたが患者さんへの影響はなかったあるいは、誤った医療行為を実施する前に発見し実施に至らなかった事象を指します。インシデントは、「ヒヤリ・ハット」と呼ぶこともあり、2つは同義の意味で使用されることが多いです。名前のとおり「ヒヤリ」としたり、「ハッと」したりした経験を意味します。
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医療事故(アクシデント)は、誤った医療行為によって患者さんに何らかの影響があった事象を指します。
厚生労働省「インシデント・医療事故の定義について(p.2)」の影響度分類を参考に、インシデントと医療事故のレベルを、以下に示しています。
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レベル |
医療事故の内容 |
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インシデント |
レベル0 |
誤った医療行為を実施する前に発見し、実施に至らなかった |
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レベル1 |
誤った医療行為が行われたが、患者さんへの影響はなかった場合 |
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レベル2 |
誤った医療行為が行われたが、治療や処置は不要だった場合(状態確認の検査や経過観察などは実施された) |
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医療事故 |
レベル3 |
a |
誤った医療行為により簡単な処置や治療が実施された場合 |
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b |
誤った医療行為により高度な治療や処置が実施された場合 |
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レベル4 |
a |
医療事故により永続的な後遺症が残ったが、機能障害は伴わない場合 |
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b |
医療事故により永続的な障害が残った場合 |
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レベル5 |
医療事故により死亡した場合 |
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参考:厚生労働省「インシデント・医療事故の定義について(p.2)」2007年11月(2024年7月31日参照)
このなかには、避けられなかったものや医療従事者の過失によるものも含まれます。
医療過誤とは、医療従事者の過失によって起こった医療事故を指します。過失の医療事故とは、医療従事者が注意義務を怠ったことにより、患者さんに被害が生じた事象です。過失の場合は、医療ミスを疑われたり、裁判に発展して損害賠償の請求が行われたりする場合もあります。
ここでは、看護時に実際に起きた医療事故の裁判事例を2つご紹介します。
看護師は、点滴ロック用のヘパリン生食10mlとほかの患者に使用する予定だった消毒液ヒビテングルコネート液(ヒビグル)10mlを、同じ注射器に準備した。その際、ヒビグルに貼り付けるべき薬剤名のメモを、誤ってヘパリン生食の注射器に貼り付けてしまった。
点滴ロックを実施したほかの看護師により、取り違えたヒビグルが患者の体内に注入されてしまい、死亡に至った事例。その後、看護師は業務上過失致死罪で起訴され、懲役刑が確定した。
看護師は、人工呼吸器の加湿に使用する滅菌精製水を交換する際、誤って容器が似ている消毒用エタノールと交換してしまい、ほかの看護師もその取り違えに気付かなかった。患者は、約53時間にわたり消毒用エタノールを吸入し、アルコール中毒によって死亡。看護師や病院の過失が認められ、損害賠償金の支払いを命じられた。
自分が医療事故を起こした、あるいは発見したら、まずは患者さんの救命処置を行い、速やかに関係者への報告を行うことが大切です。ここでは、医療事故発生時に看護師が行うべき4つの対応を解説します。
医療事故が発生したら、患者さんの救命を第一優先に行いましょう。バイタルサイン測定やアセスメントを実施して、患者さんの安全を確保することが必要です。救命処置が必要であれば、医師やほかの看護師などに応援を要請します。心肺停止などの緊急時は、病院にいる医師を現場に呼び出すための緊急コール(コードブルー)を使う場合もあるかもしれません。
医療事故発生時の報告手順は、病院ごとに決められています。報告フローに従って、医療事故の発生状況や治療内容などを簡潔に伝えましょう。一般的な流れは、当事者または発見者→部署の長→医療安全管理室→病院長です。報告を受けた病院長は、保健所や警察署などの外部機関への報告やご家族への対応を行います。
医療事故の発生状況や初期対応、経過などの記録は極めて重要です。経過を記録する際は、いつ・どこで・誰が・何を実施したかなども含めて正確に記録します。医療事故発生直後は、現場も混乱しているため、それぞれで認識が違う場合もあるかもしれません。カルテに記録をするときは、事実確認してから記載しましょう。
また、医療事故発生時に使用した物品は、現場保存のため廃棄せずに残しておくことが必要です。保存する物品には、空のアンプルやシリンジなども含まれます。モニター類の履歴なども削除しないように注意しましょう。むやみに廃棄してしまうと、調査が入った場合、証拠隠滅を疑われる可能性もあります。証拠として提出を求められる場合も想定し、デジタルカメラなどで現場の写真を撮っておくことも大切です。
医療事故の発生後は、原因究明と再発防止策をスタッフ間で協議し、インシデントレポートとして提出します。ミスをした本人にとっては、責められている気持ちになるでしょう。しかし、インシデントレポートは、個人のミスを追及するものではありません。インシデントレポートの目的は、事例を情報共有しインシデントの再発を防ぐことです。細かなインシデントも報告してもらうには、インシデントを起こしても責められないような雰囲気作りをすることも必要かもしれません。
厚生労働省「全般コード化情報の分析について」によると、インシデントの発生場面で多かったものは、以下のとおりでした。
それぞれのインシデントの詳細や発生事例について、以下に解説していきます。
与薬に関するインシデントは、「投与量の間違い」「与薬時間や日付間違い」「投薬しなかった」などが多いようです。具体的な発生事例としては、以下のようなものが挙げられます。
厚生労働省
・食前薬を忘れた
・患者さんへの点滴を忘れた。約5時間遅れでほかの看護師によって点滴が実施された
ミスを防ぐために、ダブルチェックや自己チェックを入念に行っていても、マルチタスクになりやすい看護師は、与薬によるインシデントがなくならないのが現状です。
ドレーン・チューブ類の管理によるインシデントでは、「点滴やチューブ類の自己抜去・閉塞」「点滴漏れ」が多くなっています。具体的な発生事例としては、以下のとおりです。
厚生労働省
・IVHラインがつまって、輸液がもれた
・せん妄状態でイレウス管を自己抜去した
ドレーンやチューブ類の管理では、固定方法を工夫したり、自己抜去の恐れがある患者さんは一時的に拘束具を装着したりなど、予防策を取っているでしょう。しかし、移動中に引っかかってしまったなど、故意でなくても起こる可能性があります。
療養上の世話で起こるインシデントに多いものは、「転倒・転落」です。具体的な発生事例としては、以下のようなものが挙げられます。
厚生労働省
・1人でトイレに移動中、転倒した
・ドスンと音がして、いってみると患者が床に寝ていた
転倒予防のセンサーマットやベッド柵の工夫など、さまざまな策を講じていても思わぬ形で転倒が起きてしまうことも多いようです。
インシデントの再発を予防するためには、ダブルチェックの徹底や過去のインシデントを把握しておくことが重要です。ここでは、医療事故に繋がるインシデントの再発予防策を5つご紹介します。
指差し確認とダブルチェックは、看護師の基本です。インシデントの発生原因は、確認不足によるものが最も多くなっています。業務が忙しくて気持ちが焦っていると、細かい指示の変更や類似薬剤などを見落としてしまうかもしれません。確認するときは、一旦気持ちを落ち着かせ、指差し呼称をしながら声に出して確認を行いましょう。
与薬をするときは、6Rを意識すると与薬ミスの防止に繋がります。誤薬防止の6Rは、正しい「患者・薬物・投与目的・用量・投与方法・時間」です。
具体的な確認項目を以下の表にまとめていますので、確認してみましょう。
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誤薬防止の6R |
内容 |
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正しい患者 ( Right patient ) |
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正しい薬物 ( Right drug) |
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正しい目的 ( Right purpose) |
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正しい用量 ( Right dose) |
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正しい方法 ( Right route) |
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正しい時間 ( Right time) |
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似ている患者さんの名前や英語・漢字表記の違いによる患者名の間違いに注意しましょう。また、投与量の「gとmg」「mlとmg」などの見間違いがないかの確認も重要です。
指示受けをするときに投与量や薬剤の変更があれば、看護記録や看護師全員が確認できるカルテのメモ欄などに残しておくと、注意喚起ができます。また、抗生剤など同じ時間に投与する患者さんが複数いる場合、患者さんごとにトレイを分けて薬剤を準備するなどの対策も、誤薬防止に繋がります。
進行中の業務を中断するときは、メモやタイマーを設定しておき、やり残しがないように工夫が必要です。マルチタスクな看護師は、インシデントが発生しやすい状況のなかで仕事をしています。与薬や処置の合間で清潔ケアを行い、途中で鳴るナースコールなどにも対応するため、中途半端にケアを中断されることも多々あるでしょう。
業務の優先順位を常に考えながら、即座に別の患者さんに頭を切り替えて対応しなければなりません。業務から離れるときは、どこまで終わっているかを後で見返せるように記録に残しておきましょう。
医師の指示は、最低でも3回以上確認しましょう。特に、新しい指示や変更の場合は注意が必要です。指示の確認は、以下のようなタイミングで行われます。
薬剤を準備するときも、「薬剤を保管場所から出すとき」「薬剤を開封し注射器で準備するとき」「空になったアンプルなどを捨てるとき」など、3回確認することが望ましいとされています。病院によっては、ダブルチェックや指示受け手順が決められているところもあるでしょう。
また、同じ指示が継続している場合にも注意が必要です。指示が変わっていないからと思い込みで実施すると、思わぬミスに繋がります。日ごろから医師の指示を確認する習慣を身に付けておき、実施前に少しでも不安があれば指示を確認してから行うようにしましょう。
インシデントの発生を予防するには、過去に自分の病院で起きたインシデントレポートに目をとおしておくのも大切です。過去のインシデントレポートを確認しておくことで、どのようなところに落とし穴があるかを把握し、意識して注意できます。インシデントは、病院のシステムや業務工程に原因が潜んでいる場合もあります。これまで起きたインシデントは自分事として捉え、自分も起こす可能性があることを理解しておきましょう。
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仕事でミスをするのが怖いと感じる看護師は多いでしょう。ここでは、医療事故を起こしそうと不安を抱える看護師の対処法を解説します。
まずは、不安な気持ちを上司や先輩看護師に相談してみましょう。自分の状況を周りに伝えておくことで、フォローしてもらいやすくなる場合もあります。同じ経験をしてきた先輩看護師ならば、乗り越えるための有益なアドバイスをしてくれるかもしれません。
医療事故が起きたときに備えて、看護職損害賠償責任保険に加入しておくことも検討してみましょう。看護職賠償責任保険制度とは、医療事故が発生した場合の相談やサポートを行ってくれる制度です。医療事故以外にも、看護業務において発生した損害賠償の補償、就業中の怪我や針刺し事故で感染した場合の保険金など、さまざまなサポートがあります。
レバウェル看護公式Instagramで実施したアンケート「看護職損害賠償責任保険に入っている?」では、「個人で加入している」28%、「勤務先が加入している」17%でした。「加入していない」と答えた55%のなかには、制度自体を知らなかったという看護師もいました。起きないことが1番ですが、万が一に備えておくことも大切です。
命に関わる業務が怖い看護師は、命に直結しにくい職場へ転職することでストレスを減らせます。看護師として働いていくうえで、仕事に緊張感や怖さを持つことは必要です。しかし、過度な緊張は、本来の業務の遂行を妨げてしまう可能性があります。病棟業務が怖いからといって看護師に向いていない訳ではありません。看護師の職場は、病院以外にも多々あります。自分が安心して働ける職場に転職する選択肢も検討してみましょう。
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インシデントや医療事故は、どの看護師にも起こる可能性があります。医療事故が発生したら冷静に対応できるよう、救命処置の方法や報告体制などを事前に確認しておきましょう。また、医療事故を防ぐには、徹底したダブルチェックや6Rを意識した与薬などの予防策を日ごろから意識することも大切です。
「医療事故を起こしたくない」または「起こしてしまったらと不安」な看護師は、上司や先輩に相談すると良いかもしれません。それでも、医療事故への不安が消えず、仕事をするのが怖いと感じる看護師もいるでしょう。
レバウェル看護は、お悩み相談のみでのご利用も可能です。命に関わらない職場に転職したい場合は、そのまま転職を進めることもできます。看護師として最適な環境で、安心して働ける職場を一緒に探しましょう。サービスのご利用はすべて無料で、LINEや電話での相談も可能です。1人で抱え込まず、まずはキャリアドバイザーにお悩みをお聞かせください。
ここでは、医療事故の事例を知りたい看護師によくある質問を、Q&A形式でお答えしていきます。
医療事故を起こしたときに、絶対やってはいけないことは、ミスや事実を隠そうとすることです。事態が大きくなって調査が入れば、嘘はいつかばれてしまいます。最悪の場合、事実の隠蔽が疑われ、状況が不利になる場合もあるかもしれません。隠蔽は、スタッフからの信頼を失うだけではなく、病院全体の信用にも関わる重要なこと。看護師として、患者さんを第一に考えた行動を取りましょう。
経験年数を問わず、ミスを起こす可能性は誰にでもあります。ミスを起こすと看護師に向いていないと自信を失くすときもあるかもしれませんが、看護師に向いていない訳ではありません。落ち込んだ気持ちは、時間が解決してくれるケースも多いですが、あまりにもプレッシャーがあり辛いと感じる看護師は、転職を検討するのも手段の1つです。ほかの対処法は、本記事の『「医療事故を起こしそうで怖い…」と不安を抱える看護師の対処法☆』でも触れていますので、ご覧ください。
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看護師から寄せられる“よくある質問”
Q. 現役看護師が一番稼げる科はどこ?
一般的に、高度な医療を提供する診療科や収益の多い診療科・クリニックは、高収入を得られる傾向にあります。病院だと救急救命科やICU(集中治療室)など、クリニックでは美容クリニックや人工透析クリニックなどが挙げられます。「看護師が一番稼げる科はどこ?高年収のクリニック・病院や転職のポイント」では、看護師が稼げる科を、詳しく解説しています。規模別の平均給与や、高収入な職場へ転職する際のポイントも紹介しているので、求人探しの参考にしてください。
Q. 看護師がのんびり働ける勤務先は?
病院であれば緊急対応や体力を消耗する業務が少ない外来や回復期・慢性期病棟。病院の外来やクリニックであれば重症患者の処置が少ない診療科は比較的落ち着いた環境といえるでしょう。自身のペースを大事に働きたい方は、現職の悩みを解決できるような環境・働き方を選ぶことがポイントです。「のんびり働きたい看護師向け!おすすめの職場や病院以外の仕事を紹介」では、のんびり働ける勤務先の条件や、おすすめの職場・診療科、のんびり働ける仕事のメリットやデメリットも解説しています。職場探しの参考にしてください。
Q. 看護師1年目で転職しても大丈夫?
1年目であっても転職は可能です。新卒として入職後3年以内に転職する「第ニ新卒」を歓迎する求人も多数出ている状況です。心身に不調がある場合や、職場でハラスメント・法律違反が横行している場合は、無理せず環境を変えたほうが安心です。「看護師1年目で転職しても大丈夫。病院以外の職場や好印象の退職理由を紹介」では1年目の看護師が転職したくなる理由や、仕事が辛いときの対処法、 おすすめの職場などをまとめています。新人看護師が転職に成功するコツや退職の際の注意点も解説しているので、参考にしてみてください。
Q. お礼奉公中でも転職は可能?
お礼奉公の途中でも、看護師が仕事を辞めることは可能ですが、途中で退職してトラブルに繋がるケースもあるので、辞める場合は注意が必要です。「お礼奉公中だけど辞めたい看護師へ!奨学金に関する疑問に答えます」では、「お礼奉公中の看護師は仕事を辞めても良いか」「途中で辞めると奨学金の支払いはどうなるのか」といった疑問や不安にお答えしています。また、奨学金の一括返済を求められたときや、退職を拒まれたときの対処法についてもご紹介しているので、お礼奉公がネックで前に進めずにいる方は、ぜひ参考にしてください。
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