
スキルアップを目指す看護師のなかには、特定看護師に興味がある方もいるでしょう。特定看護師とは、医師の手順書に基づいて特定行為を行う看護師のことです。この記事では、特定看護師の役割や特定看護師になるための研修期間や費用などを解説。専門看護師・診療看護師との違いや、目指すメリット・デメリットも紹介しますので、今後のキャリアの参考にぜひご覧ください。
特定看護師とは、2015年に厚生労働省が開始した「特定行為に係る看護師の研修制度」を修了した看護師のことです。特定看護師は、国の法律である保健師助産師看護師法第37条2項で定義された制度で、看護師が特定行為研修を修了すると、医師の判断を待たずに一部の医療行為(特定行為)を実施できるようになります。
なお、特定看護師は資格名ではないため名称に規定はありません。研修を修了し、指定の研修機関によって、修了証の交付および厚生労働省に名簿登録を報告された看護師を一般的に特定看護師と呼んでいます。
日本国内では、超高齢社会における医療の高度化や複雑化に伴い、医師の負担軽減や在宅医療体制の整備が進められています。そこで、今後の医療を支えていく看護師を養成するために創設されたのが特定看護師の制度です。
特定看護師の役割は、特定行為を医師が作成した手順書(包括指示)に基づいて実践すること。特定行為には、実践的な理解力・思考力・判断力に加え、高度で専門的な知識・技能が求められます。
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厚生労働省が特定行為に設定している医療行為は21区分38項目で、そのうち特定看護師が実践できるのは研修を修了した特定行為のみです。以下にて、特定行為区分・特定行為の一覧(21区分38項目)を一覧にまとめました。「特定看護師にできることって?」と疑問をお持ちの方は、参考にしてみてください。
| 特定行為区分の名称 | 特定行為 |
| 呼吸器(気道確保にかかるもの)関連 | 経口用気管チューブ、または経鼻用気管チューブの位置調整 |
| 呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | ・侵襲的陽圧換気の設定変更 ・非侵襲的陽圧換気の設定変更 ・人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量調整 ・人工呼吸器からの離脱 |
| 呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 気管カニューレの交換 |
| 循環器関連 | ・一時的ペースメーカの操作および管理 ・一時的ペースメーカリードの抜去 ・経皮的心肺補助装置の操作および管理 ・大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度調整 |
| 心嚢(しんのう)ドレーン管理関連 | 心嚢(しんのう)ドレーンの抜去 |
| 胸腔ドレーン管理関連 | ・低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定および変更 ・胸腔ドレーンの抜去 |
| 腹腔ドレーン管理関連 | 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿せん刺針の抜針を含む) |
| ろう孔管理関連 | ・胃ろうカテーテル、もしくは腸ろうカテーテルまたは胃ろうボタンの交換 ・膀胱ろうカテーテルの交換 |
| 栄養にかかるカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 中心静脈カテーテルの抜去 |
| 栄養にかかるカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
| 創傷管理関連 | ・褥瘡(じょくそう)または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 ・創傷に対する陰圧閉鎖療法 |
| 創部ドレーン管理関連 | 創部ドレーンの抜去 |
| 動脈血液ガス分析関連 | ・直接動脈穿せん刺法による採血 ・橈(とう)骨動脈ラインの確保 |
| 透析管理関連 | 急性血液浄化療法における血液透析器、または血液透析ろ過器の操作および管理 |
| 栄養および水分管理にかかる薬剤投与関連 | ・持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 ・脱水症状に対する輸液による補正 |
| 感染にかかる薬剤投与関連 | 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
| 血糖コントロールにかかる薬剤投与関連 | インスリンの投与量の調整 |
| 術後の疼(とう)痛管理関連 | 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与、および投与量の調整 |
| 循環動態にかかる薬剤投与関連 | ・持続点滴中のカテコラミンの投与量調整 ・持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量調整 ・持続点滴中の降圧剤の投与量調整 ・持続点滴中の糖質輸液、または電解質輸液の投与量調整 ・持続点滴中の利尿剤の投与量調整 |
| 精神および神経症状にかかる薬剤投与関連 | ・抗けいれん剤の臨時の投与 ・抗精神病薬の臨時の投与 ・抗不安薬の臨時の投与 |
| 皮膚損傷にかかる薬剤投与関連 | 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射、および投与量調整 |
参照:一般社団法人看護師の特定行為に係る指定研修機関協議会「特定行為区分とは」
前述のとおり、特定看護師が実践できる特定行為は、どの区分を受講・履修したかによって異なります。特定看護師を目指す際は、事前に実践したい分野を見極めておくことが大切です。
特定看護師と混同されやすい資格に、「認定看護師」「専門看護師」「診療看護師(NP)」があります。ここでは、各資格の特徴をまとめたので、特定看護師との違いをチェックしてみてください。
| 認定看護師 | ・日本看護協会が定める特定の看護分野(A課程21分野、B課程19分野)で「実践」指導」「相談」の役割を果たす ・5年以上の実践経験が必要(そのうち3年以上は特定の認定看護分野) |
| 専門看護師 | ・日本看護協会が定める専門看護分野(14分野)で「実践」「相談」「調整」「倫理調整」「教育」「研究」の役割を果たす ・大学院修士課程修了かつ5年以上の実践経験が必要(そのうち3年以上は専門看護分野) |
| 診療看護師(NP) | ・日本NP教育大学院協議会の認定資格・一定レベルの診療を行える看護師を指す ・5年以上の実践経験かつ看護系大学大学院のNP教育課程の修了か海外のNP免許が必要 |
参照:公益社団法人日本看護協会「認定看護師」、公益社団法人日本看護協会「専門看護師」、NP・NDC研修センター「診療看護師(NP)とは」
特定看護師は研修終了後に更新の必要がないのに対し、認定看護師や専門看護師、診療看護師(NP)資格は、5年ごとの更新が必要です。なお、認定看護師のB課程には、特定行為研修が組み込まれています。すでにA課程を取得している場合でも、特定行為研修を修了後に移行手続きをすることによってB課程の認定看護師になれます。
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特定看護師になるには、指定研修機関で研修を修了しなければなりません。研修が修了すると、筆記試験などの方法で評価され、特定行為研修修了証が交付されます。下記にて特定看護師を目指す際のポイントを見ていきましょう。
特定看護師を目指す看護師は、厚生労働大臣が指定する指定研修機関で講義や演習、実習を受けることが条件となります。特定行為研修は、共通科目と区分別科目で構成されています。「共通科目」では、すべての特定行為区分に共通する知識・技術の向上を図り、「区分別科目」では、特定行為区分ごとに必要な知識・スキルを身に付けるのが特徴です。
受講できる特定行為区分は指定研修機関によって異なり、受講方法もさまざまです。研修は病院やクリニックをはじめ、大学や大学院で行われ、講義と演習にeラーニングを導入している研修機関もあります。研修機関に関して詳しくは「【特定行為に係る看護師の研修制度】指定研修機関について」で検索可能です。なお、日本看護協会で行われている特定行為研修については「本会の特定行為研修受講について」をご覧ください。
特定看護師になるための研修受講資格に実務経験の条件はありません。厚生労働省の「資料2:特定行為研修について(p.2)」によると、特定行為研修では、およそ3~5年以上の実務経験がある看護師の受講が想定されています。
ただし、実務経験が3年以下でも受講・受験資格は与えられるため、絶対条件ではありません。研修受講までの流れや指定研修機関については、厚生労働省「研修受講をお考えの方」で確認できますのでご覧ください。
特定看護師の研修期間の目安は、6ヶ月~24ヶ月とされています。厚生労働省「これからの医療を支える看護師の特定行為研修制度 ご案内」を参考に、共通科目の研修にかかる所要時間をまとめました。
| 研修内容 | 所要時間 |
| 臨床病態生理学 | 30時間 |
| 臨床推論 | 45時間 |
| フィジカルアセスメント | 45時間 |
| 臨床薬理学 | 45時間 |
| 疾病・臨床病態概論 | 40時間 |
| 医療安全学/特定行為実践 | 45時間 |
| 計 | 250時間 |
参照:厚生労働省「これからの医療を支える看護師の特定行為研修制度 ご案内」
特定看護師になるには、上記の共通科目に加えて、特定行為区分ごとの「区分別科目」の研修を5~34時間、特定科目の受講で発生する実習として5~10個の症例を経験する必要があります。なお、特定行為研修には、以下の領域別に特定行為をパッケージ化した「領域別パッケージ研修」も用意されています。
パッケージ研修を活用すれば、特定行為区分ごとの研修に比べて時間を短縮できるため、「働きながら特定看護師を目指したい」「時間の負担を減らしたい」といった人にはおすすめです。
特定行為研修の受講にかかる費用は、指定研修機関や区分別科目にもよります。日本看護協会の受講料を参考にすると、必須の区分別科目は45万2,000円(会員価格)で、特定行為区分は追加料金が発生するようです。
ただし、要件を満たせば「教育訓練給付」「人材開発支援助成金」などの支援制度を利用できる可能性も。また、病院によっては、条件次第で研修費用が全額免除になることも。サポート体制の充実度は職場によって異なるため、状況に応じて転職を視野に入れるのも一つの選択肢といえるかもしれません。
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特定看護師になるには指定研修機関で研修を修了し、試験を受ける必要があるため、難易度が高いと感じる人もいるでしょう。しかし、領域別パッケージ研修として、特定行為研修の一部を免除した研修が用意されていたり、教育訓練制度を活用できたりする場合も。研修を受講する際に実務経験の制限もないため、認定看護師や専門看護師などの資格取得に比べると挑戦しやすいかもしれません。
特定看護師を目指す際に気になるのが、特定行為研修を修了するメリットでしょう。特定行為が可能になると、実際の業務内容や今後のキャリアにどのような影響をもたらすのでしょうか。
特定看護師になると、医師の指示や到着を待たずに手順書に従って処置を行えます。そのため、場面に応じた迅速な処置で患者さんの苦痛軽減を目指せるでしょう。知識やスキルの向上によって適切な言語化が可能になり、看護師としての自信やモチベーションの向上にもつながります。
特定看護師の特徴は、医師と連携しながら、医学的視点で患者さんの処置にあたれることです。医師の思考プロセスや治療方針を深く理解できるようになるため、多職種間のコミュニケーションも円滑になるでしょう。先を見通した柔軟な対応が可能になれば、チーム医療の一員としての役割をさらに発揮できるようになるはずです。
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特定看護師になると、できる業務内容の幅が広がるため、ハイレベルな知識・スキルを持つ人材としてキャリアアップが期待できます。高い専門性を発揮し医療の第一線で活躍すれば、周囲の安心感につながるのはもちろん、高給与の職場への転職も視野に入るでしょう。
特定看護師に限定した募集求人はあまりないものの、転職の際に有利になることはあるでしょう。好条件の職場が視野に入ったり、さまざまな職場で重宝されたりと、自分の市場価値を高める要素になるはずです。
特定看護師は、急性期から慢性期の病院や訪問看護ステーション、クリニックなど幅広い職場で活躍できます。厚生労働省の「資料1 特定行為研修制度の推進について(p.15)」を参考に、特定看護師の就業場所を就業者数の多い順にまとめました。
| 特定行為研修修了者の就業場所 | 就業者数 |
| 病院 | 86.2% |
| 訪問看護ステーション | 5.7% |
| 診療所 | 3.3% |
| 介護保険施設 | 3.0% |
| その他 | 0.7% |
| 看護師等学校養成所または研究機関 | 0.6% |
| 社会福祉施設 | 0.5% |
参照:厚生労働省「資料1 特定行為研修制度の推進について」
特定看護師の活躍事例についてさらに詳しく知りたい人は、日本看護協会の「制度の活用に関する取り組み」も併せてご覧ください。
特定看護師に限らず、自身がスキルアップするためには、一定の時間や費用がかかります。前述のメリットと下記の内容を天秤にかけたうえで、目指すべきか否かを検討しましょう。
特定看護師の研修期間の目安は、6ヶ月~24ヶ月のため、仕事やプライベートとの両立に難しさを感じたり、周囲のスタッフへ申し訳なさを感じたりする看護師もいるかもしれません。研修期間中の対応は、勤務扱いや出張扱い、公休日や有給休暇の使用など職場によって分かれます。
また、研修受講にかかる費用も数十万単位となるため、「職場の補助を使うのか」「職業訓練といった公的な支援制度を使うのか」によって資金準備の手順が変わるでしょう。特定看護師として活躍したい場合は、事前の情報収集をしっかり行う必要があるといえます。
特定看護師の給料や手当の対応は、医療機関によって異なります。場合によっては、昇給や手当の支給がある一方で、夜勤がなくなり年収が下がる可能性もあるようです。特定看護師を目指す際は、将来の環境変化を見据えて具体的な行動計画を立てることが大切といえるでしょう。
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特定看護師として働く際、職場によっては特定看護師の体制や制度が整備されていない場合があります。厚生労働省「資料4特定行為研修制度の推進について(p.23)」によると、就業先で特定行為を実施していない看護師の最たる理由は「活動体制がないこと」です。特定看護師を目指す際は、自身の職場や興味のある職場にキャリアパスが用意されているかを十分に確認することが大切といえます。
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ここでは、特定看護師に向いている人の特徴を紹介します。特定看護師を目指すかどうか悩んでいる人は、以下の項目に該当するかをチェックしてみてください。
特定看護師は病院はもちろん、訪問看護や介護施設での活躍も期待されています。「未経験の分野に挑戦したい」「より有利な条件で転職したい」といった人にも向いているでしょう。転職時は、「組織における特定看護師の配置やビジョンが明確か」「活用環境は整備されているか」などを考慮したうえで求人を選ぶことが大切です。
ここでは、特定看護師の制度に関してよくある質問をQ&A形式で紹介します。
特定看護師と認定看護師の大きな違いは、研修制度か認定資格かという点です。前者は、2015年に厚生労働省が開始した制度で、後者は日本看護協会に認定された看護師を指します。また、特定看護師は認定看護師と異なり、更新の必要性はありません。詳しくは、「特定看護師・専門看護師・診療看護師(NP)の違い」をご覧ください。
特定看護師は、医師の手順書に従って処置を行います。手順書とは、診療の補助を行うための指示が記載された文書または電磁的記録のことです。手順書の記載事項は、各医療現場の判断で追加することが可能です。厚生労働省「特定行為に係る手順書例集」では、実際の手順書の例を確認できるため、チェックしてみましょう。
厚生労働省の「資料1 特定行為研修制度の推進について(p.11)ついて」によると、2024年時点で特定行為研修修了者数は1万1,441名です。人数自体は右肩上がりに増えているものの、「特定行為に係る看護師の研修制度について(p.30)」で厚生労働省が目標としている「2025年時点で約10万人以上」という数値にはまだ及んでいません。そのため、今後も特定看護師のニーズは高まると予想されます。
特定看護師は、医師の手順書に従って、特定行為を実施できる看護師を指します。特定看護師になることで、「医師不在時に迅速な医療を提供できる」「多職種連携を円滑にしチーム医療に貢献できる」といったメリットがあるため、スキルアップを目指す看護師におすすめの制度といえるでしょう。
特定行為研修の受講にかかる費用は決して少なくありませんが、支援制度や職場のサポートを活用することで、負担を軽減できる可能性があります。
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