がん治療薬の使い分けポイントを薬剤師が解説!~ホルモン薬編~

「薬の使い分けBOOK」では、看護師さんが気になる薬の使い分け方法について、薬剤師の笹川大介が解説します。

本記事は、ホルモン薬についてまとめました。作用・副作用に加えて特徴も記載していますので、ぜひ参考にしてください。

この記事を書いた人
笹川大介(ササガワダイスケ)
薬剤師、株式会社ゆかりファーマシー取締役

熊本大学薬学部を卒業後、2003年より地元・鹿児島県種子島の薬局に就職。その後、2009年より現職。

各地での講演会やセミナーを多数行っており、最近はYouTubeでオリジナル講義「かんたん薬理学」を精力的に配信している。日経DIクイズの執筆者、薬剤師教育動画「描いてつかむ! 副作用の薬理学」出演などの経験を持つ。

※1※2 調査方法:インターネット調査/調査期間:2024年2月7日~2月13日/調査概要:「看護師転職サイト」を対象としたユーザー満足度調査/調査対象:男女、全国、看護師・准看護師資格保有者かつ対象看護師転職サイト利用経験者、20~29歳 107s(※1)、20~34歳 175s(※2)/調査実施:株式会社エクスクリエ/比較対象サービス:「看護師転職サイト」主要10サービス(専用サイトのあるサービスのみ・求人結果の表示ページは除く)

ホルモン薬とは

がんのうち「ホルモン依存性がん」では、がん細胞の増殖にホルモンが関わっています。

ホルモン依存性がんには、前立腺がん、乳がんなどがあります。前立腺がんでは男性ホルモンのアンドロゲン、乳がんでは女性ホルモンのエストロゲンが、がん細胞の増殖に強く影響しています。

ホルモン薬はホルモン依存性がんの治療に用いられる薬です。

がん細胞の増殖に関係するホルモンが供給されないようにすることで抗腫瘍効果を発揮します。

ホルモン薬を用いる治療を内分泌療法ともいいます。内分泌療法は、副作用が比較的少なく身体への負担が軽く、がんの増殖抑制や縮小に効果を認めます。

今回は乳がんと前立腺がんに使用されるホルモン薬について、その働きと使い分けなどをみていきましょう。

関連記事

乳がんに使用されるホルモン薬

分類名:抗エストロゲン薬

SERM:サーム

  • 一般名:タモキシフェン(商品名:ノルバデックス)
  • 一般名:トレミフェン(商品名:フェアストン)

SERD:サード

一般名:フルベストラント(商品名:フェソロデックス)

 

【作用】
エストロゲンは、乳がん細胞内にあるエストロゲン受容体と結合して乳がんの増殖を促進させます。抗エストロゲン薬はエストロゲンのエストロゲン受容体への結合を阻害することで、乳がん細胞の増殖を抑制します。

【特徴】
乳がんのなかには、エストロゲンの働きによってがん細胞が増えるホルモン受容体陽性乳がんがあります。ホルモン受容体陽性乳がんは、乳がん全体の7割程度を占めており、内分泌療法が有効です。

抗エストロゲン薬は、ホルモン受容体陽性乳がんに対して特に卵巣機能が低下した閉経後の女性に高い効果を示します。

タモキシフェン・トレミフェンは乳腺のエストロゲン受容体には遮断薬として働くのに対し、子宮内膜のエストロゲン受容体では作動薬として働くことから、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM:Selective Estrogen Receptor Modulator)と呼ばれています。

タモキシフェンは閉経前・閉経後の両方に使用できます。しかし、卵巣からの女性ホルモンが豊富に分泌されている閉経前の女性では、効果がやや劣る傾向があり、後述するLH-RHアゴニストを併用します。

一方、トレミフェンは閉経後やホルモン療法後に再発した乳がんに使用されます。

フルベストラントは転移・再発乳がんに対して使用される注射薬です。エストロゲン受容体を分解し、エストロゲンのエストロゲン受容体への結合を阻害することで、乳がんの増殖を抑制します。選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD:Selective Estrogen Receptor Downregulator)と呼ばれています。

【副作用】
SERM・SERDともに、エストロゲンを抑えることで、更年期障害に似た症状がみられることがあります。顔のほてり、発汗、のぼせ、関節痛などです。

SERMは子宮内膜への作用により、子宮体がんの発症リスクの上昇が問題となります。特に閉経後女性や長期内服で多くなります。不正出血などの症状があれば、すぐに婦人科を受診してください。

分類名:アロマターゼ阻害薬

乳がんの発生や成長には女性ホルモンのエストロゲンが関与します。閉経後の女性の場合は、副腎からアンドロゲンとよばれる男性ホルモンが分泌され、それがアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換されます。

  • 一般名:アナストロゾール(商品名:アリミデックス)
  • 一般名:エキセメスタン(商品名:アロマシン)
  • 一般名:レトロゾール(商品名:フェマーラ)
 

【作用】
アロマターゼの働きを阻害してエストロゲンの合成を抑え、乳がんの再発や進行を抑制します。

【特徴】
ホルモン受容体陽性乳がんのなかでも、閉経後乳がんの再発や増殖を抑えます。

【副作用】
女性ホルモンのエストロゲンが低下することにより、頭痛やほてり、多汗、めまい、倦怠感などの更年期障害に似た症状が現れることがあります。

またエストロゲンは骨量を維持する働きがありますが、アロマターゼ阻害作用によりエストロゲンが減少することで骨粗鬆症や骨折などが起こりやすくなることがあります。治療中は骨密度などの状態を定期的に観察することが勧められます。

分類名:LH-RHアゴニスト

LH-RHは脳の視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモンです。閉経前の女性では、視床下部からLH-RHが放出されて、脳下垂体の受容体(LH-RH受容体)と結合し、脳下垂体からLH(性腺刺激ホルモン)が分泌されます。LHは卵巣を刺激して、エストロゲンを分泌させます。

  • 一般名:リュープロレリン(リュープリン)
  • 一般名:ゴセレリン(ゾラデックス)
 

【作用】
LH-RHと類似した構造を持つ薬剤です。LH-RHが下垂体のLH-RH受容体を間欠的に刺激するのに対し、LH-RHアゴニストはLH-RH受容体を持続的かつ過剰に刺激します。

その結果、LH-RH受容体は減少し、下垂体からのLH分泌が抑制されます。これにより、卵巣からのエストロゲン分泌量も減少し、乳がん細胞の増殖が抑制されます。

【特徴】
閉経前女性のエストロゲンは主に卵巣で作られます。LH-RHアゴニストは、卵巣からのエストロゲンの分泌を抑えるため、閉経前ホルモン受容体陽性乳がんに使用されます。

注射薬であり、リュープロレリンは、4、12、24週間間隔投与から、ゴセレリンは4週間間隔もしくは12週間間隔投与が選択できます。

LH-RHアゴニストは前立腺がんにも使用されます。

【副作用】
注射部位が赤く腫れたり、痛みを感じたりする注射部位反応を起こすことがあります。

エストロゲンの分泌が低下することにより、更年期様症状が起こることがあります。症状としては、ほてり・のぼせ、発汗、冷え、イライラ、頭痛、肩こりなどです。

前立腺がんに使用される薬

分類名:抗アンドロゲン薬

第一世代

  • 一般名:フルタミド(商品名:オダイン)
  • 一般名:ビカルタミド(商品名:カソデックス)

第二世代

  • 一般名:エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)
  • 一般名:アパルタミド(商品名:アーリーダ)
  • 一般名:ダロルタミド(商品名:ニュベクオ)
 

【作用】
アンドロゲンは、前立腺がん細胞内にあるアンドロゲン受容体と結合して前立腺がんの増殖を促進させます。抗アンドロゲン薬はアンドロゲン受容体に結合することで、アンドロゲンの作用を抑え、前立腺がん細胞の増殖を抑制します。

【特徴】
抗アンドロゲン薬は、フルタミド、ビカルタミドなど昔から使用されてきた第一世代と、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミドの新しく開発された第二世代に分けられます。

第二世代の抗アンドロゲン薬は、前立腺がん細胞内で、アンドロゲンがアンドロゲン受容体と結合しないようにするだけでなく、アンドロゲンと結合したアンドロゲン受容体が核内に移行しないようにしたり、核内でアンドロゲン受容体がDNAと結合しないようにブロックしたりすることで、がん細胞の増殖を抑えます。そのため、第一世代よりも強力にアンドロゲンの作用を抑えます。

第二世代は、第一世代が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんや診断時に骨や内臓などへの遠隔転移のある前立腺がんにも効果があります。

【副作用】
第一世代は、乳房が大きくなる、乳首の腫れや痛みといった女性化乳房と呼ばれる副作用が起こることがあります。また、勃起障害(ED)、性欲減退、ほてり・のぼせなども起こることがあります。

第二世代では、食欲減退や疲労、ほてりなどの副作用がみられます。特徴的な副作用として、けいれん発作があります。主な症状として、意識障害、筋肉のこわばり、つっぱりなどがあります。通常、けいれん発作の多くは数分以内で自然に治まりますが、けいれん発作を認めたら速やかに病院を受診してください。

分類名:LH-RHアゴニスト

視床下部からLH-RHが放出されて、脳下垂体の受容体(LH-RH受容体)と結合すると、脳下垂体からLH(性腺刺激ホルモン)が分泌されます。LHは精巣を刺激して、テストステロンと呼ばれる男性ホルモンを分泌させます。テストステロンはアンドロゲンの一種です。

  • 一般名:リュープロレリン(リュープリン)
  • 一般名:ゴセレリン(ゾラデックス)
 

【作用】
LH-RHと類似した構造を持つ薬剤です。LH-RHが下垂体のLH-RH受容体を間欠的に刺激するのに対し、LH-RHアゴニストはLH-RH受容体を持続的かつ過剰に刺激します。

その結果、LH-RH受容体は減少し、下垂体からのLH分泌が抑制されます。これにより、精巣からのテストステロン分泌量も減少し、前立腺がん細胞の増殖が抑制されます。

【特徴】
LH-RHアゴニストは精巣からテストステロンが分泌されるのを抑える薬です。LH-RHアゴニストによる治療は、手術で精巣を摘出する外科的去勢術と同等の効果が得られると言われています。

前立腺がんの治療では、LH-RH製剤と抗アンドロゲン薬を併用するCAB(combined androgen blockade)療法が行われます。併用することで、より強力に前立腺がん細胞の増殖抑制効果を示します。

【副作用】
注射部位に、硬結と呼ばれるしこりを感じることがあります。予防のため、注射部位を毎回変更し、注射部位をこすったり、触ったり、圧迫したりしないようにしましょう。

投与直後は一過性にテストステロンの濃度が上昇するため、一時的に前立腺がんの症状(骨の痛み、尿が出ない、尿が出にくい、背中が痛い、しびれなど)が悪化することがあります。これをフレアアップ現象といいます。抗アンドロゲン薬の併用により、フレアアップ現象は予防できます。

分類名:LH-RHアンタゴニスト

一般名:デガレリクス(ゴナックス)

【作用】
下垂体のLH-RH受容体を直接阻害して、下垂体からのLHの分泌を抑制します。それにより精巣でのテストステロンの産生が減少し、前立腺がん細胞の増殖を抑えます。

【特徴】
4週ごとあるいは12週ごとに腹部に注射をします。LH-RHアゴニストと違い、投与初期にみられる一過性のテストステロン濃度上昇がないため、フレアアップ現象が起きないことがメリットです。

抗アンドロゲン薬と併用するCAB療法が行われます。

【副作用】
注射部位反応(痛み、しこり、赤み、熱感、腫れ)が起こりやすいです。

男性ホルモンの低下によって起こる副作用として、ほてり、体重増加、勃起障害(ED)、骨粗鬆症などがみられることがあります。

分類名:CYP17阻害薬

一般名:アビラテロン(商品名:ザイティガ)

【作用】
アンドロゲンの合成に必要な酵素であるCYP(シップ)17を阻害することで、精巣、副腎、前立腺がん細胞におけるアンドロゲンの産生を抑えて、前立腺がん細胞の増殖を抑制します。

【特徴】
去勢抵抗性前立腺がんに用いられる薬です。去勢抵抗性前立腺がんはLH-RHアゴニストやLH-RHアンタゴニスト、抗アルドステロン薬による内分泌療法を続けていくうちに、その治療が効きにくくなり、効果が得られなくなったものです。

服用に関していくつかの注意点があります。アビラテロンは、CYP17を阻害することで、アンドロゲンだけではなく、副腎皮質ホルモンの分泌も抑えてしまうため、プレドニゾロンを併用します。

また、アビラテロンは食事の影響を受けやすく、食事の前後に飲んでしまうと薬の吸収が良くなり過ぎて、副作用があらわれやすくなる可能性があります。そのため、空腹時に服用します。具体的には、食事の1時間前から食後2時間までの間を避けます。

【副作用】
肝機能障害を起こすことがあるため、定期的(特に飲み始めは頻回)に肝機能検査を行います。

低カリウム血症や高血圧なども起こります。定期的に採血や血圧測定をすることで副作用の早期発見が可能です。低カリウム血症はひどくなると、筋力が落ちる(力が入りにくい)、筋肉がけいれんする、体がだるい、動悸がはげしいなどの症状を起こします。

関連記事

さいごに

ホルモン薬について、もっと知りたいことや、困っていること、そのほかにもこんな薬剤の記事が見たいなどがあればコメントしてください!

これは役立つぞ!とか現場と違うんだけど…というコメントも大歓迎です。

今回の内容はレバウェル看護公式Instagramにてイラストで簡単に解説しています。投稿はコチラ!

▼連載はバナーをTAP!
medicine
プロデュース
看護師のかげ
看護師、イラストレーター。病棟で働きながら医療・看護に関するコンテンツをさまざまな媒体で発表している。 保健師、呼吸療法認定士、終末期ケア専門士。著書に「看護が苦手なかげさんのイラスト看護帖」(永岡書店)ほか。X:@877_727、Instagram:@877_727
この記事を書いた人
笹川大介(ササガワダイスケ)
薬剤師、株式会社ゆかりファーマシー取締役

熊本大学薬学部を卒業後、2003年より地元・鹿児島県種子島の薬局に就職。その後、2009年より現職。

各地での講演会やセミナーを多数行っており、最近はYouTubeでオリジナル講義「かんたん薬理学」を精力的に配信している。日経DIクイズの執筆者、薬剤師教育動画「描いてつかむ! 副作用の薬理学」出演などの経験を持つ。

お読みいただきありがとうございました!
いいね・シェアで編集部が喜びます

コメント

コメントはありません

コメントする

0 / 500

※ コメントを投稿する際は利用規約をご確認ください

記事の制作について

「レバウェル看護 看護師さん向けお役立ち情報」では、
記事の制作・公開にあたってのポリシーを定めています。
詳細は下記よりご確認いただけます。

看護師さん向けお役立ち情報 コンテンツ制作ポリシー

看護師の転職で「レバウェル看護」が選ばれる理由

看護師から寄せられる“よくある質問”

  • Q. 現役看護師が一番稼げる科はどこ?

    一般的に、高度な医療を提供する診療科や収益の多い診療科・クリニックは、高収入を得られる傾向にあります。病院だと救急救命科やICU(集中治療室)など、クリニックでは美容クリニックや人工透析クリニックなどが挙げられます。「看護師が一番稼げる科はどこ?高年収のクリニック・病院や転職のポイント」では、看護師が稼げる科を、詳しく解説しています。規模別の平均給与や、高収入な職場へ転職する際のポイントも紹介しているので、求人探しの参考にしてください。

  • Q. 看護師がのんびり働ける勤務先は?

    病院であれば緊急対応や体力を消耗する業務が少ない外来や回復期・慢性期病棟。病院の外来やクリニックであれば重症患者の処置が少ない診療科は比較的落ち着いた環境といえるでしょう。自身のペースを大事に働きたい方は、現職の悩みを解決できるような環境・働き方を選ぶことがポイントです。「のんびり働きたい看護師向け!おすすめの職場や病院以外の仕事を紹介」では、のんびり働ける勤務先の条件や、おすすめの職場・診療科、のんびり働ける仕事のメリットやデメリットも解説しています。職場探しの参考にしてください。

  • Q. 看護師1年目で転職しても大丈夫?

    1年目であっても転職は可能です。新卒として入職後3年以内に転職する「第ニ新卒」を歓迎する求人も多数出ている状況です。心身に不調がある場合や、職場でハラスメント・法律違反が横行している場合は、無理せず環境を変えたほうが安心です。「看護師1年目で転職しても大丈夫。病院以外の職場や好印象の退職理由を紹介」では1年目の看護師が転職したくなる理由や、仕事が辛いときの対処法、 おすすめの職場などをまとめています。新人看護師が転職に成功するコツや退職の際の注意点も解説しているので、参考にしてみてください。

  • Q. お礼奉公中でも転職は可能?

    お礼奉公の途中でも、看護師が仕事を辞めることは可能ですが、途中で退職してトラブルに繋がるケースもあるので、辞める場合は注意が必要です。「お礼奉公中だけど辞めたい看護師へ!奨学金に関する疑問に答えます」では、「お礼奉公中の看護師は仕事を辞めても良いか」「途中で辞めると奨学金の支払いはどうなるのか」といった疑問や不安にお答えしています。また、奨学金の一括返済を求められたときや、退職を拒まれたときの対処法についてもご紹介しているので、お礼奉公がネックで前に進めずにいる方は、ぜひ参考にしてください。

レバウェル看護の新着求人

編集部Pick up

人気記事ランキング

タグから記事を探す

キャリア

働く場所

選考対策

資格

その他

読みもの

連載

LINE

レバウェル看護は相談からでもOK!

\ 登録はカンタン1分! /

無料まずは相談してみる