
胃がんは患者さんの身体的・精神的苦痛やストレスの大きい疾患であり、看護師には、さまざまな視点からのアプローチが求められます。
本記事では、胃がんの病態生理や治療、胃がんの治療を受ける患者さんへの看護のポイントについて詳しく解説します。

胃がんは胃粘膜上皮から発生する悪性腫瘍です。日本人の胃がんの罹患率と死亡者数はすべてのがんのなかで3番目に高く、頻度の高い疾患であると言えます。発症時期は60代がピークです。男女別統計では、男性:女性=2:1で男性に多くみられます。
胃がんの発生機序は明らかになっていませんが、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が1つの原因であり、そのほかに塩分過多な食事や刺激物などの食事や喫煙、飲酒、ストレス、また遺伝的素因との関連も示唆されています。
胃がんの分類方法には、深達度別分類、ステージ分類(病期分類)、肉眼的分類の3種類があります。
深達度分類は、がんが胃のどの深さまで広がっているかという分類方法であり、浅い方から順にT1a、T1b、T2、T3、T4a、T4bの6段階に分類されます。
このうち、T1aとT1bを早期胃がん、T2~T4bを進行胃がんと呼びます。
胃がんのステージは、ⅠからⅣまであります。Ⅰ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳの順に進行度が高くなり、予後が悪くなります。
胃がんのステージは、TNM分類(T:がんの深さ、N:領域リンパ節転移の有無、転移がある場合は個数、M:遠隔転移の有無)によって決定します。
T:がんの深さ(T1a~T4bの6段階)
N:領域リンパ節転移の有無と個数
M:遠隔転移の有無
TNM分類の結果から、ステージが以下の表の通りに決まります。
| 胃がんの深さ(T) | 領域リンパ節転移(N) | 遠隔転移(M) | ||||
| N0 | N1 | N2 | N3a | N3b | M1 | |
| T1a・T2b | ステージⅠA | ⅠB | ⅡA | ⅡB | ⅢB | Ⅳ |
| T2 | ⅠB | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | Ⅳ |
| T3 | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | ⅢC | Ⅳ |
| T4a | ⅡB | ⅢA | ⅢA | ⅢB | ⅢC | Ⅳ |
| T4b | ⅢA | ⅢB | ⅢB | ⅢC | ⅢC | Ⅳ |

進行胃がんの評価には、肉眼的分類であるBorrmann(ボールマン)分類を用います。
| 型 | 特徴 |
| 1型(腫瘤型) | 限局性の腫瘤で隆起した形態を示し、周囲粘膜との境界が明確 |
| 2型(潰瘍限局型) | 潰瘍を形成するが、周囲との境界は比較的明瞭 |
| 3型(潰瘍浸潤型) | 潰瘍を形成し、周囲との境界が不明瞭 |
| 4型(びまん性浸潤型) | 胃壁に広くびまん性に浸潤する境界不明瞭ながん著明な潰瘍形成はなく、胃壁の肥厚・硬化を特徴とする |
4型のびまん性浸潤型は「スキルス性胃がん」とも呼ばれ、予後は極めて不良です。
胃がんの転移には、血行性転移とリンパ行性転移、腹膜播種(ふくまくはしゅ)の3種類があります。
胃の血流は、胃静脈を経て門脈へと進むため、血行性転移としては肝転移が最も多くなります。そこからさらに血流に乗って肺や腎臓、骨、脳などに転移することもあります。
がんが胃の周囲のリンパ管に浸潤すると、リンパ液の流れにのって他のリンパ節へ転移します。
がん細胞が胃や腸などを覆っている腹膜への転移を腹膜播種と呼び、その言葉の通り、腹膜内にがん細胞がばらまかれるイメージで転移します。
腹膜播種の診断は審査腹腔鏡検査(腹腔鏡を用いて、直接がん細胞を確認する方法)により行います。
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初期の胃がんでは自覚症状がないことも少なくありませんが、がんが進行すると下記の症状を認めます。
胃がんの診断に必要な検査は以下のとおりです。
この中でも上部消化管内視鏡検査は特に重要で、病変の場所や深さ、大きさ、広がり方などについて情報が得られ、胃がんの確定診断が可能です。また組織の生検もできます。
CTや超音波検査は転移の確認の目的で、また血液検査は腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)や貧血などの確認の目的で実施します。
胃がんの主な治療方法は手術療法や内視鏡的切除です。化学療法を行うこともありますが、胃がんは化学療法への反応性が高くないため、それだけで完治を目指すのは難しいとされています。
胃がんの治療では、粘膜障害などの副作用の観点から原発巣の胃に対し放射線治療が行われることは少ないです。
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手術には、根治術と姑息術があります。
根治術では、胃切除とリンパ節郭清、消化管再建を行います。
胃切除の術式にはさまざまなものがありますが、胃がんは幽門側にできることが多いため、術式も幽門側を切除するものが多いです。
また噴門側にがんが見つかった場合は胃全摘を選択することが多いため、噴門側胃切除術の実施頻度は低いといえます。
胃切除の種類と適応は以下のとおりです。
| 術式 | 手術の方法 | 適応 |
| 幽門側胃切除術 | 噴門は温存し、幽門を含めた胃の2/3以上を切除 | がんが噴門にかからない場合 |
| 胃全摘 | 胃を全摘出する | がんが胃の上部にある |
| 幽門保存胃切除 | 胃の上部1/3と幽門を3~4cm程度温存する | 胃の中部にできた早期がん がんが幽門から4cm以上離れている |
| 噴門側胃切除術 | 胃の上部1/3~1/2程度切除する | 胃の上部にある小さい、あるいは早期胃がんなど |
また「消化管再建」とは、胃切除後に、残胃や十二指腸などを食道と繋ぎ、消化管が機能するように流れを作り変える方法です。代表的な術式には次の2つがあります。
この2つ以外にもビルロートⅡ法や食道十二指腸間空腸間置法などの再建法を選択することもありますが、ビルロートⅠ法やルーワイ法と比較するとメジャーではありません。

姑息手術とは、胃ろうや腸ろうの造設、腸閉塞に対するバイパス手術、がんの減量手術などのことです。完治を目指すのが難しい胃がんに対し、QOLの向上や延命を目的として行います。手術の必要性の判断はもちろんのこと、患者さんの意向が重要です。
がんが小さい場合や浅い場合やリンパ節転移の可能性が低い場合などには、内視鏡的切除が可能です。手術と比較すると侵襲が小さく、患者さんにとってメリットが大きい治療法であるといえますが、出血や穿孔などのリスクも念頭に置かなければなりません。
本章では、胃がんの看護について、術前と術後の看護、退院指導に分けて解説します。
胃がん術前の看護のポイントは以下の3つです。
順に解説します。
胃がん術後に起こる合併症には、全身麻酔や開腹手術による合併症と、胃がん手術そのものによる合併症の2種類に分かれます。
全身麻酔による呼吸器合併症は術前から予防ができるため、呼吸器訓練指導(呼吸器訓練器の使用や腹式呼吸、深呼吸、痰の排出の練習など)や禁煙指導を行いましょう。
また、全身麻酔によるさまざまな合併症(イレウスなど)の予防には術後の早期離床が重要です。術前から、その必要性について指導しましょう。
胃がんによる症状とそれぞれへのケアは次のとおりです。
| 症状 | ケア |
| 心窩部痛・腹部膨満感 | ・医師の指示のもと鎮痛剤を投与する ・セミファウラー位や腹臥位などが腹壁の緊張を和らげられ、安楽な場合がある |
| 嘔吐・吐血 | ・嘔吐時は座位またはファウラー位とし、吐物を誤嚥しないように、必要時口鼻腔吸引を行う ・不快感を軽減するため、口腔ケアを行う ・吐血の場合はおおよその出血量を確認し、医師へ報告する |
| 悪心・食欲不振・貧血 | ・食事内容を工夫する(好きなもの、食べやすいものなど) ・少しずつ食べる |
胃がん手術を前にした患者さんは、不安やがんになってしまったことへのショックなど、さまざまな思いを抱えています。
患者さんの不安が少しでも軽減し前向きな気持ちで治療に臨んでもらうためには、看護師の精神的なケアが重要です。
胃がん術後の看護のポイントは以下のとおりです。
順に解説します。
全身麻酔や開腹手術による合併症には、縫合不全や呼吸器合併症(無気肺や肺炎など)、循環器系合併症(循環血液量減少など)、イレウス、深部静脈血栓症などがあります。
早期離床はあらゆる術後合併症の予防になり、大変重要であることを覚えておきましょう。
イレウス予防や早期離床に関して、詳しくは以下の記事もご覧ください。
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術後の早期離床における看護ケアの方法|目的や早期離床を進める方法も紹介
胃がん術後には、胃の容量の減少や、噴門や幽門の機能喪失により合併症が起こる可能性があります。
注意したい合併症とそのケアは下記の通りです。
| 合併症 | 原因 | ケア |
| 早期ダンピング症候群 | 胃が食べ物を溜められず、急速に小腸へ流れ込むことによって起こる 食後5分~30分程度で動悸、頻脈、めまい、発汗、全身脱力感、腹痛、上腹部不快感、嘔気、下痢などの症状が発生する | ・1回の食事量を減らし、食事回数を多くする(分割食) ・食事は30分くらいかけて、柔らかいものをゆっくり良く噛んで食べるよう指導する ・患者さんの生活リズムに合わせた具体的な食事内容と食事摂取のタイミングについて、本人と家族に指導する(管理栄養士へ協力依頼) ・高たんぱく、低炭水化物を意識した食事とする。鶏ささみや乳製品はダンピング症候群の予防に適している |
| 後期ダンピング症候群 | 食べ物が腸へ移動してから短時間で吸収され一時的に高血糖となった後、インスリンが多く分泌され、今度は反対に低血糖となることにより発生する 【症状】食後2時間~3時間程度で低血糖症状(冷汗、めまい、手指の振戦やしびれ、倦怠感など)が起こる | ・食後はファウラー位で休み、食べ物がゆっくり流れるようにする ・食後2時間~3時間程度経ったら、お菓子や果物類の糖分、お米や餅など間食をとる ・低血糖症状が出現したら、すぐに飴などで糖分を補給する |
| 縫合不全 | ・術後1週間前後で起こりやすい | ・ドレーン排液が漿液性から混濁や浮遊物を認めるようになったら要注意 ・縫合不全による感染兆候がないか観察する(採血データで炎症反応を認める、発熱など) |
| 通過障害 | ・吻合部の一過性の浮腫により起こる・悪心、嘔吐、腹部膨満感が生じる | ・経口摂取は少量ずつにする ・経過観察 ・必要に応じバルーン拡張術などが行われることがある |
| 胃内容物・胃酸逆流 | 胃全摘や噴門側切除による噴門機能の喪失 | ・食直後は臥床せず、ファウラー位をとる ・症状が強い場合、胃粘膜保護薬を使う場合がある |
| 消化能力の低下 | 胃酸、膵液、胆汁の分泌減少により、消化吸収障害が起こる カルシウム・ビタミンD吸収障害による骨代謝障害が起こることもある | ・よく噛んでゆっくり食べる ・調理方法を工夫し、消化吸収しやすくする ・消化酵素剤を投与することもある ・牛肉、乳製品などビタミンDやカルシウムを多く含む食品を摂取する |
| 膵液漏 | ・術中操作により膵臓が傷つき、膵臓と腸のつなぎ目から膵液が漏れる。周りの脂肪組織を自己消化し、腹腔内膿瘍を形成する ・近くの動脈が損傷されると大出血することもある | ・ドレーン排液の性状に注意する(淡血性や漿液性から暗赤色になる、排液中のアミラーゼ値が上昇する) |
| 乳び腹水 | 手術により太いリンパ管が損傷されると、食事開始後に、腸管から吸収された脂肪分がリンパ管から腹水中に流れる | ・ドレーン排液性状に注意する(白色の排液がみられる) |

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胃がんの術後は疼痛を訴える患者さんが少なくありません。
早期離床を促すためにも、積極的に疼痛コントロールを図りましょう。
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開腹手術は、創部感染のリスクを伴います。
感染時には創部からの浸出液の増加や出血、発熱、創部とその周囲の皮膚に発赤や腫脹などが出現します。創部を慎重に観察し、感染の徴候を認めたら医師へ報告しましょう。抗生剤の投与や、創部の開放と洗浄などを行います。
胃がん手術後の看護では、退院指導も重要です。
特に食事指導は十分に行いましょう。具体的には「胃切除による合併症へのケア」のダンピング症候群の項目で紹介した内容を患者さんに指導することになります。
また、胃がん術後の患者さんにおすすめな食べ物と、控えた方が良い食べ物は以下のとおりです。
【おすすめの食べ物】
・鶏ささみ
・乳製品(ヨーグルト、チーズなど)
・白身魚
・豆腐
・卵
・繊維の少ない野菜など
【避けた方が良い食べ物】
・脂っこいもの(天ぷら、揚げ物、洋菓子など)
・脂肪の多い肉(加工肉やバラ肉など)
・貝類、イカ、タコ
・繊維の多い野菜(ゴボウ、レンコンなど)
・炭酸飲料
・アルコール
・香辛料(カレーなど)
・辛いもの(韓国料理など)
食事指導は管理栄養士にも介入を依頼し、個別性を踏まえて指導内容を検討できると良いです。効果的な指導を行うためにも、普段の食生活や誰が食事を用意するのかなどについてあらかじめ情報収集しておきましょう。

食事以外に関して指導したいのは以下の項目です。
退院後は規則正しい生活をし、体力を取り戻しながら少しずつもとの生活に近づけていくように指導しましょう。
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